第III部 わが国の防衛のための諸施策 

1 再編特措法とその概要


(1)地元市町村に対する新たな交付金(再編交付金)の制度化
 再編交付金は、在日米軍の再編を実施する上での負担を受け入れる地元市町村の、わが国の平和と安全への貢献に国として応え、もって在日米軍の再編を円滑に実施するために必要な施策である。
 この再編交付金は、従来から実施してきた基地周辺対策1とは異なる目的で交付されるものであり、再編を実施する前後の期間(原則10年間)において、再編が実施される地元市町村2の住民生活の利便性向上や産業の振興に寄与する事業3に係る経費に充てるため交付される。
 再編交付金は、防衛大臣による防衛施設およびその周辺市町村の指定の後、在日米軍の再編に向けた措置の進み具合などに応じて、当該市町村に交付され、これにより、在日米軍の再編を円滑かつ確実に実施するという政策目的に適った仕組みとしている。

(2)公共事業に関する補助率の特例などの設定
 再編にともない負担の増加する市町村の中で、多数の航空機を保有する部隊が移駐してくることなど、特に負担の著しい市町村においては、大規模な部隊の移駐の影響により、道路や港湾の整備といった公共事業を速やかに実施する必要が生じることがあり得るため、そうした事業に対する補助率の特例などを設けることにより、再編の円滑な実施に寄与することとした。また、こうした事業は、国や都道府県の事業として行われたり、市町村の区域に限定されないことがあり、前述の再編交付金によっては、実施できないことが考えられるため、特に負担の著しい市町村およびその隣接市町村4からなる地域(再編関連振興特別地域)の振興を図るため、特別の措置を定めている。
(図表III-2-2-13 参照)
 
図表III-2-2-13 公共事業に関する補助率の特例(事例)

 その地域振興の仕組みについては、次のとおりである。
○ 防衛省に防衛大臣を議長とする関係閣僚からなる会議(駐留軍等再編関連振興会議5)を設置
○ 都道府県知事による、防衛大臣に対する、再編関連特別地域の指定の申出、道路・港湾などの公共事業を含む振興計画(再編関連振興特別地域整備計画)案の提出
○ 当該申出に基づく、同会議における再編関連振興特別地域の指定、同地域の振興計画の決定に関する審議6

(3)国際協力銀行の業務に関する特例などの措置
ア グアム移転経費の分担
 在沖米海兵隊の県外への移転は、これまで沖縄県民が強く要望してきたものであり、在日米軍の抑止力を維持しつつ、沖縄の負担の軽減につながるこの移転を早期に実現することが重要である。
 このため、わが国から米側に主体的・積極的に働きかけて交渉した結果、グアム移転経費の日米双方の分担について合意に至ったものである。グアムにおいて必要となる施設・インフラの整備を米国のみが行った場合、非常に長期間を要することが予想されるため、わが国は、海兵隊の司令部庁舎、隊舎や家族住宅、インフラなどの整備を支援することとした。その際、わが国は、米国が主張していたような総額に占める割合ではなく、移転にかかわる施設・インフラの所要に基づき経費を分担することとした。
 また、わが国の財政支出をできる限り少なくするため、海兵隊員の家族住宅およびインフラの整備には、民間活力を導入し、出資や融資などにより措置することとした。この事業資金は、米側が支払う家賃や利用料金により将来回収されることになる。
 グアム移転経費の分担額は、検討段階の米側の見積りをもとに合意している概算額であるため、具体的な事業スキームや所要経費の積算の細部について、わが国が主体的に精査していくことが必要不可欠である。このため、予算措置については、引き続き、国際協力銀行も交えて十分な検討を行い、さらに所要経費を縮小するための努力を行った上で実施することとしている。
(図表III-2-2-14 参照)
 
図表III-2-2-14 グアム移転費の内訳

イ 国際協力銀行の特例業務の内容
 海外での長期間にわたる民活事業を適切かつ安定的に実施するためには、この分野に専門的な知見・経験を有する国際協力銀行の活用が必要である。
 このため、再編特措法において、国際協力銀行の業務の特例として、駐留軍再編促進金融業務を追加し、在沖米海兵隊のグアム移転を促進するために必要な事業に係る資金の出資、貸付けなどの業務を行うことができることとした。また、当該業務に対する政府による財政上の措置の特例を定めることとしたものである。
(図表III-2-2-15 参照)
 
図表III-2-2-15 グアムにおける民活事業(事業全体の概念図)

(4)駐留軍等労働者に対する措置
 米軍再編に当たっては、防衛施設の返還、在沖米海兵隊のグアムへの移転などが行われることから、駐留軍等労働者の雇用状況にも影響が生じ得る。
 このため、駐留軍等労働者に対し、雇用の継続に資するよう、技能教育訓練などの措置を講ずることとしたものである。

(5)法律の期限
○ 10年間の時限立法とする。
○ ただし、国際協力銀行の業務に関する特例などの措置については、当該期限に関わらず、当分の間、なお効力を有するものとする。


 
1)「防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律」に基づいて従来から実施してきている障害の防止・軽減などの施策

 
2)再編特措法では、在日米軍の再編の対象である航空機部隊と一体として行動する艦船の部隊の編成の変更(横須賀海軍施設における空母の原子力空母への交替)について、在日米軍の再編と同様に扱う。

 
3)具体的な事業の範囲は、「駐留軍等の再編の円滑な実施に関する特別措置法施行令」第二条において、教育、スポーツおよび文化の振興に関する事業など、14事業が規定されている。

 
4)隣接市町村については、自然的経済的社会的条件からみて、特に負担の著しい市町村と一体としてその振興を図る必要があると認められるものに限ることとしている。

 
5)議長:防衛大臣、議員:内閣官房長官、総務大臣、外務大臣、財務大臣、文部科学大臣、厚生労働大臣、農林水産大臣、経済産業大臣、国土交通大臣、環境大臣および特命担当大臣のうちから内閣総理大臣が指定する者

 
6)駐留軍等再編関連振興会議において審議し、決定された振興計画に基づく公共事業のうち、道路、港湾、漁港、水道、下水道、土地改良、義務教育施設の整備の7事業で、米軍再編による地域社会への影響の内容および程度を考慮して速やかに実施することが必要なものについては、国の負担または補助の割合を通常よりも高く設定する。


 

前の項目に戻る     次の項目に進む