1 わが国の弾道ミサイル防衛
(1)BMDシステム整備の概要
ア 基本的考え方
03(同15)年12月の閣議決定以降、わが国が整備を進めているBMDシステムは、現在自衛隊が保有しているイージス艦
1と地対空誘導弾ペトリオット・システムの能力を向上させ、イージス艦による上層での迎撃とペトリオット・システム(PAC-3:Patriot Advanced Capability-3)
2による下層での迎撃を行う多層防衛の考え方を基本としている。
イ BMDシステムの構成
わが国のBMDシステムは、飛来する弾道ミサイルを、イージス艦によりミッドコース段階において、またペトリオット・システムによりターミナル段階において、それぞれ迎撃する多層的なウェポンシステムを採用している。そしてこれに、わが国に飛来する弾道ミサイルを探知・追尾するセンサー、さらにウェポンとセンサーを効果的に連携させて組織的に弾道ミサイルに対処するための指揮統制・通信システムを加えて、全体のシステムが構成されている。
(図表III-1-2-2参照)
ウ BMDシステム整備の方針
整備にあたっては、取得・維持に係るコストを軽減しつつ、効果的・効率的なシステムの構築を図るとの観点から、現有装備品の活用を掲げている。先述のイージス艦とペトリオット・システムの能力向上をはじめ、センサーについても、現有の地上レーダーの能力向上型を活用するほか、新たに整備を開始したレーダーFPS-5
3も従来型の経空脅威(航空機など)と弾道ミサイルの双方に対応できる併用レーダーである。また指揮統制・通信システムとしての自動警戒管制システムについても同様である。
エ BMDシステム整備の状況
本年3月、航空自衛隊入間基地(埼玉県)に所在する第1高射群第4高射隊に、わが国のBMDシステムを構成する初の迎撃手段として、ペトリオットPAC-3が配備され、同年4月13日には、安倍内閣総理大臣が同システムを視察した。防衛省・自衛隊は、引き続きBMDシステムの整備を進めることとしており、11(平成23)年度をもって、イージス艦(BMD機能付加):4隻、ペトリオットPAC-3:16個FU
4(高射隊分)、FPS-5:4基、FPS-3改(能力向上型):7基を指揮・通信システムで連接したシステムを構築することを当面の目標としている。
本年度予算においては、BMD関連経費として、1)イージス艦の能力向上とSM-3ミサイルの取得・発射試験、2)ペトリオットシステムの能力向上とPAC-3ミサイルの取得、3)新たな警戒管制レーダー(FPS-5)整備など、総額約1,572億円(契約ベースの金額)を計上している。
また、昨年7月の北朝鮮の弾道ミサイル発射事案を踏まえ、情報収集・警戒監視態勢の強化を図るための追加的施策として約37億円(契約ベースの金額)を計上している。
なお、昨年度補正予算において、PAC-3ミサイルの早期取得や、電子戦データ収集機(EP-3)の改善など、総額約142億円(契約ベースの金額)を計上している。
(2)将来の能力向上
依然として弾道ミサイル技術の拡散は進展しており、各国が保有する弾道ミサイルも将来的には、デコイ(囮(おとり))を用いて弾頭の迎撃を欺瞞(ぎまん)するなど、迎撃回避措置を備えたものになっていく可能性は否定できない。このような弾道ミサイルの先進化に対応すべく、継続的な能力向上を図っていくことが必要である。
また、従来型の弾道ミサイルに対しても、一つのシステムが防護できる範囲の拡大や迎撃確率を向上することなどが求められ、迎撃ミサイルの運動性能の向上などを図り、BMDシステムの効率性・信頼性の向上に取り組んでいくことが必要である。
このような観点から、中期防においては、来年度以降(防衛大綱の別表に掲げる体制を整備した後)のイージス艦とペトリオットシステムの能力向上のあり方について、「米国における開発の状況などを踏まえて検討の上、必要な措置を講ずる」こととしている。また99(同11)年に開始した日米共同技術研究については、これまでの研究成果を踏まえ、06(同18)年から共同開発を開始し、さらに、レーダーや戦闘指揮システムの能力向上を図るための日米共同研究を行うなど、将来の能力向上に努めている。
(図表III-1-2-3・4参照)
1)目標の捜索、探知、分類識別、攻撃までの一連の動作を高性能コンピューターによって自動的に処理するイージス防空システムを備えた艦艇をいう。
2)ペトリオット・システムPAC-3は、経空脅威に対処するための防空システムの1つであり、主として航空機を迎撃目標としていた従来型のPAC-2と異なり、主として弾道ミサイルを迎撃目標とするシステムである。
3)弾道ミサイルの探知・追尾を可能とするもので、平成11年度より開発(旧称:FPS-XX)
4)fire unit(対空射撃部隊の最小射撃単位)