第2章 わが国の防衛政策の基本 

1 武力攻撃事態などにおける対応の基本的な枠組み


1 武力攻撃事態等への対処


 武力攻撃事態対処法は、武力攻撃事態などへの対処についての、いわば基本法的な性格を有しており、武力攻撃事態等(武力攻撃事態および武力攻撃予測事態1)への対処に関する基本理念、武力攻撃事態等への対処に関する基本的な方針(対処基本方針)、国・地方公共団体の責務などについて規定している。これにより、関係機関(指定行政機関、地方公共団体および指定公共機関2)が国民保護法などの個別の有事法制などに基づいて行う対処措置が相互に連携協力して行われ、武力攻撃事態などへの対処について、国全体として万全の措置が講じられる枠組みを整えている。

(1)武力攻撃事態等への対処における基本理念
ア 武力攻撃事態等への対処においては、国、地方公共団体および指定公共機関が、国民の協力を得つつ、相互に連携協力し、万全の措置を講じなければならない。

イ 武力攻撃予測事態においては、武力攻撃の発生が回避されるようにしなければならない。

ウ 武力攻撃事態においては、武力攻撃の発生に備えるとともに、武力攻撃が発生した場合には、これを排除しつつ、その速やかな終結を図らなければならない。ただし、武力攻撃が発生した場合これを排除するにあたっては、武力の行使は、事態に応じ合理的に必要と判断される限度においてなされなければならない。

エ 武力攻撃事態等への対処においては、日本国憲法の保障する国民の自由と権利が尊重されなければならず、これに制限を加える場合にあっても、その制限は当該武力攻撃事態等に対処するため必要最小限のものに限られ、かつ、公正かつ適正な手続の下に行われなければならない。

オ 武力攻撃事態等およびこれへの対処に関する状況について、適時、かつ、適切な方法で国民に明らかにされるようにしなければならない。

カ 武力攻撃事態等への対処においては、日米安保条約に基づいて米国と緊密に協力しつつ、国連をはじめとする国際社会の理解および協調的行動を得られるようにしなければならない。

(2)武力攻撃事態等への対処のための手続
 武力攻撃事態等に至ったときは、政府は通常以下の流れに従い、対処のための手続などを行う。
1) 対処基本方針案の作成
2) 対処基本方針案の安全保障会議への諮問
 安全保障会議は、対処基本方針案について審議する。なお、安全保障会議には会議の審議を迅速かつ的確に実施するため、必要な事項に関する調査・分析を行い、その結果に基づき、安全保障会議に進言する専門的な補佐組織として事態対処専門委員会が置かれている。
3) 安全保障会議による内閣総理大臣への対処基本方針案の答申
4) 対処基本方針の閣議決定、国会の承認を求めるために付議
 (特に緊急の必要があり、事前に国会承認を得るいとまがない場合の防衛出動は、命令後の承認となる。(緊急時の事後承認))
5) 国会による対処基本方針の承認
6) 国会の承認を受けた防衛出動命令など
 内閣総理大臣は、自衛隊に防衛出動を命ずるほか、対処基本方針に従って対処措置を行う。
 国会において、対処基本方針に関する不承認の議決があったときには、その議決に係わる対処措置は、速やかに、終了しなければならない。防衛出動を命じた自衛隊については、直ちに撤収を命じなければならない。
(図表2-3-1参照)
 
図表2-3-1 武力攻撃事態などへの対処のための政府の体制

(3)対処基本方針と対処措置
ア 対処基本方針
 政府は、武力攻撃事態等に至ったときは、次の事項を定めた対処基本方針を閣議で決定する。
1) 武力攻撃事態であること又は武力攻撃予測事態であることの認定および当該認定の前提となった事実
2) その武力攻撃事態等への対処に関する全般的な方針
3) 対処措置に関する重要事項
 内閣総理大臣が以下の措置を行う場合には重要事項としてその旨を記載する。

(ア) 武力攻撃予測事態においては、
1) 防衛庁長官が予備自衛官および即応予備自衛官の防衛招集命令を発することの承認
2) 防衛庁長官が防衛出動待機命令を発することの承認
3) 防衛庁長官が防御施設構築の措置を命ずることの承認
4) 防衛庁長官が米軍行動関連措置法が定める行動関連措置としての役務の提供を命ずることの承認

(イ)武力攻撃事態においては、上記(ア)1)〜4)に加えて、
1) 防衛庁長官が海上輸送規制法に定める停船検査および回航措置を命ずることの承認
2) 防衛出動を命ずることについての国会承認の求め
3) 防衛出動を命ずること(特に緊急の必要があり事前に国会承認を得るいとまがない場合)

イ 対処措置
 武力攻撃事態等への対処にあたり、対処基本方針が定められてから廃止されるまでの間に、指定行政機関、地方公共団体又は指定公共機関が法律の規定に基づいて、以下の措置を対処措置として実施する。

(ア)武力攻撃事態等を終結させるためにその推移に応じて実施する措置
1) 自衛隊が実施する武力の行使、部隊などの展開その他の行動
2) 自衛隊の行動および米軍の行動が円滑かつ効果的に行われるために実施する物品、施設又は役務の提供その他の措置
3) 1)および2)のほか、外交上の措置その他の措置

(イ)国民の生命、身体および財産の保護又は国民生活および国民経済への影響を最小とするための措置
1) 警報の発令、避難の指示、被災者の救助、施設および設備の応急の復旧その他の措置
2) 生活関連物資などの価格安定、配分その他の措置
内閣総理大臣は、対処措置を行う必要がなくなったと認めるとき又は国会が対処措置を終了すべきことを議決したときは、対処基本方針の廃止につき、閣議の決定を求めなければならない。

(4)国、地方公共団体などの責務
ア 国の責務
 国は、対処措置の実施にあたり、基本理念にのっとって、組織および機能のすべてをあげて、武力攻撃事態等に対処するとともに、国全体として万全の措置を講じる。

イ 地方公共団体の責務
 地方公共団体は、住民の生命、身体および財産を保護する使命を有し、国およびほかの地方公共団体その他の機関と相互に協力し、必要な措置を実施する。

ウ 指定公共機関の責務
 指定公共機関は、国および地方公共団体その他の機関と相互に協力し、その業務について、必要な措置を行う。

エ 国民の協力
 国民は、国および国民の安全を確保することの重要性にかんがみ、これらの措置の実施に対して、必要な協力をするように努めることとされている。

(5)対策本部
 武力攻撃事態等への対処にあたっては、国、地方公共団体、指定公共機関などが連携、協力して対処措置を実施することが必要である。対処措置の総合的な推進のため、対処基本方針が定められたときは、内閣に、内閣総理大臣を長とする武力攻撃事態等対策本部(対策本部)が設置される。対策副本部長および対策本部員は国務大臣をもって充てられる。
 内閣総理大臣は、国民の生命、身体若しくは財産の保護又は武力攻撃の排除に支障があり、特に必要があると認める場合であって、総合調整に基づく所要の対処措置が行われないときは、関係する地方公共団体の長などに対し、その対処措置を実施すべきことを指示することができる。
 また、内閣総理大臣は、指示に基づく所要の対処措置が行われないときや、国民の生命、身体、財産の保護や武力攻撃の排除に支障があり、事態に照らし緊急を要する場合は、関係する地方公共団体の長などに通知の上で、内閣総理大臣自ら又はその対処措置に係る事務を所掌する大臣を指揮し、その地方公共団体又は指定公共機関が行うべき対処措置を行い、又は行わせることができる。

(6)国連安全保障理事会への報告
 政府は、国連憲章第51条などにしたがって、武力攻撃の排除にあたってわが国が講じた措置について直ちに国連安全保障理事会に報告する。
参照> 資料81


 
1)武力攻撃事態には至っていないが、事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態

 
2)独立行政法人、日本銀行、日本赤十字社、日本放送協会その他の公共的機関と電気、ガス、輸送、通信その他の公益的事業を営む法人で、政令で定めるもの


 

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