第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

3 フランス


 フランスは本年6月、中長期的な防衛・国家安全保障戦略を示す「国防白書」を14年ぶりに発表した。「国防白書」は、大規模テロやミサイルといった直接の脅威に加え、サイバー攻撃から環境危機に及ぶリスクを挙げ、両者はグローバリゼーションにより相互に連結するようになり、国内外の安全の連続性が戦略的重要性を帯びるようになったとした。フランスと欧州の安定に影響を与える地域としては、大西洋からインド洋に至る地域、サハラ砂漠以南のアフリカ地域、東欧に加えて重要性を増しつつあるアジアを挙げている。国家安全保障戦略の5本柱として、不確実・不安定な現在においては情勢の的確な認識・予測を基礎に、予防、核抑止7、防護、海外介入を挙げ、これらの機能を強化し、柔軟に組み合わせながら今後15年間の戦略環境の変化に対応していくとした。
 対外関係に関してはEUの安全保障面での強化と対北米関係の刷新を掲げ、軍事機構脱退以降の情勢変化、とりわけEUとNATOが補完関係にあることを踏まえNATOの機構への最大限の参加8を提唱した。また、フランス国内においては大統領を議長とする「防衛・国家安全保障委員会」およびその下部組織として国家情報委員会を創設するとした。
 軍事力の整備については、人員の削減を進めつつ防護能力の強化などの運用所要に応えるとともに情報機能の強化と将来に備えた装備の近代化を進めるとしている。


 
7)本年3月の弾道ミサイル搭載原子力潜水艦「ル・テリブル」の進水式で、サルコジ大統領は、核戦力について、核拡散などのリスクが存在する中で死活的利益を侵す国家からの攻撃に対してフランスを究極的に守るものであり、潜水艦発射型と航空機発射型の双方を維持することが不可欠であるとの見解を示した。同時に、航空機発射型核戦力の3分の1を削減することを決定したと発表し、これによりフランスの保有する核弾頭数は300以下となるとした。

 
8)フランスは現在、NATOの防衛計画委員会および核計画グループに参加していない。また、今般の「国防白書」ではNATOの機構への最大限の参加を表明する一方で、1)核戦力の完全な独立、2)情勢判断におけるフランス政府の自立性の確保、3)軍の関与についての判断の自由という原則を維持するとしている。


 

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