第III部 わが国の防衛のための諸施策 

4 北朝鮮による弾道ミサイル発射とわが国の対応

(1)弾道ミサイル発射の様相

 昨年7月5日、北朝鮮は日本海に向け、計7発の弾道ミサイルを発射した。
 北朝鮮南東部沿岸地域のキテリョンからは、ノドンあるいはスカッドミサイルと見られる計6発の弾道ミサイルが発射され、日本海上に着弾した。発射状況から、今回のミサイル発射は、より実戦的な特徴を有しており、北朝鮮が弾道ミサイル運用能力を向上させてきたことがうかがえる。
 また、7発の内、第3発目は、テポドン2と見られ北朝鮮東部沿岸地域のテポドン地区から発射されたが、発射後、空中分解し、発射地点の近傍に墜落したことから、このミサイル発射については、失敗したものと考えている。

参照>I部2章2節

(図表III-1-2-8参照)
 
図表III-1-2-8 北朝鮮ミサイル発射地域

(2)政府の対応

 北朝鮮のミサイル発射を受け、政府は官邸対策室を設置するとともに、安全保障会議を開催し、今後の対応などについて協議した。午前8時20分、内閣官房長官声明を発表し、北朝鮮に対して厳重に抗議し、遺憾の意を表明した。その際、政府は北朝鮮に対し北朝鮮が日朝平壌宣言8にあるミサイル発射モラトリアム(凍結)を改めて確認し、それに従った行動をとると同時に六者会合へ早期かつ無条件に復帰することを強く求めた。また、同日、万景峰92号の入港禁止、北朝鮮当局の職員の入国の原則禁止、わが国国家公務員の渡航の原則見合わせなどを始めとする具体的な措置をとった。
 また、国際社会における連携として、米国と緊密に連携するとともに、国連安保理への働きかけを行うなどの各種対応をとることとした9
 これら日本の働きかけを受け、06(同18)年7月16日(ニューヨーク時間15日)、北朝鮮の弾道ミサイル発射に関する国連安保理決議第1695号10が採択された。

(3)防衛省・自衛隊の対応

ア ミサイル発射前の態勢
 防衛省・自衛隊は、北朝鮮のミサイル動向について、平素から情報収集に努めており、今回の事案の兆候とも見られる事象も把握してきた。また、日米安全保障体制の下、日米間では平素から必要な情報交換を行っている。
 今回の発射事案については、各種の情報等から総合的に判断し、5月下旬より、防衛庁長官(当時)の命令に基づき、海上自衛隊のイージス艦、電子戦データ収集機EP-3、航空自衛隊のFPS-3改レーダー、運用研究中のFPS-5レーダー、電子測定機YS-11EB、早期警戒管制機
E-767などを投入し、警戒監視態勢を強化していた。
 
運用研究中のFPS-5(開発試作機)レーダ(千葉県)(画面中央下部は隊員)

イ ミサイル発射を受けた防衛庁(当時)・自衛隊の対応
 北朝鮮からの弾道ミサイル発射を受け、額賀防衛庁長官(当時)は、直ちに防衛庁長官指示(「北朝鮮による飛翔体発射事案に関する当面の対応について」)を発出し、国内関係機関や米国をはじめとする関係国との連携を密にしつつ、以下の点について徹底するように指示した。
1) 情報本部を中心に関連情報の分析を進めるとともに、関係部隊による飛翔体の捜索を行い、今回の事案の事実関係の詳細な把握に努めること。
2) 北朝鮮の今後の動向に関し、情報本部や関係部隊は、引き続き情報収集態勢を強化すること。
3) 関係部隊は、更なる弾道ミサイル発射等の可能性に備え、引き続き、警戒態勢を強化すること。
 また、今後の情報収集や対応に万全を期すため、防衛庁(当時)に「北朝鮮による飛翔体発射事案に関する対策本部」11を設置した。
 自衛隊の部隊等においては、警戒監視態勢を強化しつつ、弾道ミサイルが落下した可能性のある海域に艦艇、航空機を派遣し、落下物の捜索活動を行ったほか、被害が発生した場合に備え連絡所を設けるなどの態勢をとった。

(4)教訓と課題

 今回の、北朝鮮の弾道ミサイル発射事案においては、98(平成10)年の北朝鮮の弾道ミサイル発射事案に教訓事項としてあげられた、情報収集・分析・伝達面における態勢強化などに、防衛省として改善に取り組んできた事項が反映され、迅速・的確な情報収集・分析・報告を実施することができたと考えている。
 例として、兆候把握段階から発射段階を通じての情報収集活動により、発射当日の午前中に報道発表や防衛庁長官(当時)による記者会見を実施し、いち早く、ミサイルの種類、発射時刻および落下推定地域等の情報を公表することができ、発射後のわが国政府としての迅速な初動対応に寄与した。
 また、米軍との協力についても、事態発生以前から、情報共有や対処について緊密な連携作業を行っており、総合的に見て、日米の連絡網、情報の共有、対処要領などについて、良く連携がとれていたと判断している。
 一方、弾道ミサイルを直接迎撃するためのBMDシステムの早期の整備や、情報収集・分析体制の強化・充実などが課題としてあげられる。

(5)ミサイル発射事案を踏まえた防衛省・自衛隊の取組など

 北朝鮮のミサイル発射事案に対しては、国際社会と連携しつつ外交努力を推進していくほか、日米同盟の強化および日米間の運用体制や情報共有体制の確立も含めたBMDシステムの早期構築が必要である。
 防衛省・自衛隊では、BMDシステムの整備を計画的に進めているが、今回のミサイル発射事案を受けた新たな追加的施策として、常続的により高い情報収集・分析能力を保有するため、電子戦データ収集機EP-3の改善を行うとともに、弾道ミサイル探知用先進赤外線センサーの研究を推進することとした。
 また、より早期に迎撃態勢の強化を図る必要性から、ペトリオット・システム(PAC-3)のミサイルを、当初の計画よりも早期に取得するなど、対応の強化に努めている。
 運用面においても、独自の検討を進めるとともに米軍との運用協議等を通じて、これら導入したBMDシステムのよりよい運用体制を確立すべく、検討を深化させている。


 
8)日朝平壌宣言
http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_koi/n_korea_02/sengen.html
 
9)北朝鮮による弾道ミサイルの発射事案に係る我が国の当面の対応について
http://www.kantei.go.jp/jp/tyoukanpress/rireki/2006/07/05_a.html
 
10)北朝鮮のミサイル発射に関する国連安保理決議1695の採択について
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/danwa/18/das_0716.html
 
11)その後、名称を「北朝鮮による弾道ミサイル発射事案に関する対策本部」に変更

 

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