第1章 わが国を取り巻く安全保障環境 

3 インド・パキスタン紛争


 第二次世界大戦後、旧英領インド21から分離・独立したインドとパキスタンの間では、カシミールの帰属問題22などを背景として、これまでに3次にわたる大規模な武力紛争が発生した。
 47(昭和22)年、カシミールをめぐり、両国の軍隊が同地域で衝突し、大規模な武力紛争に発展した(第1次紛争(〜49(同24)年))。その後、第2次(65(同40)年)、第3次(71(同46)年)の紛争を経て、72(同47)年、現在の管理ライン(LOC)が画定した。
 カシミールの領有をめぐる問題は、対話の再開と中断を繰り返しつつ今日もなお続いており、インド・パキスタン両国の対立の原点ともいうべき懸案事項となっている。99(平成11)年のカルギル紛争や01(同13)年のインド国会議事堂襲撃事件に際しては、両国間の軍事的緊張が急激に高まったが、核保有を表明している両国に強い懸念を抱く国際社会による働きかけの結果、事態のさらなる悪化は回避された。04(同16)年2月には、カシミール問題を含めた両国の関係正常化のための「複合的対話」が開始され、これまで一定の進展が見られる中、昨年4月には、カシミール地域のLOC(Line of Control)をまたぐ直通バスの運行も開始された23
 
図表1-2-20 インド・パキスタンの兵力状況(概数)

 昨年10月、カシミールのLOCに近いパキスタンを震源とする大規模な地震が発生し、特に、パキスタンでは死者数が7万3千人以上に上るなど、その被害は甚大であった。両国政府は、カシミールにおける被災住民の救助を優先することとし、インドからパキスタンへの救援物資の空輸、直通電話の開通、LOCの5か所の解放を実現するなど、本地震を契機に、カシミールにおいて画期的な措置が図られた。また、インドは、和平推進の一環として、04(同16)年11月に、カシミールのインド軍の一部を撤退させたのにつづき、本年2月にも、1万5千人の兵力の段階的削減を発表した。
 これまで、カシミール問題に関する両国の主張には大きな隔たりがあり、同問題の解決は難しいとみられてきたが、今後、両国間の緊張緩和が加速する中で、将来的にカシミール問題の解決を図ることが可能かどうか注目される。
 両国の対立関係は、核や弾道ミサイルの開発といった分野にも及んでいる。両国は、核兵器不拡散条約(NPT:Treaty on the Non-proliferation of Nuclear Weapons)に加入せず、包括的核実験禁止条約(CTBT:Comprehensive Nuclear-Test-Ban Treaty)にも署名しておらず24、以前から核兵器開発の動きが伝えられていたが、98(平成10)年、相次いで核実験を行い、わが国を含む国際社会の批判を浴びた25
 また、両国は、近年、核弾頭搭載可能な弾道ミサイルおよび巡航ミサイルの開発も積極的に進めている。インドは、03(同15)年9月、中距離弾道ミサイル「アグニ2」を陸軍に実戦配備することを公表、昨年11月には、ロシアと共同開発した超音速巡航ミサイル「ブラモス」の発射実験を実施している。一方、パキスタンは、03(同15)年1月、中距離弾道ミサイル「ガウリ」(ハトフ5)を部隊に配備した。昨年3月の中距離弾道ミサイル「シャヒーン2」(ハトフ6)の発射実験に続き、同11月には巡航ミサイル「バーブル」(ハトフ7)の初実験を実施した。なお、両国は、短距離ミサイルについても継続的に発射実験を行っている26


 
21)独立をめぐって、統一インドを主張するグループ(国民会議派)とパキスタンの独立を主張するグループ(ムスリム連盟)が対立していた。

 
22)カシミールの帰属については、インドがカシミール藩王のインドへの帰属文書を根拠にインドへの帰属を主張するのに対し、パキスタンは48(昭和23)年の国連決議を根拠に住民投票の実施により決すべきとし、その解決に対する基本的な立場が大きく異なっている。

 
23)また、昨年8月、両国は、弾道ミサイル実験の事前通告や両国外務次官の間にホットラインを設置することにも合意した。

 
24)インドとパキスタンは、CTBT署名に関しては国内コンセンサスの構築に努めるとしている。

 
25)核実験後、インドは、「近隣諸国の核をめぐる環境」に対する懸念を表明する一方、パキスタンは、インドの脅威を核実験実施の理由とした。

 
26)「弾道ミサイル発射実験の事前通告協定」(昨年10月に署名)に基づき、パキスタンは、今年4月、中距離弾道ミサイル(ハトフ6)の発射実験に先立って、インドに事前通告を実施


 

前の項目に戻る     次の項目に進む