第3章 新たな脅威や多様な事態への実効的な対応と本格的な侵略事態への備え 

自衛隊による国民保護措置

(1)自衛隊と国民の保護
 武力攻撃事態等において、自衛隊による国民保護措置については、国、地方公共団体及び指定公共機関など国民保護措置の各実施主体と相互に連携し実施することが重要である。そのため、平素から、防災のための連携体制を活用しつつ、国民保護措置のための連携体制を構築し、相互の情報体制の充実、共同の訓練などに努めていくこととしている。
 他方、武力攻撃事態等において、自衛隊は速やかに武力攻撃を排除し、国民への被害を局限化することが重要であり、この自衛隊にしか実施することができない任務の遂行に万全を期すこととなる。
 このため、武力攻撃事態等の規模・態様によるが、自衛隊のもてる能力を集中することが可能な自然災害のみへの対応(災害派遣など)の場合とは異なり、避難住民の誘導などに割くことのできる自衛隊の能力には自ずと限界があり、自衛隊は、その武力攻撃を排除するという任務との両立を図り得る範囲内で、可能な限り、国民保護措置を行うこととなる。

(2)国民保護等派遣の新設
 国民保護法の制定に伴い、防衛庁は、自衛隊の国民保護措置の実施に万全を期すため、武力攻撃予測事態などにおいて、自衛隊が国民保護措置を実施できるよう自衛隊法を改正し、新たな自衛隊の行動として、「国民保護等派遣」を自衛隊法第77条の44に新設した。
 活動内容としては、自然災害時における「災害派遣」と変わるものではないが、武力攻撃事態等という環境下における活動であるため、武器使用に関する規定や、内閣総理大臣の承認規定などを設けている。
 なお、武力攻撃事態において防衛出動が命ぜられている場合や緊急対処事態に対する対処措置として治安出動が命ぜられている場合には、国民保護等派遣を命ずることなく、防衛出動や治安出動などの一環として、国民保護措置又は緊急対処保護措置を実施することとなる。
 国民保護等派遣に関する規定の概要は次のとおりである。

ア 派遣の要請
 防衛庁長官は、都道府県知事からの要請を受けた場合において、事態やむを得ないと認めるとき、又は対策本部長5から求めがあったときは、内閣総理大臣の承認を得て、国民保護措置を実施するため、部隊などを派遣することができる。

 
国民保護等派遣の仕組み

イ 警察官などに準じた権限
 国民保護等派遣を命ぜられた自衛官は、警察官などがその場にいない場合に限り、警察官職務執行法の避難等の措置、犯罪の予防及び制止、立入、武器の使用の権限を行使することができる。

ウ 市町村長などに準じた権限
 国民保護等派遣を命ぜられた自衛官は、市町村長などがその場にいない場合に限り、退避の指示、応急公用負担、警戒区域の設定、住民などに対する協力要請などの権限を行使することができる。

エ 臨時部隊編成など
 国民保護等派遣を行う場合に、必要に応じた特別の部隊の臨時編成、即応予備自衛官及び予備自衛官に対する招集命令の発令を行うことができる。

オ 緊急対処保護措置
 緊急対処事態に係る措置に関しても、同様の規定を準用する。

(3)自衛隊に期待されている国民保護措置の内容
 自衛隊は、武力攻撃事態等又は緊急対処事態において、次のような国民保護措置又は緊急対処保護措置を行うことが期待されている。具体的には、1)避難住民の誘導(誘導、集合場所での人員整理、避難状況の把握など)、2)避難住民などの救援(食料品及び飲料水の供給、物資の供給、医療活動、捜索及び救出など)、3)武力攻撃災害などへの対処(被災状況の把握、人命救助活動、消防及び水防活動、NBC汚染対処など)、4)武力攻撃災害などの応急の復旧(危険な瓦礫(がれき)の除去、施設などの応急復旧、汚染の除去など)である。


 
4)資料70参照

 
5)対策本部長と内閣総理大臣の関係は、基本的に同一人物ではあるが、法律上は別人格として規定されている。


 

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