第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

2 軍事

1 全般

 中国は、国家の安全保障のための基本的目標と任務として、国家主権、領土、海洋権益を守り、経済と社会の発展を促進し、総合的国力を継続して増強することを挙げている。こうした目標と任務を達成するため、中国は、経済建設とバランスの取れた国防建設を進めることとしている。また、90年代以降、湾岸戦争やコソボ紛争、イラク戦争などにおいて見られた世界の軍事発展のすう勢に対応し、情報化戦争に勝利するという軍事戦略1に基づいて、「中国の特色ある軍事変革」を積極的に推し進めるとの方針をとっている。人民解放軍の戦力については、兵員数や装備品の数量は世界最大規模であるものの、旧式な装備も多く、火力・機動力などにおいて十分な武器などが全軍に装備されているわけではないため、引き続きその近代化が推進されている。具体的には、陸軍を中心とした兵員の削減と核・ミサイル戦力や海・空軍を中心とした全軍の近代化を進めるとともに、高い能力を持つ人材の育成および獲得に努めている。また、各軍・兵種間の統合作戦能力の向上にも重点を置いている。
 中国の急速な軍事力近代化の当面の具体的な目標については、台湾問題への対応を中心とするものと考えられる2。しかし、中国の急速な発展と軍事力の近代化が長年にわたって続いていることや軍事力の透明性の欠如を背景として、中国の軍事力近代化の目標が台湾問題への対応などを超えるものではないかとの議論が惹起(じゃっき)されるなど、中国の軍事力近代化の行方に関する懸念が高まっている3。中国は軍事力近代化を国家の近代化の一環としてとらえており4、地域の大国として着実に成長し続ける中国の軍事力近代化が地域情勢およびわが国の安全保障に与える影響について、慎重に分析していく必要がある。


 
1)中国は、以前は、世界的規模の戦争生起の可能性があるとの情勢認識に基づいて、大規模全面戦争への対処を重視し、広大な国土と膨大な人口を利用して、ゲリラ戦を重視した「人民戦争」戦略を採用してきた。しかし、軍の肥大化、非能率化などの弊害が生じたことに加え、世界的規模の戦争は長期にわたり生起しないとの新たな情勢認識に立って、1980年代前半から領土・領海をめぐる紛争などの局地戦への対処に重点を置くようになった。また、91(平成3)年の湾岸戦争後は、ハイテク条件下の局地戦に勝利するための軍事作戦能力の向上を図る方針がとられてきたが、近年は情報化軍隊を実現し、情報化戦争に勝利することを戦略目標としている。
 
2)例えば、昨年12月に発表された「2006年の中国の国防」は、中国の国防政策の内容として、「『台湾独立』分裂勢力及びその活動に反対し、抑止する」ことを挙げている。
 
3)本年1月に公表された米国の「国家情報長官年次脅威評価報告」は、「中国は1999年に開始された急速な軍事力近代化を継続している。中国の偉大な国になりたいという欲求、脅威認識、および安全保障戦略は、台湾問題が解決した後も、この軍事力近代化の努力を継続させるだろう。」としている。
 
4)中国は、軍の近代化は「国家の全体的な計画に依拠」するものとしており、党創立100周年である2020年頃と国家建国100周年である2050年頃を国家と軍の近代化の目標時期として設定している。中国は、2020年頃までに、国家については「十数億の人口にメリットをもたらす、より高いレベルのいくらかゆとりのある社会を築き上げ」、軍については「(2010年までに築いた基礎の)さらに大きな発展を成し遂げ」るとし、2050年頃までに、国家については「1人あたりの国内総生産(GDP)が中程度の発展をとげた国のレベルに達し、現代化を基本的に実現」し、軍については「情報化軍隊を建設し、情報化戦争に勝利するという戦略目標を基本的に達成する」としている。(02(平成14年)に改正された中国共産党規約および「2006年の中国の国防」白書)

 

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