第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

4 軍事態勢


1 核戦力


 ロシア軍は、多極的な世界の形成を推進するすう勢の中での国際的地位の確保と、米国との核戦力のバランスをとる必要があることに加え、通常戦力の劣勢を補う意味でも核戦力を重視しており、核戦力部隊の即応態勢の維持に努めていると考えられる。
 戦略核戦力については、ロシアは、老朽化などの理由により、戦略核ミサイルの削減を徐々に進めているが、依然として米国に次ぐ規模の大陸間弾道ミサイル(ICBM:Intercontinental Ballistic Missile)と潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM:Submarine-Launched Ballistic Missile)や長距離爆撃機(Tu-95MSベアー、Tu-160ブラックジャック)を保有している。
 核ミサイルの代替更新に関しては、ロシアは、新規装備の開発・導入の加速化に着手し、05(平成17)年に新型のICBM「トーポリM」(SS-27)の部隊配備を開始している。また、「トーポリM」の多弾頭型とみられている「RS-24」の飛翔実験を昨年より開始している。
 昨年4月には、ボレイ級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN:Ballistic Missile Submarine Nuclear-Powered)を進水させているが、新型SSBNの建造は、全般的に当初の計画から遅延していると考えられる。また、ボレイ級SSBNに搭載されるとみられる新型のSLBM「ブラヴァ」の飛翔実験は05(同17)年9月に始まったが、昨年までの飛翔試験は安定して成功していないとの指摘もあり、未だ配備には至っていない。
 プーチン大統領(当時)は、昨年8月に戦略爆撃機部隊による定期的な哨戒飛行の再開を発表した。これに伴い、ロシアの長距離爆撃機による飛行活動は活発化している。これに対し関係国は、スクランブル対応を行っている。
 米露両国は、戦略攻撃能力削減に関する条約(通称「モスクワ条約」)により、12(同24)年12月31日までに配備核弾頭を1,700〜2,200発(核弾頭の保管分は含まず)まで削減することとされているが、その廃棄プログラムの進展状況について引き続き注目が必要である1。なお、ロシア側の提案により、本年4月、来年失効する第1次戦略兵器削減条約(START I:Strategic Arms Reduction Treaty I)に代わる新たな条約(ポストSTART)についての交渉を開始することで、米露両国は合意した。
 非戦略核戦力については、ロシアは、射程500km以上、5,500km以下の地上発射型短距離および中距離ミサイルを中距離核戦力(INF:Intermediate-Range Nuclear Forces)条約に基づき91(同3)年までに廃棄し、翌年に艦艇配備の戦術核も各艦隊から撤去して陸上に保管したが、その他の多岐にわたる核戦力を依然として保有している2


 
1)02(平成14)年6月のカナナスキス・サミットで、G8は、大量破壊兵器拡散阻止のため、ロシアの化学兵器廃棄、退役原潜の解体、核分裂物質の処分などを支援する費用として、わが国を含め、今後10年間で200億ドルを上限に拠出することを決定した。

 
2)ロシアは、米露以外の国々がIRBMを保有している現状を踏まえ、米露のみが規制されるINF条約からの脱退を示唆していたが、昨年10月には、INF条約のグローバル化を米国と共に国際社会に表明している。


 

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