第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

4 南沙群島

 南沙群島は、南シナ海の中央に位置し、約100の小島と岩礁からなる。この群島の周辺は、石油、天然ガスなどの海底資源の存在が有望視されるほか、豊富な漁業資源に恵まれ、また、海上交通の要衝(ようしょう)でもある。この群島に対しては、現在、中国、台湾とベトナムが全部の、また、フィリピン、マレーシアとブルネイがその一部の領有権を主張している。この群島をめぐり、88(昭和63)年には、中国とベトナムの海軍が武力衝突し一時緊張が高まったが、その後、大きな武力衝突は生起していない。しかし、中国に対しては、92(平成4)年の領海法制定、95(同7)年のミスチーフ礁における建造物構築やその後の同建造物拡充などに関して、各国が反発している。また、99(同11)年には、マレーシアが新たな建造物を構築しているとして、フィリピンが抗議を行うなど、ASEAN諸国内での立場の違いも存在する。
 この問題に関しては、当初、中国は、二国間交渉を主張してきたが、その後、関係国全体として平和的な解決を目指す動きも見られるに至った。ARF閣僚会合の議長声明においても、この問題の平和的解決を図る各国の努力を歓迎する旨、毎年言及されているほか、ASEAN諸国は、新たな礁の占拠禁止などを内容とする「南シナ海における地域行動規範」草案を取りまとめた1。他方、02(同14)年11月、ASEANと中国の首脳会議で、領有権問題の平和的解決へ向けた「南シナ海における関係国の行動宣言」2が署名された。
 近年、中国は、主権問題を棚上げした形で、同群島海域での資源開発を優先するよう関係国に対して積極的に働きかけている。04(同16)年9月、フィリピンとの間で南沙群島海域での共同油田探査に合意したのに続き、05(同17)年3月、フィリピン、ベトナムとの3か国で南シナ海における石油・天然ガスの共同探査を開始することに合意した。また、05(同17)年7月には、ASEAN外相会議において、ASEANと中国の間で南シナ海海域での資源開発に関する共同作業部会の設置が決定されている。しかしながら、南沙群島をはじめとする南シナ海では、依然として領有権をめぐる各国の主張は対立していることから、引き続き関係国の動向や問題解決に向けた協議の行方が注目される。


 
1)「南シナ海における地域行動規範」草案は、99(平成11)年のASEAN・中国事務レベル協議において提案され、作業部会において協議が継続されているが、細部について意見の隔たりが大きく策定に至っていない。
 
2)「南シナ海における関係国の行動宣言」には、南シナ海における問題を解決する際のおおまかな原則について明記されているが、政治宣言であり、法的拘束力はないことから、より具体的な行動を定め、かつ法的拘束力を有する「南シナ海における地域行動規範」の策定に努力する旨も明記されている。

 

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