第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

2 韓国

1 全般

 韓国では、87(昭和62)年の憲法改正による大統領直接選挙制導入などを経て、現在民主化が定着している。03(平成15)年2月に発足した盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権は、対北朝鮮政策において、金大中(キム・デジュン)前政権の「包容政策」の考え方を継承する「平和繁栄政策」を掲げている。
 朝鮮戦争の停戦以降、現在に至るまで陸軍を中心とする米軍部隊が駐留している韓国は、米韓相互防衛条約を中核として、米国と安全保障上極めて密接な関係にある。一方、南北関係の進展、韓国の国力の向上、米国の戦略の変化などを踏まえ、両国は、在韓米軍の再編や米韓連合軍に対する戦時の作戦統制権1の韓国への移管などの問題の解決に努めている。在韓米軍の再編問題については、03(同15)年、ソウル中心部に所在する米軍龍山(ヨンサン)基地のソウル南方の平沢(ビョンテク)地域への移転や漢江以北に駐留する米軍部隊の漢江(ハンガン)以南への再配置などが合意されたが、平沢地域への移転は、用地買収の遅れなどにより、08(同20)年末という目標期限の実現は困難な状況となっている。戦時作戦統制権の移管問題については、両国は、本年2月の米韓防衛首脳会談において、12(同24)年4月17日に米韓連合軍司令部を解体し、戦時作戦統制権を韓国に移管することに合意した。今後、「韓国軍が主導し米軍が支援する」新たな共同防衛体制への移行が、後述するように韓国軍による兵力の大幅削減が同時に進行する中で、朝鮮半島における抑止力を減じることなく実施されていくか注目していく必要がある。
 韓国は、米国などによるアフガニスタンでの軍事作戦を支援するため、引き続き、医療支援団や工兵部隊を派遣している。また、米国の要請を受けてイラクに派遣中の部隊については、部隊規模を当初の約3分の1の1,200人以内まで縮小して派遣を継続しているが、年内に、他の派遣国の動向などを総合的に考慮し、イラク派遣部隊の「任務を成功裏に終了する計画を樹立する」としている。
 韓国と中国との間では、99(同11)年8月の趙成台(チョ・ソンテ)国防部長官(当時)による初の訪中と00(同12)年1月の遅浩田(ち・こうでん)国防部長(当時)による初の訪韓を経て、艦艇や航空機による相互訪問が行われるなど軍事交流を進展させるための努力がなされている。05(同17)年3月の韓国国防部長官による01(同13)年以来の訪中および昨年4月の中国国防部長による00(同12)年以来の訪韓を経て、本年4月には、金章洙(キム・ジャンス)国防部長官が訪中し、曹剛川(そう・ごうせん)国防部長との間で、両国の海・空軍間におけるホットラインの設置などについて話し合われた。また、03(同15)年7月の韓中首脳会談では、韓中関係を従来の協力パートナーシップから全面的協力パートナーシップに発展させることが合意されている。しかしながら、両国の安全保障分野における関係は、経済を始めとする他の分野に比べ、初歩的なレベルにとどまっている。
 韓国とロシアとの間では、近年、軍高官の交流や艦艇の相互訪問などの軍事交流が行われている。03(同15)年4月のイワノフ国防相(当時)による訪韓や05(同17)年4月の尹光雄(ユン・グァンウン)国防部長官(当時)による訪露の際には、軍事交流の促進のほか、軍事技術、防衛産業、軍需分野の協力について改めて合意された。また、04(同16)年2月には初めて両国海軍による捜索救難訓練が行われ2、同年9月の韓露首脳会談では、両国関係が「建設的かつ相互補完的なパートナーシップ」から「相互に信頼する包括的パートナーシップ」の段階に入ったと位置づけられた。さらに、韓国は、95(同7)年以降、対露借款の償還の一環として、ロシアから戦車や装甲車などを輸入している。


 
1)米韓両国は、朝鮮半島における戦争を抑止し、有事の際に効果的な連合作戦を遂行するための米韓連合防衛体制を運営するため、78(昭和53)年より、米韓連合軍司令部を設置している。米韓連合防衛体制の下、韓国軍に対する作戦統制権については、平時の際は韓国軍合同参謀議長が、有事の際には在韓米軍司令官が兼務する米韓連合軍司令官が行使することになっている。
 
2)韓国海軍は、03(平成15)年8月、ロシア太平洋艦隊が主催する共同捜索救難訓練に艦艇1隻を派遣したが、これは多国間演習の一環としての訓練であった。韓露二国間の艦艇による捜索救難訓練は、本訓練が初めてとなる。

 

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