第3章 わが国の防衛のための自衛隊の運用と災害派遣や国民保護 

4 武装工作船などへの対処


(1)基本的な考え方
 不審船には、警察機関である海上保安庁が第一義的に対処するが、海上保安庁では対処することが不可能又は著しく困難と認められる場合には、機を失することなく海上警備行動を下令し、自衛隊が海上保安庁と連携しつつ対処する。
 このような役割分担の下、防衛庁・自衛隊では01(平成13)年の九州南西海域不審船事案5も踏まえ、不審船に対して効果的かつ安全に対処するため、関係省庁と連携を強化し、政府として万全を期すべく必要な措置を講じてきている。

(2)能登半島沖不審船事案を踏まえての措置など
 99(同11)年の能登半島沖での不審船事案6では、自衛隊創設来初めての海上警備行動が発令され、海自は護衛艦や哨戒機(P-3C)により対処した。
 この事案で得られた教訓・反省事項を踏まえ、防衛庁・自衛隊は、次のような施策を行った。
 
対潜爆弾投下訓練を行う海自P-3C哨戒機

ア 不審船対処のための装備などの充実
 海自は、1)新型ミサイル艇の速力向上など7、2)「特別警備隊」8の新編、3)護衛艦などへの機関銃の装備、4)強制停船措置用装備品(平頭弾)9の装備、5)艦艇要員充足率の向上などの事業を実施した。

イ 海上保安庁との連携の強化
 99(同11)年、防衛庁は、海上保安庁との間で「不審船に係る共同対処マニュアル」を策定し、不審船が発見された場合の初動対処、海上警備行動の発令前後における役割分担などについて規定した。同マニュアルでは、先述した不審船への対処に関する基本的な考え方の下に次のような共同対処を行うこととしている。

(ア)情報連絡体制など
 海上保安庁および防衛庁は、所定の情報連絡体制を確立し、初動段階から行動終了まで的確な連絡通報を実施

(イ)海上警備行動発令前における共同対処
 海上保安庁が、必要な勢力を投入し、第一に不審船に対処し、海自は、海上保安庁の求めに応じ可能な協力を実施

(ウ)海上警備行動発令下における共同対処
 海上警備行動が発令された場合には、海自は、海上保安庁と連携、共同して停船のための措置などを実施

(エ)共同訓練など
 防衛庁および海上保安庁は、定期的な相互研修、情報交換および共同訓練などを実施するとともに、海自は、同マニュアルに基づき、不審船に対する追尾・捕捉の要領や通信などの共同訓練を海上保安庁と行っており、連携の強化を図ってきた。本年2月28日には、不審船発見から停船までのシナリオに基づく共同実動訓練を行った。
 
海上保安庁との共同訓練において不審船を追跡する海自ミサイル艇「うみたか」

ウ 不審船対処のための自衛隊法の改正
 不審船を停船させるための武器使用権限のあり方を中心に法的な整理を含めた検討が行われ、01(同13)年、自衛隊法を改正し、海上警備行動時などの武器使用に関して次のような規定を新設した。
 海上警備行動時などに、職務上の必要から立入検査を行う目的で船舶の停止を繰り返し命じても乗組員などがこれに応じずに抵抗したり、逃亡しようとしたりする場合があり得る。このような場合において、一定の要件10に該当すると防衛庁長官が認めたときは、海上警備行動などを命ぜられた海上自衛官は、その船舶を停止させるためにほかに手段がないと信ずるに足りる相当な理由があれば、事態に応じ合理的に必要と判断される限度において、武器を使用することができる。その結果、人に危害を与えても法律に基づく正当行為と評価されることとなる。

(3)九州南西海域不審船事案を踏まえての措置
 01(同13)年12月の九州南西海域不審船事案への対応について、政府が検証作業を行った結果を踏まえ、防衛庁・自衛隊は次のような措置を講じている。

ア 哨戒機(P-3C)から基地への画像伝送能力、基地から中央への写真画像など大容量の情報伝送能力を強化する。

イ 不確実な情報であっても、早い段階から、内閣官房・防衛庁・海上保安庁間で不審船情報を共有する。

ウ 工作船の可能性の高い不審船については、不測の事態に備え、政府の方針として、当初から自衛隊の艦艇を派遣する。

エ 遠距離から正確な射撃を行うための武器を整備する。

(4)武装工作船などへの対応
 防衛庁・自衛隊は、過去の事案の教訓事項を踏まえつつ、武装工作船などの不審船の発見・分析、海上警備行動発令時における停船のためおよび停船後の対応について、対処能力の向上を図ることとしている。


 
5)監視活動中の哨戒機(P-3C)が不審な船舶を発見、巡視船、航空機で追尾・監視を行った。不審船は海上保安庁の度重なる停船命令を無視し逃走を続けたため、射撃警告の後、威嚇射撃を行った。しかし同船は引き続き逃走し、追跡中の巡視船が武器による攻撃を受けたため、巡視船による正当防衛射撃を行い、その後同船は自爆によるものと思われる爆発を起こし沈没するに至った。捜査過程で判明した事実などから、北朝鮮の工作船と特定された。02(平成14)年にも、監視活動中の哨戒機(P-3C)が能登半島沖の北北西約400km(わが国の排他的経済水域外)において不審船の疑いのある船舶を発見し、巡視船、護衛艦、航空機で追尾・監視を行った事案が起きている(日本海中部事案)。

 
6)監視活動中の哨戒機(P-3C)が能登半島東方、佐渡島西方の領海内で日本漁船を装った北朝鮮の工作船と判断される不審船2隻を発見した。巡視船、護衛艦、航空機などで1昼夜にわたり追跡したが、両船は、防空識別圏外へ逃走し、北朝鮮北部の港湾に到達したものと判断された。

 
7)02(平成14)年3月、2隻が就役し、主に次の点を充実させている。1)速力を不審船を追尾可能な約44ノットに向上、2)12.7mm機関銃の装備、3)艦橋への防弾措置を実施、4)暗視装置の装備

 
8)01(同13)年3月、海上警備行動下に不審船の立入検査を行う場合、予想される抵抗を抑止し、その不審船の武装解除などを行うための専門の部隊として海自に新編された。

 
9)護衛艦搭載の76mm砲から発射する無炸薬の砲弾で、先端部を平坦にして、跳弾の防止が図られている。

 
10)1)当該船舶が、外国船舶(軍艦および各国政府が所有し又は運航する船舶であって非商業目的のみに使用されるものを除く。)と思われる船舶で、国連海洋法条約第19条に定める無害通航でない航行をわが国の内水又は領海において現に行っていると認められること(当該航行に正当な理由がある場合を除く。)、2)当該航行を放置すれば、これが将来において繰り返される蓋然性があると認められること、3)当該航行が、わが国の領域内において重大凶悪犯罪を犯すのに必要な準備のために行われているのではないかとの疑いを払拭できないと認められること、4)当該船舶の進行を停止させて立入検査をすることにより得られるであろう情報に基づいて適確な措置を尽くすのでなければ、将来における重大凶悪犯罪の発生を未然に防止することができないと認められること。


 

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