第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

2 対外政策


(1)基本姿勢
 90年代より経済の自由化や改革を進めているインドは、好調な経済発展を背景に、多角的かつ積極的な外交を推進しており2、国際社会におけるインドの存在感は確実に高まっている。また、安全保障の分野においても、インドは、全ての友好国家との軍事協力の急速な拡大が、南アジア地域の安全保障環境を強化することのみならず、世界の安全保障を強化することを期待するとしており、近年、多くの国々との間で共同訓練を実施するなど3、軍事交流の進展に努めている。

(2)米国
 インドは、米国との関係強化に積極的に取り組んでおり、米国もインドの経済成長に伴う関係拡大を背景に対印関与を促進していることから、各分野において、双方向で関係が強化されている。
 01(平成13)年11月、バジパイ首相(当時)が訪米した際の米印共同宣言で、両国関係を質的に変化させていくことが確認され、04(同16)年1月には、米印両国は、両国関係を「戦略的パートナーシップ」と位置づけていくことを念頭に、原子力の平和利用、宇宙開発、ハイテク関連貿易の3分野での協力の拡大に合意した。05(同17)年7月には、シン印首相は、米国を公式訪問し、ブッシュ大統領との間で、両国が宇宙、民生用原子力エネルギーおよび軍民両用技術などの分野において協力する「グローバル・パートナーシップ」確立への決意を示す共同声明を発表した。さらに、06(同18)年3月には、ブッシュ米大統領が、米国大統領として6年ぶりにインドを訪問し4、シン印首相との間で戦略的に両国の関係強化を図ることに合意した。
 安全保障の分野においては、05(同17)年6月、ムカジー印国防相(当時)とラムズフェルド米国防長官(当時)が、武器の共同生産やミサイル防衛での協調などの両国の軍事協力拡大に道を開く10年間の防衛関係の指針「米印防衛関係の新たな枠組み」に署名した。06(同18)年3月には、米国防省が、海洋の安全保障を含め、インドとの安全保障協力の推進を表明した5。さらに、本年2月にはゲイツ米国防長官がインドを訪問し、シン首相らと会談した6
 米印間では共同軍事演習などの軍事交流も活発化している。米印両軍は、昨年4月、「マラバール07-1」を沖縄沖で実施、9月にも「マラバール07-2」をインド洋のベンガル湾周辺海域で実施した。「マラバール07-2」には、米印両海軍の空母が参加し、対空戦、対潜戦および対水上戦などを実施するなど、米国との共同演習は質・量ともに充実傾向にある7
 
「マラバール07-2」の模様〔U.S.Navy〕

 民生用の原子力協力については、05(同17)年7月、ブッシュ米大統領は、核兵器不拡散条約(NPT:Treaty on the Non- Proliferation of Nuclear Weapons)未加入国への協力を禁じてきた従来の政策を転換し、インドが軍縮・不拡散上の様々な措置を取ることと引き替えに、米国がNPT未加入のインドに対する民生用原子力協力に向けて努力する旨についてシン印首相と合意した。06(同18)年3月には、ブッシュ米大統領は、インドへの原子力協力に向けた具体的措置についてシン印首相と合意した。さらに、同年12月には、米上下院議会が、国際原子力機関(IAEA:International Atomic Energy Agency)による包括的保障措置が適用されていないインドに対する原子力協力を可能にする米印平和的原子力協力法案を可決し、本法案は同月、ブッシュ大統領の署名により成立した。昨年7月には、米印両国政府は、両国間の民生用原子力協力に関する二国間協定交渉が実質合意に至ったと発表し、同年8月、同協定テキストが両国政府により公表された。同年11月には、インドとIAEAとの保障措置協定交渉が開始された。

(3)中国
 インドは、中国との間では国境問題を抱えており、また、中国の核やミサイル、海軍力を含む軍事力の近代化の動向に対して警戒感を示しているものの、両国首脳による相互訪問を行うなど、対中関係の改善に努めている。03(同15)年6月、バジパイ首相(当時)がインドの首相としては10年ぶりに訪中し、温家宝(おん・かほう)総理との間で、両国間の軍事交流の拡大を含む「二国関係および包括的協力に関する宣言」8に署名した。また、03(同15)年11月には上海沖で初の両国海軍による共同演習も実施された。さらに、04(同16)年3月の曹剛川(そう・ごうせん)国防部長のインド訪問に際し、両国は軍事交流の拡大に合意し、これに基づき、04(同16)年12月には、約10年ぶりとなるインド陸軍参謀長の中国訪問が実現したほか、05(同17)年1月、両国の外務次官級による初の「戦略対話」が開催された。両国は、同年4月の温家宝総理のインド訪問時に、「平和と繁栄のための戦略的・協力的パートナーシップ」9の樹立に合意した。06(同18)年11月には、胡錦濤(こ・きんとう)国家主席が中国の元首として10年ぶりに訪印し、シン首相と会談、両国は中印の戦略的・協力的パートナーシップの発展は重要な共通認識であることに合意するとともに、首脳会談の定例化などを盛り込んだ共同宣言を発表した10。さらに、昨年12月には、初の両国陸軍による共同訓練となる中印対テロ共同訓練が中国の雲南省で実施された11ほか、本年1月には、シン首相が訪中し、温家宝総理との間で、「21世紀の共同展望」を目指す共同文書に署名した12

(4)ロシア
 従来から友好関係にあったロシアとの間では、毎年首脳が相互訪問するなど緊密な関係を維持している。00(同12)年10月、両国は「戦略的パートナーシップ宣言」に署名して関係を強化し、T-90戦車などのロシアからの導入や超音速巡航ミサイルの共同開発を進めてきた13。昨年1月には、ロシアのプーチン大統領(当時)がインドを訪問し、両国の首脳による「共同声明」のほか、原子力発電所建設、全地球衛星航法システム「グロナス」の平和利用に関する政府間協定をはじめとする合意文書に署名した14。昨年11月には、シン首相がロシアを訪問し、プーチン大統領(当時)と会談した15
 インドにとってロシアは主要な兵器の調達先であり16、04(同16)年1月には、ロシアのイワノフ国防相(当時)がインドを訪問し、ロシアの退役空母アドミラル・ゴルシコフの売買契約が締結された。昨年1月にも、イワノフ国防相(当時)はインドを訪問し、軍事技術協力、共同演習などについて協議した17
 また、03(同15)年以降、両国の共同軍事演習が実施されている18

(5)アジア諸国
 1990年代半ばより、インドは、ASEANを含む東アジア諸国との関係強化を図っている。03(同15)年10月には、「東南アジア友好協力条約」(TAC:Treaty of Amity and Cooperation in Southeast Asia)にも署名した19。歴史的な友好国である日本については、「グローバル・パートナーシップ」に基づき、経済や安全保障を含む多くの分野での協力を実施している。
 06(同18)年5月には、ムカジー国防大臣(当時)が訪日し、額賀防衛庁長官(当時)との間で、共同ステートメントを発表し、この中で、防衛協力の分野における対話や協力を深化させることなどについて合意した。


 
2)昨年10月には、第7回中露印外相会談が開催され、3か国外相は、「公正で合理的な国際秩序」構築へ向け連携を強化することで合意した。

 
3)昨年3月から5月にかけて、インド海軍は、艦隊を派遣し、シンガポール、米国、日本、中国、ロシアなどとの間で共同訓練を実施した。

 
4)ブッシュ大統領は、インドは米国の「ナチュラル・パートナー」であると言及した。

 
5)米国は、同協力の目標はインドに見合うだけの防衛力を整備し、能力や技術を提供することであるとし、F-16やF-18戦闘機売却の用意についても表明している。

 
6)ゲイツ米国防長官は、記者会見で、「我々はインドとのミサイル防衛の協議において、非常に初期の段階にある。そして、現時点で、我々はミサイル防衛の領域においてインドが必要とするものは何であるか、両者間のどのような協力がインドでその前進を推進する可能性があるかに関して共同の分析を実施することについて協議を開始しているところである」と発言している。

 
7)06(同18)年10月から11月にかけて行われた「マラバール06」には、米海軍の強襲揚陸艦が参加し、印陸軍兵士、米海兵隊員による着上陸演習が実施された。なお、従来 「マラバール」は、米印の二国間演習であったが、「マラバール07-2」には、日本、豪州およびシンガポールが加わり、5か国が参加した。

 
8)未確定国境問題の解決に向けては、相互に特別代表を任命することで合意した。また、本宣言の中で、インドは、「チベット自治区は中国の領土の一部である」と認めている。

 
9)本合意の中で、中国は、シッキム州がインドの領土であることを認めるとともに、両国は、未画定国境問題の早期解決に向けた努力を継続することに合意している。

 
10)両国は、首脳級会談の定例化に合意し、相互貿易額を2010年までに400億ドルに倍増する目標を設定した。また、投資保護や新たな総領事館の相互設置などに関する合意文書に署名した。

 
11)中国外交部の秦剛(しん・ごう)報道官は、定例記者会見で、「今回の中印対テロ共同訓練の目的は、中印両国、特に両軍間の相互理解と信頼を増進することにあり、双方の対テロ等非伝統的安全保障分野における協力を増進し、共同で『三股勢力』(テロリズム、分裂主義および過激主義)を打撃し、両国の戦略的パートナーシップ関係の発展を促進することにある」と発言している。

 
12)本共同文書の中で、中国は、インドの国連安保理常任理事国入りに対する事実上の支持を明記している。

 
13)04(平成16)年11月には、インドは同ミサイルの艦上発射実験を実施した。

 
14)インドのサラン首相特使は、プーチン大統領が原子炉供給など、民生用原子力分野での協力意思を示したことについて、実施はNSGの規則改正の後になると発言した。

 
15)会談後の共同記者会見でプーチン大統領は、「ロシア、インドおよび中国の3カ国の協力の枠組みには大きな展望がある」と発言した。

 
16)インドの保有する兵器の約7割は旧ソ連およびロシア製とされる。

 
17)両国は、多用途中型輸送機および第5世代戦闘機の共同開発プロジェクトに関する文書に署名した。また、既に締結されている協定の枠組みの中で、T-90戦車、Su-30MKI戦闘機およびMi-17ヘリコプターのインドへの追加提供に関する提案が検討された。両国間では現在共同開発中の巡航ミサイル「ブラモス」の生産力の向上と共に、同ミサイルの空中発射バージョンの開発を目指すことが確認された。また、MiG-29戦闘機用エンジンのライセンス生産の契約に関する政府間協定を締結した。さらに、本年4月および9月に、両国がロシア領内で対テロ共同軍事演習を実施することに合意した。

 
18)03(同15)年以降、共同演習「インドラ」が隔年で実施されている。

 
19)同時に、「印・ASEAN包括的経済協力のための枠組み協定」、「テロとの闘いに関する印・ASEAN共同宣言」に署名した。


 

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