未来に向けた確かな安全保障のために
わが国の平和と安全および国際社会の平和と安定を確保するためには、わが国を取り巻く新たな安全保障環境を踏まえて、さまざまな施策を総合的に講じる必要がある。防衛力が担う役割は、その中でもとりわけ重要である。
今日の安全保障環境を見ると、米国の9.11テロに見られるとおり、従来のような国家間の対立のみならず、国際テロ組織などの非国家主体が重大な脅威となっている。大量破壊兵器や弾道ミサイルの拡散の進展、国際テロ組織の活動など新たな脅威や多様な事態への対応が、国際社会にとって差し迫った課題となっている。
わが国の周辺においては、依然として核戦力を含む大規模な軍事力が存在するとともに、多数の国が軍事力の近代化に力を注いでいる。また、朝鮮半島や台湾海峡をめぐる問題など不透明、不確実な要素も残されている。
このような情勢を踏まえ、04(平成16)年12月に策定された「平成17年度以降に係る防衛計画の大綱」(以下「防衛大綱」という。)では、1)わが国に直接脅威が及ぶことを防止し、2)国際的な安全保障環境を改善するというわが国の安全保障の目標が示されるとともに、これらの目標の達成のため、1)わが国自身の努力、2)同盟国との協力、3)国際社会との協力という3つのアプローチを統合的に組み合わせるとしている。
それぞれの分野における、この1年間の主な動きを見ると、
1)わが国自身の努力として、防衛大綱および「中期防衛力整備計画(平成17年度〜平成21年度)」(以下「中期防」という。)に基づき、防衛力の整備を進めるとともに、本年3月に統合運用体制へ移行した。また、防衛庁の省への移行と、国際的な安全保障環境を改善するために国際社会が協力して行う活動(以下「国際平和協力活動」という。)などの本来任務化を図るための法案が国会に提出された。
2)同盟国との協力として、新たな安全保障環境において日米同盟の能力を実効的なものとすべく進められた、いわゆる米軍再編協議が、本年5月に最終的な取りまとめをみた。
3)国際社会との協力として、イラク人道復興支援活動やテロ対策特別措置法に基づく活動に従事するとともに、海外での災害に対する救援活動を行うなど、各種の国際平和協力活動を行った。
このように防衛庁・自衛隊は、安全保障において期待される役割を果たすべく、さまざまな努力を行っているが、その任務を全うするためには、国民の信頼が不可欠である。その一方で、国民の信頼を損なう事案が起きたのも事実であり、防衛庁・自衛隊は国民の信頼回復に向けた努力を行っている。さらに、人材の確保など組織の基盤を整えるとともに、地域社会や国民の理解と協力を得るための取り組みを行っている。
以上のようなことを踏まえて、この白書においては、わが国の防衛に関する基本的事項、現状および今後の方向性について、以下の内容をポイントとして、説明を行っている。
第1章
わが国を取り巻く安全保障環境
今日の安全保障環境については、脅威が多様化、複雑化し、またそうした脅威がいつ、どこで顕在化するかを予測することが困難になってきている。特に、国際テロ組織などの非国家主体による活動は、各国にとり重大な脅威となっている。また、核・生物・化学兵器などの大量破壊兵器や、それらの運搬手段となる弾道ミサイルの拡散も、大きな脅威と認識されている。さらに、宗教や民族問題に起因する地域紛争なども、国際社会にとっての大きな問題となっている。
各国の安全保障は、地域、さらにグローバルな安全保障と密接に結びついてきており、国際社会の安定にとり、国家間の協力が一層重要になってきている。
アジア太平洋地域では、わが国に対する本格的な侵略事態生起の可能性は低下しているものの、依然として各国・地域の対立の構図も残存し、安全保障観や脅威認識も、各国によってさまざまである。また、この地域の多くの国が、経済成長を背景として軍事力の拡充・近代化を行ってきている。
各国の情勢では、
▲米国は、今日の安全保障環境を踏まえた安全保障政策・国防政策の考え方として、本年、新しい国家安全保障戦略、「4年毎の国防計画の見直し(QDR)」を公表した。
▲北朝鮮の大量破壊兵器や弾道ミサイルの開発・配備・拡散などの軍事的な動きは、朝鮮半島の緊張を高めており、東アジア全域の安全保障にとって重大な不安定要因となっている。またさらに、本年7月の弾道ミサイルの発射は極めて憂慮すべきものである。
▲中国については、国防費が当初予算比で18年連続で二桁の伸び率を達成した。今後も軍事力の近代化が推進されていくものと考えられ、その動向については、引き続き注目していく必要がある。
第2章
わが国の防衛政策の基本
わが国は、憲法や「国防の基本方針」その他の基本政策を踏まえつつ、9.11テロ後の国際安全保障環境に的確に対応するため、04年12月に、安全保障の基本方針、防衛力の意義や役割、今後の防衛力整備の基本的指針などを示すべく防衛大綱を策定した。
加えて、防衛大綱に定める新たな防衛力を実現するため中期防を策定し、これに従い防衛力整備を進めている。
また、武力攻撃事態などにおいて、国および国民の平和と安全を確保するための対応に関し、有事法制により基本的な枠組みを整備している。
さらに、緊急事態対処の体制を充実・強化するとともに、国際社会の平和と安定に主体的・積極的に取り組むための体制を整備するため、政府は、防衛庁の省への移行や国際平和協力活動などの本来任務化などを内容とする法案を、6月9日、国会に提出した。
第3章
わが国の防衛のための自衛隊の運用と災害派遣や国民保護
防衛大綱において明示されたように、わが国の防衛のための自衛隊の対応について、新たな脅威や多様な事態や、本格的な侵略事態への対応などに取り組んでいる。特に、自衛隊が各種の事態において任務を迅速かつ効果的に遂行する態勢をさらに充実させるため、以下の措置を実施している。
▲本年3月に、統合運用体制へ移行した。
▲昨年12月に、弾道ミサイル防衛システムの能力向上型迎撃ミサイルの日米共同開発に着手することを政府として決定した 。
▲国民保護計画を策定するとともに、国民保護措置の円滑な実施のため、平素から地方公共団体との連携を図っている。
第4章
日米安全保障体制の強化
日米安全保障体制およびそれを中核とする日米同盟は、わが国防衛や地域の平和と安定、さらには国際的な安全保障環境の改善において、重要な役割を果たしている。また、本年6月の日米首脳会談において、「新世紀の日米同盟」と題する共同文書が発表された。
米国との同盟関係を安全保障環境の変化に応じて発展させていくため、日米両国は、近年、兵力態勢の再編を含む日米同盟の将来に関する日米協議に取り組んできた。この協議は、抑止力の維持と地元負担の軽減を基本的な考え方とし、1)共通戦略目標(第1段階)、2)日米の役割・任務・能力(第2段階)、3)兵力態勢の再編(第3段階)の3段階に分けて行われた。
05(平成17)年2月の日米安全保障協議委員会(「2+2」会合)の共同文書において共通戦略目標が特定され、その後の検討の結果、同年10月の「2+2」会合において取りまとめられた共同文書(「日米同盟:未来のための変革と再編」)においては、日米の役割・任務・能力の具体的方向性とともに、在日米軍および関連する自衛隊の部隊の態勢の再編についての具体的な方向性が示された。
そして、本年5月の「2+2」会合において、それまでの一連の日米協議の成果として、「再編実施のための日米のロードマップ」という形で、兵力態勢の再編の最終的な取りまとめがなされ、沖縄における再編をはじめとする具体的施策を実現するための計画が示された。
これは、わが国として米国との間で主体的に協議してきた結果であり、抑止力の維持と地元の負担の軽減を通じて日米安保体制を一層実効的なものとしていく上で、極めて重要な一歩である。わが国は、米国と協力して、これを速やかに、かつ、徹底して実施していく。
また、わが国は、このほかにも、在日米軍施設・区域に関する諸施策や各種の日米安保体制の信頼性向上のための諸施策を講じているところである。
第5章
国際的な安全保障環境の改善
防衛大綱においては、国際平和協力活動に主体的・積極的に取り組むこととしており、この1年間に以下のような活動を行ってきている。
▲イラクにおいて、同国をテロの温床とせず、平和で民主的な責任ある国家としての復興を支援するため、自衛隊は、イラク人道復興支援特措法に基づき、政府開発援助による支援と連携しつつ、人道復興支援活動を行ってきた。その結果、活動を行ってきたムサンナー県では、復興、治安の両面において、応急復旧的な支援が必要とされる段階は基本的に終了したことから、本年6月、陸上自衛隊の部隊を同県から撤収させる一方、国連などからの要請を踏まえて、航空自衛隊の部隊による空輸支援は継続して行うことを決定した。
▲国際的なテロリズムとの闘いに主体的・積極的に寄与するため、自衛隊は、テロ対策特措法に基づき協力支援活動を行っている。これらの活動は、テロリストの逃走や武器弾薬などの拡散の阻止、抑止のためにインド洋上で各国艦艇が行っている活動をより効果的にするものであり、米国をはじめとする国際社会からも、高い評価を受けている。
▲カムチャッカ半島沖のロシア潜水艇事故(昨年8月)、パキスタン等大地震(昨年10月)およびインドネシア・ジャワ島中部地震(本年5月)に際しては、自衛隊による国際緊急援助隊を派遣した。
また、国際的な安全保障環境改善のため、地域の国々などとの安全保障対話・防衛交流、二国間・多国間訓練を行うとともに、拡散に対する安全保障構想(PSI)への取り組みを含め、軍備管理・軍縮・不拡散への取り組みを行っている。
第6章
国民と防衛庁・自衛隊
多くの自衛隊員は、日々職務に精励し、国民の信頼と努力に応えるべく努力をしているが、国民の強い信頼によって支えられない防衛力は、その機能を十分に発揮することができない。このため、国民の信頼を損う事案が発生したことについては、防衛庁・自衛隊として、その責任を強く認識し、以下を内容として、再発防止へ断固たる決意で臨む。
▲防衛施設庁入札談合事案に関し、事実関係の徹底的究明および抜本的な再発防止策の検討を行った。特に、この種の事案の再発防止策として、・談合の起こりにくい入札手続き、・早期退職慣行の見直し・再就職の自粛など、・懲戒処分などの基準の明確化、・人事管理の改善、・防衛施設庁の解体と防衛本庁への統合を含む組織改革などを明示した。
▲自衛隊における薬物事案に関しては、・服務指導・教育の徹底、・薬物検査の導入、・各種の相談・通報窓口の設置などの再発防止策を速やかにかつ着実に実施していく。
▲インターネットを通じた情報流出事案への取り組みについては、・情報セキュリティ、・秘密保全、・懲戒処分の観点からの具体的対策を行う。
また、防衛庁・自衛隊は、任務を遂行するため、質の高い人材の確保・育成や情報通信など組織の基盤を整えるとともに、地域社会や国民からの理解と協力を得るべく、さまざまな取り組みを行っている。