第II部 わが国の防衛政策の基本 

2 省移行の意義

1 省移行の意義

 わが国の行政は内閣が担当し、11の「府」や「省」に、財政は財務大臣、外交は外務大臣というように専属的に「主任の大臣」が置かれている一方で、国の防衛は、男女共同参画、北方領土問題、金融などの行政事務とともに内閣府の長である内閣総理大臣が「主任の大臣」となっていた。
 わが国において、重要な政策を担う組織は「省」と位置づけられている一方で、防衛庁は、「庁」たる組織のままであった。
 防衛庁・自衛隊は、国の平和と独立を守るという国家の基本にかかわる役割を担っていた。さらに、後述するように、今日、防衛庁・自衛隊に求められている役割を果たすため、国際平和協力活動などを、新たに自衛隊の本来任務に加える必要があった。
 省への移行は、このような状況にあって、国政の中で重要性を増大させている「国の防衛」の主任の大臣を置き、防衛庁を他の重要な政策を担う組織と同様、「省」に位置づけるものである。省への移行により、「国の防衛」の主任の大臣は防衛大臣となることから、主任の大臣としての指揮監督は、内閣府の長である内閣総理大臣ではなく防衛大臣が行うこととなる。
(図表II-3-2-1参照)
 
図表II-3-2-1 中央省庁の体制の概要

 防衛省への移行には、前述のとおり、1)防衛政策に関する企画立案機能を強化すること、2)緊急事態対処の体制を充実・強化すること、3)国際社会の平和と安定に主体的・積極的に取り組むための体制を整備するという意義がある。
 また、防衛省への移行は、隊員の士気や国民の意識の点からもよい影響があると考えている。
 前述の意義についてより具体的に述べれば、次のとおりである。

(1)防衛政策に関する企画立案体制の強化

 防衛省がこれまで防衛庁とされてきたのは、その主たる業務が「自衛隊の管理」にあると考えられてきたことが、その主な理由であると考えられる。
 かつての防衛庁は、政策の企画立案よりも防衛力整備や人事といった自衛隊の管理的な業務を行うことが主たる役割であった。
 近年、わが国を取り巻く安全保障環境の変化とともに、自衛隊の任務は、わが国の防衛のみならず、国内外での災害対応や、国際平和のための活動など、拡大・多様化し、実際の活動も増加している。
 また、近年、毎年のように防衛に関する重要法案が国会で成立してきているなど、防衛庁は、既に政策を企画立案し、実際に自衛隊に活動させるなど「省」と位置付けるに相応しい組織へと変化していた。
 このように、防衛庁の業務内容の重点が自衛隊の「管理」から「政策の企画立案」に移ってきており、こうした変化にあわせ、主として政策の企画立案機能を担う組織として、「省」と位置づけることが適切な状況になってきた。
 省への移行により、「国の防衛」に専任する「主任の大臣」が置かれることになり、政策官庁に相応しく、防衛大臣が責任と権限を持って、変化する情勢に対応し、法案の作成や自衛隊の運用など多様な政策オプションを提示することが可能となった。これにより、政策の企画立案機能と実行力が強化されることとなった。

(2)さまざまな緊急事態への迅速・的確な対応

 安全保障環境が変化する中、テロ、不審船事案、災害など、多様な緊急事態に際して国民の安全・安心を確保する必要がある。防衛庁・自衛隊として緊急事態対処の重責を果たすため、関係省庁や地方公共団体と協力しつつ、自衛隊の人・組織・装備を活用し、いかなる事態にも迅速・的確に対応する体制づくりが必要である。
 こうした中で、内閣府の外局である防衛庁のままでは、その所掌する法令の制定や自衛隊の重要な活動に関する閣議請議について、防衛庁長官が行うことができず、内閣府の主任の大臣である内閣総理大臣がこれを行っていた。また防衛庁長官は、予算要求や執行などについても財務大臣に直接求めることができなかった。
 省への移行により、以下の点から、わが国の緊急事態対処体制が、より万全なものとなる。

ア 防衛庁長官についても、「国の防衛」に専任する主任の大臣として各省の主任の大臣のように防衛大臣と呼称することとなり、わが国の防衛に関する責任の所在が明確になる。

イ 国家の危機管理に取り組むわが国の姿勢を内外に明確に示すこととなる。

ウ 内閣総理大臣ではなく、その省の長が主任の大臣として直接に以下のような職務を行うことが可能となり、危機管理態勢がより充実し、強化され、多様な緊急事態により迅速、的確に対処することが可能となる。
1) 安全保障や自衛隊に関する法令の制定・改正に当たっての閣議請議や省令の制定
2) 予算の要求や執行を財務大臣に求めることや演習場などの行政財産の取得
3) 海上警備行動など、国民の生命と財産を守る重要な活動について実施の決定を行うための閣議請議

 なお、自衛隊の最高の指揮監督権、防衛出動や治安出動を自衛隊に命ずる権限などの内閣の首長としての内閣総理大臣の権限は、引き続き内閣総理大臣が保有しており、変更はない。
4) 防衛省・自衛隊の主要幹部の人事の承認のための閣議請議
(図表II-3-2-2参照)
 
図表II-3-2-2 省移行による事務手続きの簡素化

(3)国際社会の平和と安定に主体的かつ積極的に取り組む体制の整備

 国際的な安全保障環境の改善に主体的・積極的に取り組むには、自衛隊の持つ能力を今まで以上に活用していくことが重要である。このためには、自衛隊の国際平和協力活動や、安全保障対話および防衛交流を、今まで以上に重要な柱と位置づけた組織としていくことが大きな課題である。
 防衛庁が省に移行することで、後述の本来任務化とあわせ、国の防衛と国際社会の平和の実現に取り組むわが国の姿勢が内外に明確となる。
 最近の在日米軍の兵力態勢の再編などに見られるとおり、同盟国である米国との安全保障・防衛面での政策協議がますます重要となっている。また、信頼醸成や国際平和協力活動における協力などの観点から、諸外国との安全保障に関する協議が頻繁に行われている。
 その一方で、世界各国において国防を担当する行政機関は、すべて「省」または「部」(Ministry, Department)であり、わが国のみが、「庁」(Agency)と位置づけていた。しかも、米国や英国においては、Agencyとは政策の企画・立案を行う省の下にあって、特定の業務を執行する機関を指すものである。
 これまで「庁」であることで、防衛協議や国際的対話、海外で自衛隊が諸外国と協力して活動する場合などにおいて、諸外国の国防を担当する行政機関と対等ではないと対外的に誤解を招く可能性があった。
 省への移行により、諸外国の国防を担当する行政組織と対等な「省」という位置付けになることで、今後は、そのような誤解を招くこともなくなる。また、国の防衛を担う主任の大臣が、諸外国の防衛首脳などと名実ともに同格の行政機関の長同士として協議を行うことにより、信頼醸成や協力関係がさらに深化することとなる。
(図表II-3-2-3参照)
 
図表II-3-2-3 以前の諸外国との協議の状況

 

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