第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

3 米国との関係


 米中間には、中国の人権問題や大量破壊兵器の拡散問題、台湾問題、貿易問題など、種々の懸案が存在している。また、中国は、米国の「一極化」への動きを警戒しているとみられる。他方で、中国側として、安定的な米中関係は経済建設を行っていく上で必須であり、今後もその存続を望んでいくものと考えられる。
 米国は、国際社会の平和と安定および自由で公正な貿易の拡大が、国際社会の多くの国々と同様、中国にとっても利益であるため、中国が、米国やその他の主要国と協力して、これら共通の利益を擁護する責任を有すると認識している。この様な認識の下、米国は、中国が引き続き経済的パートナーであるとともに、「責任あるステークホルダー(responsible stakeholder)2」となるよう働きかけることを対中政策の目標としている。同時に、米国は、中国は戦略的岐路にある国家であり、長期的には、米国と競争関係になり、その軍事的優位を崩しかねない軍事技術を配備する潜在的能力が最も大きい国家と考えており、中国を国際社会における建設的なパートナーとなるよう働きかける一方、そうした働きかけが失敗した場合に備える必要があると認識している3
 これに対し、中国側は、胡錦濤国家主席が、06(平成18)年4月の訪米時に、米中両国は広範な戦略的利益を共有しており、米中間の建設的協力関係を引き続き推進する旨を表明しており、対米関係の安定を重視する姿勢を示している。
 米中間では、軍事面での交流も進展しており、各種の政策対話が行われているほか、06(同18)年6月には中国が初めて米軍の演習(米太平洋軍演習「バリアント・シールド」)へオブザーバーを派遣、同年9月以降の海軍艦艇の相互訪問の機会には米中両国の海軍による共同訓練が行われている。
 米国は、中国の軍事に関する透明性の欠如は誤解と誤算の可能性を高め安定への危険となるとして懸念しており4、中国との軍事交流の目的については、中国との相互理解を促進することおよびアジア太平洋地域において抑止と安定を維持する米国の決意を中国に伝えることによって紛争を予防することを挙げている5


 
2)「責任あるステークホルダー」については、米国のゼーリック国務副長官(当時)が05(平成17)年9月のニューヨークにおける講演で使用して以来、米国政府の各種文書に引用されている。06(同18)年3月に公表された「国家安全保障戦略」においては、「中国は、グローバルプレーヤーとなるに従って、自らの責務を果たし、中国の成功を可能にした国際システムを進歩させるため米国やその他の国と協力する責任あるステークホルダー(利害共有者)として行動しなければならない。即ち、中国を一世紀にわたる経済的困窮から抜け出すことを助けた国際ルールを執行すること、このようなルール体系と共にある経済的および政治的基準を受容すること、米国および他の主要な大国と共に国際的な安定と安全に貢献することである」とされている。

 
3)「4年毎の国防計画の見直し」(QDR)(06(平成18)年2月公表)

 
4)米国防省「中華人民共和国の軍事力に関する年次報告」(本年3月)

 
5)昨年2月の米中経済安全保障再検討委員会におけるローレス国防副次官(当時)の証言


 

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