第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

2 米国との関係


 東南アジア諸国の多くは、米国との間で安全保障面での協力関係を築いてきている。
 シンガポールは米国のアジア太平洋におけるプレゼンスを支持してきており、90(平成2)年には、両国は了解覚書を締結し、米国がシンガポール国内の軍事施設を利用することを可能とした。これにより、米軍は中東やアフリカの緊急事態にも迅速に対応できるようになっている。米国は、シンガポールを「主要な安全保障協力パートナー」と位置づけており、05(同17)年7月、両国は、「防衛および安全保障分野でのより緊密な協力パートナーシップのための戦略的枠組み協定」を締結し、反テロ、大量破壊兵器の拡散防止、防衛技術協力、共同軍事演習・訓練、政策対話などの分野における協力の一層の強化に合意した。
 フィリピンと米国の間では、従来から密接な軍事協力関係が維持されている1。00(同12)年以降、両国は大規模な演習である「バリカタン」を再開し、以後毎年実施している。本年2月から3月にかけて行われた「バリカタン08」では、指揮所演習およびミンダナオ島などでの民生支援活動が実施された。このほか米比間では、「バランスピストン」、「タロンビジョン」などの共同演習が実施されている。
 
バリカタン演習における米軍およびフィリピン軍による地元民への医療支援〔U.S.Army〕

 タイと米国は、82(昭和57)年より合同軍事演習「コブラ・ゴールド」を行っており、00(平成12)年以降は多国間演習となっている。米国は、06(同18)9月に起きたタイの軍事クーデターを受け、同国への軍事援助総額約2,900万ドルを停止したが、昨年の「コブラ・ゴールド07」は例年どおり実施され、また、同年12月に総選挙が実施されたことを受け、軍事援助の停止が解除された。本年5月の同演習では、指揮所演習のほか、災害救助、人道支援など、戦闘目的以外の項目についての訓練も行われた2
 03(同15)年には、米国が主導している「テロとの闘い」に積極的に参加していることを評価して、米国はフィリピンとタイを「主要な非NATO同盟国」3に指定している。
 インドネシアとの関係では、05(同17)年2月、米国は92(同4)年以降中断していたインドネシアに対する「国際軍事教育訓練(IMET:International Military Education and Training)」4を再開する意向を表明し、05(同17)年11月には、インドネシアに対する武器輸出の再開を決定した。また、本年2月、ゲイツ米国防長官はインドネシアを訪問し、ユドヨノ大統領およびユウォノ国防大臣と会談し、海賊やテロ対策での協力や軍事協力の強化で合意した。
 ベトナムについては、05(同17)年6月のファン・ヴァン・カイ首相(当時)による米国訪問の際、IMETに関する署名が行われ、両国の軍事協力面において大きな進展が見られた。また、06(同18)年6月には、ラムズフェルド米国防長官(当時)がベトナムを訪問してファム・ヴァン・チャー国防相(当時)と会談し、両国の軍事交流を拡大することで合意しており、06年から07年にかけて、米国防長官のほか、米太平洋軍司令官など米国防関係者が頻繁にベトナムを訪問し、昨年4月には、米国はベトナムに対する武器禁輸措置を部分的に解除した5
 このように、米国は、多国間軍事演習「コブラ・ゴールド」や「協力海上即応訓練(CARAT:Cooperation Afloat Readiness and Training)」6など累次にわたる共同軍事演習や軍事技術供与、軍事援助などを通じ、東南アジア諸国との間で信頼関係を構築し、東南アジア諸国の即応能力の強化に努めている。


 
1)米国は92(平成4)年にフィリピンから米軍を完全撤退させたが、相互防衛条約および軍事援助条約は維持し、99(同11)年に「訪問米軍の地位に関する条約」、02(同14)年には「相互補給支援協定」を締結している。

 
2)本年5月の同演習には、タイ、米国、日本、シンガポール、インドネシアなど21か国が参加した。

 
3)「主要な非NATO同盟国」とは、米国の「1961年対外支援法」と「1987年ナン修正法」により定められたもので、指定国に対し装備品の譲渡など、軍事面での優遇措置を与えるもの。米国との緊密な軍事協力関係を示す象徴的意味合いも大きい。タイとフィリピンのほかには、日本、オーストラリア、イスラエル、韓国、バーレーン、クウェート、パキスタンなど14か国が指定されている。

 
4)IMETは、米国の同盟国および友好国の軍関係者に対し、米国の軍教育機関などへの留学・研修の機会を提供するもの。76(昭和51)年に開始。インドネシアに対しては、インドネシア当局による東ティモール独立運動の弾圧に対する制裁措置として92(平成4)年に停止され、95(同7)年に一部制裁措置が解除されたものの、99(同11)年に再び停止されていた。

 
5)武器国際取引規則(International Traffic in Arms Regulations)を修正し、ベトナムに対する非殺傷性武器の輸出が、個別の許可・承認の条件の下で可能になった。

 
6)海上演習「CARAT」は、米国が東南アジア6か国(ブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ)との間で実施している、一連の二国間演習の総称である。


 

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