3 対外政策
(1)米国
インドは、米国との関係強化に積極的に取り組んでおり、米国もインドの経済成長に伴う関係拡大を背景に対印関与を促進していることから、各分野において、双方向で関係が強化されている。
01(同13)年11月、バジパイ首相(当時)が訪米した際の米印共同宣言で、両国関係を質的に変化させていくことが確認され、04(同16)年1月には、米印両国は、両国関係を「戦略的パートナーシップ」と位置づけていくことを念頭に、原子力の平和利用、宇宙開発、ハイテク関連貿易の3分野での協力の拡大に合意した。05(同17)年7月には、シン印首相は、米国を公式訪問し、ブッシュ米大統領との間で、両国が宇宙、民生用原子力エネルギーおよび軍民両用技術などの分野において協力する「グローバル・パートナーシップ」確立への決意を示す共同声明を発表した。さらに、昨年3月には、ブッシュ大統領が、米国大統領として6年ぶりにインドを訪問し
2、シン印首相との間で戦略的に両国の関係強化を図ることに合意した。
安全保障の分野においては、05(同17)年6月、ムカジー印国防相(当時)とラムズフェルド米国防長官(当時)が、武器の共同生産やミサイル防衛での協調などの両国の軍事協力拡大に道を開く10年間の防衛関係の指針「米印防衛関係の新たな枠組み」に署名した。さらに、昨年3月には、米国防省が、海洋の安全保障を含め、インドとの安全保障協力の推進を表明した
3。
米印間では共同軍事演習などの軍事交流も活発化している。昨年10月から11月にかけて、米印両軍は、海軍共同演習「マラバール06」をゴア沖のアラビア海で実施した。同演習には、米海軍の強襲揚陸艦が参加し、印陸軍兵士、米海兵隊員が着上陸演習を実施するなど、米国との共同演習は質・量ともに充実傾向にある
4。
民生用の原子力協力については、05(同17)年7月、ブッシュ米大統領は、核兵器不拡散条約(NPT:Treaty on the Non- Proliferation of Nuclear Weapons)未加入国への協力を禁じてきた従来の政策を転換し、NPTに加入せず核実験を実施したインドへの民生用原子力協力についてシン印首相と合意した。昨年3月には、ブッシュ米大統領は、インドへの原子力協力を実施に移すことでシン印首相と合意した。さらに、同年12月には、米上下院議会が、国際原子力機関(IAEA:International Atomic Energy Agency)による包括的保障措置が適用されていないインドに対する原子力協力を可能にする米印平和的原子力協力法案を可決し、本法案は同月、ブッシュ大統領の署名により成立した。なお、インドに対する国際的な原子力協力の実施には、原子力供給国グループ(NSG:Nuclear Suppliers Group)のガイドラインとの調整などが必要とされている。
(2)中国
インドは、中国との間では国境問題を抱えており、また、中国の核やミサイル、海軍力を含む軍事力の近代化の動向に対して警戒感を示しているものの、両国首脳による相互訪問を行うなど、対中関係の改善に努めている。03(同15)年6月には、バジパイ首相(当時)がインドの首相としては10年ぶりに訪中し、温家宝(おん・かほう)首相との間で、両国間の軍事交流の拡大を含む「二国関係および包括的協力に関する宣言」
5に署名した。また、03(同15)年11月には上海沖で初の両国海軍による共同演習も実施された。さらに、04(同16)年3月の曹剛川(そう・ごうせん)中国国防部長のインド訪問に際し、両国は軍事交流の拡大に合意し、これに基づき、04(同16)年12月には、約10年ぶりとなるインド陸軍参謀長の中国訪問が実現したほか、05(同17)年1月、両国の外務次官級による初の「戦略対話」が開催された。両国は、同年4月の温家宝中国首相のインド訪問時に、「平和と繁栄のための戦略的・協力的パートナーシップ」
6の樹立に合意した。昨年11月には、胡錦濤(こ・きんとう)国家主席が中国の元首として10年ぶりに訪印し、シン首相と会談、両国は中印の戦略的・協力的パートナーシップの発展は重要な共通認識であることに合意するとともに、首脳会談の定例化などを盛り込んだ共同宣言を発表した
7。
(3)ロシア
従来から友好関係にあったロシアとの間では、毎年首脳が相互訪問するなど緊密な関係を維持している。00(同12)年10月、両国は「戦略的パートナーシップ宣言」に署名して関係を強化し、T-90戦車などのロシアからの導入や超音速巡航ミサイルの共同開発を進めてきた
8。本年1月には、ロシアのプーチン大統領がインドを訪問し、両国の首脳による「共同声明」のほか、原子力発電所建設、全地球衛星航法システム「グロナス」の平和利用に関する政府間協定をはじめとする合意文書に署名した
9。
インドにとってロシアは主要な兵器の調達先であり
10、04(同16)年1月には、ロシアのイワノフ国防相(当時)がインドを訪問し、ロシアの退役空母アドミラル・ゴルシコフの売買契約が締結された。本年1月にも、イワノフ国防相(当時)はインドを訪問し、軍事技術協力、共同演習などについて協議した
11。
また、03(同15)年以降、両国の共同軍事演習が実施されている
12。
(4)アジア諸国
1990年代半ばより、インドは、ASEANを含む東アジア諸国との関係強化を図っている。03(同15)年10月には、「東南アジア友好協力条約」(TAC:Treaty of Amity and Cooperation in Southeast Asia)にも署名した
13。歴史的な友好国である日本については、「グローバル・パートナーシップ」に基づき、経済や安全保障を含む多くの分野での協力を実施している。
昨年5月には、ムカジー国防大臣(当時)が訪日し、額賀防衛庁長官(当時)との間で、共同ステートメントを発表し、この中で、防衛協力の分野における対話や協力を深化させることなどについて合意した。
2)ブッシュ大統領は、インドは米国の「ナチュラル・パートナー」であると言及した。
3)米国は、同協力の目標はインドに見合うだけの防衛力を整備し、能力や技術を提供することであるとし、F-16やF-18戦闘機売却の用意についても表明している。
4)05(平成17)年11月には米印空軍共同演習が、昨年1月には米印陸軍共同演習が行われた。04(同16)年7月には印空軍が米軍主催の多国間空軍演習にも参加している。また、本年4月には、海軍共同演習「マラバール07-1」が、沖縄沖の東シナ海で実施された。
5)未確定国境問題の解決に向けては、相互に特別代表を任命することで合意した。また、本宣言の中で、インドは、「チベット自治区は中国の領土の一部である」と認めている。
6)本合意の中で、中国は、シッキム州がインドの領土であることを認めるとともに、両国は、未画定国境問題の早期解決に向けた努力を継続することに合意している。
7)両国は、首脳級会談の定例化に合意し、相互貿易額を2010年までに400億ドルに倍増する目標を設定した。また、投資保護や新たな総領事館の相互設置などに関する合意文書に署名した。
8)04(平成16)年11月には、インドは同ミサイルの艦上発射実験を実施した。
9)インドのサラン首相特使は、プーチン大統領が原子炉供給など、民生用原子力分野での協力意思を示したことについて、実施は原子力供給国グループ(NSG)の規則改正の後になると発言した。
10)インドの保有する兵器の約7割は旧ソ連およびロシア製とされる。
11)両国は、多目的中型輸送機および第5世代戦闘機の共同開発プロジェクトに関する文書に署名した。また、既に締結されている協定の枠組みの中で、T-90戦車、Su-30MKI戦闘機およびMil-17ヘリコプターのインドへの追加提供に関する提案が検討された。両国間で現在共同開発中の巡航ミサイル「ブラモス」の生産力の向上と共に、同ミサイルの空中発射バージョンの開発を目指すことが確認された。MiG-29戦闘機用エンジンのライセンス生産の契約に関する政府間協定を締結した。本年4月および9月に、両国がロシア領内で対テロ共同軍事演習を実施することに合意した。
12)03(同15)年以降、共同演習「インドラ」が隔年で実施されている。
13)同時に、「印・ASEAN包括的経済協力のための枠組み協定」、「テロとの闘いに関する印・ASEAN共同宣言」に署名した。