第1章 わが国を取り巻く安全保障環境 

2 韓国


(1)全般
 韓国では、87(昭和62)年の憲法改正による大統領直接選挙制導入などを経て、現在民主化が定着している。03(平成15)年2月に発足した盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権は、対北朝鮮政策において、金大中(キム・デジュン)前政権の「包容政策」の考え方を継承する「平和繁栄政策」を掲げている。
 朝鮮戦争の停戦以降、現在に至るまで陸軍を中心とする米軍部隊が駐留している韓国は、米韓相互防衛条約を中核として、米国と安全保障上極めて密接な関係にある。両国は、03(同15)年4月より、「未来の米韓同盟政策構想(FOTA:Future of the Alliance Policy Initiative)」会議を開催し、ソウル中心部に所在する米軍龍山(ヨンサン)基地のソウル南方の平沢(ピョンテク)地域への移転や漢江(ハンガン)以北に駐留する米軍部隊の漢江以南への再配置といった両国間の懸案の解決に努めてきた。続いて、両国は、米韓同盟が直面するより広範で長期的な問題について協議するため、04(同16)年10月の米韓安保協議会で新たに「米韓安全保障政策構想(SPI:Security Policy Initiative)」会議を創設することに合意し、米国が持つ米韓連合軍に対する戦時の作戦統制権30の韓国への返還問題などについて議論を続けている。
 韓国は、米国などによるアフガニスタンでの軍事作戦を支援するため、引き続き、医療支援団や工兵部隊を派遣している。また、米国の要請を受けてイラクに派遣中の部隊についても、現在3,700人以内とされている部隊規模を2,300人以内に調整するとしているものの、本年中は派遣を継続する予定である。
 韓国と中国との間では、00(同12)年1月の遅浩田(ち・こうでん)国防部長(当時)による初の訪韓以降、軍高官の相互交流のほか、艦艇、空軍機の相互訪問など、各種の軍事交流が行われている。昨年3月、韓国国防部長官による01(同13)年以来の訪中が尹光雄(ユン・グァンウン)長官によって行われたほか、本年4月には、中国国防部長による00(同12)年以来の訪韓が曹剛川(そう・ごうせん)部長によって行われた。また、03(同15)年7月の中韓首脳会談で、両首脳は、中韓関係を従来の協力パートナーシップから全面的協力パートナーシップに発展させることで合意した。このように、韓国と中国との関係は政治経済、安全保障など、それぞれの分野において拡大しつつある。
 韓国とロシアとの間では、近年、国防相レベルの相互訪問など軍高官の交流が行われている。03(同15)年4月に行われたイワノフ国防相による訪韓で、両国は軍事技術、防衛産業、軍需分野の協力と軍事交流の促進の重要性について一致し、軍高官の相互訪問を持続的に推進していくことで合意した。04(同16)年2月には初めて両国海軍による捜索救難訓練が行われ31、昨年4月、約2年ぶりとなる韓露国防相会談が尹光雄長官の訪露によって実現した。

(2)軍事
ア 国防政策
 韓国は、全人口の約4分の1が集中する首都ソウルがDMZから至近距離にあるという防衛上の弱点を抱えている。
 韓国は、「外部の軍事的脅威と侵略から国家を保衛し、平和的統一を裏付け、地域の安定と世界平和に寄与する」との国防目標を定めている。この「外部の軍事的脅威」の1つとして、これまで北朝鮮が「主敵」と位置付けられてきたが、昨年2月に約4年ぶりに発刊された「2004国防白書」においては、「北朝鮮の通常戦力、大量破壊兵器、軍事力の前方配置などの直接的な軍事脅威」との表現に変更されている。
 現在、韓国は、情報・科学技術の発展に即した軍事力の整備、三軍の均衡発展、非効率性の打破、社会の趨勢に応じた兵営文化の構築などの必要性から、「国防改革2020」の推進を図ろうとしており、改革の重点事項として、次の4点を設定している。
1) 国防の文民基盤の拡大:文民が中心となって国防政策を決定・執行し、軍は戦闘任務の遂行に専念する体制を確立する。
2) 現代戦の様相に合った軍の構造および戦力体系の構築:陸軍を中心に常備兵力を68万人から50万人に、予備軍を300万人から150万人に削減する一方、装備の近代化などにより戦力は増強する。
3) 低費用・高効率の国防管理体系に革新:調達業務の透明性や専門性の保障のため組織と制度を整備するとともに、後方支援分野での情報化基盤の補強や外部委託を行う。
4) 時代の状況に応じた兵営文化への改善:軍人の勤務環境の改善や事故防止体系の確立に取り組む。

イ 軍事動向
 韓国軍の勢力については、陸上戦力は、3個軍22個師団と海兵隊2個師団、合わせて約59万人、海上戦力は、3個艦隊約180隻約13.5万トン、航空戦力は、空軍・海軍を合わせて、9個戦闘航空団などF-16を含む作戦機約600機からなる。
 近年では、海・空軍を中心として近代化に努めており、潜水艦、多目的ヘリコプター、次期戦闘機(F-X)であるF-15Kなどの導入を進めているほか、12(平成24)年までに早期警戒管制機(AWACS:Airborne Warning and Control System)4機が調達される予定である。また、国産駆逐艦(KDX-II、III)の調達も進めており、08(同20)年にはKDX-III(イージスシステム搭載駆逐艦)が就役予定である。韓国海軍はこのほかに大型輸送艦を10(同22)年までに2隻建造する予定である。また、01(同13)年11月に韓国国防科学研究所が短距離ミサイルの試験発射を行うなど、ミサイルの国産化を進めているものとみられている32
 なお、本年度の国防費は、対前年度比約8%増となっている。


 
30)米韓両国は、朝鮮半島における戦争を抑止し、有事の際に効果的な連合作戦を遂行するための米韓連合防衛体制を運営するため、78(昭和53)年より、米韓連合軍司令部を設置している。米韓連合防衛体制の下、韓国軍に対する作戦統制権については、平時の際は韓国軍合同参謀議長が、有事の際には在韓米軍司令官が行使することになっている。

 
31)韓国海軍は、03(平成15)年8月、ロシア太平洋艦隊が主催する共同捜索救難訓練に艦艇1隻を派遣したが、これは多国間演習の一環としての訓練であった。韓露二国間の艦艇による捜索救難訓練は、本訓練が初めてとなる。

 
32)韓国は、01(平成13)年1月に米国と合意を結び、これまでの米国との取極で180kmまでに制限されていたミサイルの射程を、ミサイル技術管理レジーム(MTCR)が制限射程としている300kmまで延長できるようになった。それを受け、韓国政府は独自のミサイル開発・生産・保有についての新しい指針を発表し、同年3月、MTCRに参加した。


 

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