第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

3 世界各地で発生するテロの動向

 アルジェリアでは、07(平成19)年、首相府などを狙った同時爆破、大統領暗殺未遂事件、海軍沿岸警備隊の兵営での自爆テロ、国連機関の爆破など、政府や軍を標的とするテロが相次いで発生しており、「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ組織(AQIM:Al-Qaeda in the Islamic Maghreb)」1がこれらのテロに関して犯行声明を出した2。また、昨年も警察署の前や警察学校などで爆弾テロが発生している。さらに、同組織の活動範囲はアルジェリア国内にとどまらず、北アフリカ諸国でイスラム過激派を勧誘・訓練し3、その活動を北西アフリカからさらに拡大させようとしているとの指摘もされている4
 イエメンでは、昨年、米国大使館を狙ったとみられるテロが発生したほか、本年3月には観光中の韓国人を巻き込んだ自爆テロが発生している。両事件ともアルカイダ関連組織が実行したものとみられており、00(同12)年のイエメン沖での米駆逐艦「コール」爆破事件以後も、アルカイダおよび関連組織の活動は同国で継続しているものとみられる5
 南アジアは、以前からテロが頻発している地域であり、昨年は、インドで連続爆破テロが複数回発生している6。昨年11月のムンバイ連続テロでは、市内のホテル、レストラン、駅など十数か所で爆破や銃撃が発生し、日本人を含め外国人にも多数の犠牲者を出している。また、パキスタンにおいても、07(同19)年以降、ブット元首相の暗殺や、武装勢力などによる政府機関および軍・警察などの治安機関を標的としたテロが多発している。
 東南アジアは依然として、イスラム過激派などによるテロの脅威が存在している地域であるが、テロ組織の取締りなどに一定の進捗が見られる。インドネシアでは、02(同14)年から05(同17)年にかけてイスラム過激派組織「ジュマ・イスラミーヤ(JI:Jemaah Islamiya)」が関与したとみられる大規模なテロが発生した7が、06(同18)年以降は、このような大規模なテロは発生していない。07(同19)年にJIの最高幹部であるザルカシおよびアブ・ドゥジャナが逮捕されるなど、テロリストに対する取締りの面で一定の成果も見られる。フィリピンでは、共産主義勢力である新人民軍(NPA:New People's Army)が長年にわたり国内治安上最大の脅威になっている。フィリピン政府は、イスラム過激派組織「アブ・サヤフ・グループ(ASG:Abu Sayyaf Group)」に対しては掃討作戦を行い、幹部の殺害や構成員の減少など、一定の成果をあげているが、ASGは、JIとともに、依然として東南アジア地域における脅威と評価されている8。また、フィリピン政府は、イスラム過激派組織「モロ・イスラム解放戦線(MILF:Moro Islamic Liberation Front)」と03(同15)年に停戦協定を締結し、和平交渉を継続していたが、昨年8月以降、再び両者の武力衝突が激化し、和平プロセスは停滞している9
(図表I-1-1-1 参照)
 
図表I-1-1-1 地域別テロ発生件数


 
1)同組織は、「布教と戦闘のためのサラフィスト集団」として98(平成10)年に設立したアルジェリアのイスラム過激派組織だが、06(同18)年9月にアルカイダへの正式加入を表明し、その後現在の名称に変更した。

 
2)アルジェリアでは、90年代、反政府イスラム過激派組織による活動が活発であったが、現在は収束している。

 
3)DNI「年次脅威評価」(本年2月)

 
4)07(平成19)年6月6日、米下院外交委員会でのウェルチ米国務次官補(中東担当)(当時)の証言

 
5)イエメンでは、06(平成18)年以降、「イエメンのアルカイダ」(AQY:Al-Qaeda in Yemen)が勢力を拡大しているとの指摘がある。(英国政府「国際テロリズムに対抗するための英国戦略」(本年3月))

 
6)昨年5月に北部ジャイプール、7月にバンガロールおよびアーメダバード、9月にニューデリー、10月にアッサム州各地で爆破テロが発生しているほか、11月にムンバイで爆破、銃撃などの連続テロが発生している。

 
7)たとえば、02(平成14)年10月、バリ島のクラブ2か所で、爆弾テロが発生し、202人が死亡した。また、05(同17)年10月、バリ島のレストランなどで、連続爆弾テロが発生し、23人が死亡した。

 
8)DNI「年次脅威評価」(本年2月)

 
9)和平交渉の最大の論点である「先祖伝来の土地」問題について、フィリピン政府とMILFの合意文書への署名が、最高裁によって違憲と判断された。その直後、違憲判決を不服とするMILFの一部司令官が一般市民を攻撃したことを契機に、軍とMILFの戦闘が開始され、現在も継続している。


 

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