第II部 わが国の防衛政策の基本 

2 弾道ミサイル防衛

(1)導入の経緯

 わが国は03(平成15)年12月、弾道ミサイル防衛システムの導入を決定したが、導入に至るまで政府部内では真剣な議論が行われた。
 防衛省は、新たな安全保障環境の下では、大量破壊兵器を搭載しうる弾道ミサイルはわが国にとって現実的な脅威であると分析していた。
 一方で、弾道ミサイル防衛は、鉄砲の弾を鉄砲で撃ち当てるよりも数段難しいと言われ、極めて高度なレーダー技術と迎撃ミサイルの誘導技術を必要とする。米国においても弾道ミサイル防衛システムの開発は困難なものであった。米国ではレーガン政権以降20年以上の歳月と10兆円にも上る経費をかけて弾道ミサイル防衛に取り組んできた結果、イージス艦搭載の迎撃ミサイルSM-3と地上からの迎撃システムであるペトリオットPAC-3を実用化するなど、弾道ミサイルを迎撃する能力を保有するに至った。
 これらを受け、わが国においても、防衛省をはじめとして弾道ミサイル防衛システムを導入すべきか否かの検討が活発化した。
 また、日米間には解決すべきさまざまな問題があった。米国の生産能力に限界がある中、日本に対し弾道ミサイル防衛能力を配備することができるか、日米間の情報共有をどうするか、その他日米共同の運用構想をどうするか、などである。
 防衛省と米国防省との協議など日米両政府間での協議の結果、米国は日本へ弾道ミサイル防衛能力を配備する、情報は然るべく共有する、日本として主体的に弾道ミサイル防衛を行うこととしつつも、日本防衛に万全を期すべく日米共同で運用を行う方向で検討するということでまとまった。
 最終的には、約半年にわたる政府部内での議論を経て、政府は03(平成15)年末に導入を決定した。

(2)導入計画の前倒し

 防衛省は、弾道ミサイルの脅威から国民の安全、安心を確保するため、従来から、弾道ミサイル防衛システムの早期配備に向けてさまざまな検討を行ってきた。昨年7月の北朝鮮による弾道ミサイルの発射など昨今の情勢を踏まえ、さらなる検討を行った結果、平成23年3月末を目途に完成する予定であったペトリオットPAC-3の16個高射隊体制について、平成22年前半までに完成することが可能であるとの見通しを得ている。
 また、SM-3搭載イージス艦についても、BMD改修1番艦「こんごう」の整備完了が平成20年3月頃とされていたところ、米国との調整を行った結果、平成19年12月に整備を完了する予定となっている。その他のSM-3搭載イージス艦の配備の前倒しについても、米国と調整を行っており、今後、具体的な配備時期を確定していく予定である。防衛省は、今後とも、BMDシステムの早期配備について不断に検討を行っていきたいと考えている。
 
発射されるSM−3[米国防省]

(3)米軍PAC-3などの配備

 相当の弾道ミサイル対処能力を持つ米軍部隊をわが国に可能な限り早期に配備することは、わが国の防衛上有効である。わが国は、弾道ミサイル攻撃から国民の安全を確保するため、従来から、米国との弾道ミサイル防衛協力を推進すべく全力で取り組んできた。その具体的な成果として、昨年6月には、青森県の航空自衛隊車力分屯基地に、米軍のBMD用移動式レーダー(AN/TPY-2:いわゆる「Xバンド・レーダー」)が配備され、同年8月末には、BMD能力搭載イージス艦「シャイロー」が横須賀港に入港し、さらに、同年9月以降、米軍PAC-3が沖縄県の嘉手納飛行場などに配備された。
 今後も、弾道ミサイル防衛に関しては、わが国自身による防衛能力の早期確保に全力を挙げるとともに、米国とも緊密に連携をとっていくこととしている。
 
発射されるペトリオットPAC-3ミサイル

 

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