第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

2 軍事態勢


 核戦力については、米国は、第1次戦略兵器削減条約(START I:Strategic Arms Reduction Treaty I)に基づく戦略核兵器の削減を、同条約の定める期限である01(平成13)年12月までに完了した。現在の米国の戦略核戦力は、ICBM550基、弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN:Ballistic Missile Submarine Nuclear-Powered)14隻、SLBM432基、戦略爆撃機113機、核弾頭数5,914発となっている。さらに、戦略攻撃能力削減に関する条約(通称「モスクワ条約」)により、実戦配備核弾頭数を12(同24)年末までに1,700〜2,200発に削減することとしている。また、昨年12月、ブッシュ大統領は、同年末までに米国が貯蔵する核弾頭を大幅に削減することを承認した1
 陸上戦力は、陸軍約52万人、海兵隊約19万人を擁し、米国のほかドイツ、韓国、日本などに戦力を前方展開している。陸軍は、長期化するテロとの闘いに対応するため、戦闘部隊と支援部隊を、旅団規模のモジュール化2された部隊に再編成しつつある。海兵隊は、テロとの闘いやイラクにおける軍事作戦で大きな役割を果たしている特殊作戦部隊の充実に努めており、06(同18)年2月には、海兵隊特殊作戦コマンド(MARSOC:Marine Corps Special Operations Command)3が新設されるなど、非正規型戦闘への対処能力の向上に努めている。また、イラクやアフガニスタンでの作戦所要にかんがみて、軍の能力拡大および地球規模でのテロとの闘いにおいて展開している部隊および兵の負担軽減のため、12(同24)年までに陸軍6万5,000人、海兵隊2万7,000人を増員し、現役陸軍兵力を54万7,000人、現役海兵隊兵力を20万2,000人に増員するよう、議会に求めている4
 海上戦力は、艦艇約950隻(うち潜水艦約70隻)約577万トンの勢力を擁し、大西洋に第2艦隊、地中海に第6艦隊、ペルシャ湾、紅海および北西インド洋に第5艦隊、東太平洋に第3艦隊、西太平洋とインド洋に第7艦隊を展開しており、本年7月からは中南米およびカリブ海を管轄区域とする第4艦隊を再び設置すると発表している5。また、06(同18)年のQDRでは、太平洋に少なくとも持続的に作戦運用可能な空母6隻および潜水艦の60%を展開させ、太平洋におけるプレゼンスを強化するとしている。
 
米巡洋艦から制御不能となった偵察衛星を撃墜するために発射されたSM3(本年2月21日)〔米国防省〕

 航空戦力は、空軍、海軍と海兵隊を合わせて作戦機約3,940機を擁し、空母艦載機を洋上に展開するほか、ドイツ、英国、日本や韓国に戦術航空戦力の一部を前方展開している。06(同18)年のQDRでは、新たな地上配備の長距離打撃能力の18(同30)年までの配備、B-52、B-1、B-2爆撃機の近代化、無人機の調達の加速化などにより、通常兵器による攻撃能力の強化を図る一方、空軍の定員を常勤職員約4万人相当削減するとしている。
 遠隔地に部隊を展開する機動戦力についても、C-17輸送機の調達やC-5輸送機の近代化推進によって輸送能力6の向上を図るとともに、各戦域における装備の事前集積に努めている。
 さらに、米国は、11(同23)年、12(同24)年頃までに欧州へのミサイル防衛(MD:Missile Defense)システムの導入を目指すとしており、チェコおよびポーランドとそのシステムの一部をこれらの国に配備するための交渉が行われている7
 また、米軍は情報収集や通信の多くを宇宙システムに依存するようになっている。06(同18)年、米国は国家宇宙政策を発表し、宇宙能力が米国の死活的国益となったとの認識を示した。米国は宇宙利用の自由を確保し、宇宙システムに対する妨害を抑止し、その防護に必要な措置を講ずるとともに、必要に応じて敵対的な宇宙利用を拒否することとしている8


 
1)具体的な削減量は明らかにされていないが、米国が貯蔵する核弾頭は、冷戦終了時の4分の1以下の規模になるとされる。

 
2)陸軍の組織改革は、これまでのピラミッド型の編制(軍、軍団、師団および旅団)を、指揮・統制機能を有する司令部組織と自己完結的な実動部隊(旅団規模)に再編し、任務の目的・規模に応じ、それら司令部組織と実動部隊を組み合わせ、さまざまな事態に迅速かつ柔軟に対応できるようにすることを目的としている。

 
3)司令部は、ノースカロライナ州キャンプ・レジューンに設置されている。なお、海兵隊特殊作戦コマンドの新設に伴い、第4海兵機動展開旅団は現役解除されている。

 
4)イラクやアフガニスタン以外での紛争対処について、ペース統合参謀本部議長(当時)は、両戦域で作戦を遂行していても、米国が巨大な空・海軍力となお多数の予備地上戦力を擁し、国益を守るために圧倒的な戦力を生み出し得ることを潜在的な敵は見誤るべきではないとした。他方、状態の良い装備は前線に留め置かれ本国には要整備損耗品が後送されるので、国内の予備部隊用の装備は不十分であり、また精密誘導兵器が両戦域で集中使用されているため、他戦域での対処は付随被害の大きな無誘導爆弾を用いる旧来型の荒々しいものになるとも指摘した。(06(平成18)年10月24日記者会見)

 
5)第4艦隊は、1950(昭和25)年に一度廃止され、第2艦隊に引き継がれたが、南方軍における海軍力の役割の増大に対処し、また地域のパートナーに対して米国の関与を示すため、再び設置するとしている。(本年4月24日海軍作戦部長発表)

 
6)C-17輸送機は、離着陸性能に優れた大型輸送機で、4,000km以上離れた前線基地に対して約70トンの物資を輸送することが可能である。C-5輸送機は約120トンの物資を搭載して約4,000km飛行した後、搭載物資を降ろしてさらに約900km飛行することができる。

 
7)ロシアは、自国の核抑止能力に否定的影響を与え得るとしてこれらのMDシステムの配備に反対し、本年4月の米ロ戦略枠組み合意でも反対を表明しているが、米国は、MDシステムはロシアに向けられたものではなく、イランによるミサイルの脅威から欧州と他の同盟国を守るためであると説明し、ロシア側の懸念を緩和するための措置を提案している。

 
8)中国は昨年1月、自国の人工衛星を地表から約850km付近の低地球軌道で破壊する実験を、事前公表することなく実施した。米国防省「中華人民共和国の軍事力に関する年次報告」(昨年5月)は、同実験について、宇宙を利用する全ての国家が保有する資産を危険にさらし、空前の数の破片(デブリ)を作り出すことで、有人宇宙飛行に危険を生じさせたと指摘している。
一方、本年2月には、米国は有毒な燃料を積んだまま制御不能となった米偵察衛星の撃墜計画を事前に発表し、同月、太平洋上の特別に改修されたイージス艦から迎撃ミサイルを発射、撃墜に成功した。米国は、今回の迎撃について、衛星が比較的低高度(約247km)の状況で行われたため、破壊された衛星のデブリは、大半が数日から数週間のうちに大気圏に突入して燃え尽きるとした。


 

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