第3章 新たな脅威や多様な事態への実効的な対応と本格的な侵略事態への備え 

災害派遣の初動態勢・実施状況

(1)災害に対する初動対処態勢
 阪神・淡路大震災の教訓から、自衛隊では、災害派遣を迅速に行うため、各自衛隊は、初動に対処できる部隊を指定している。本年6月現在、陸自は、災害派遣に即応できる部隊として全国に人員約2,700名、車両約410両、ヘリコプター約30機を指定している。海自は、応急的に出動できる艦艇を基地ごとに指定しているほか、航空機の待機態勢を整えている。空自は、航空機の待機態勢などを整えている。
 また、自衛隊は、部隊などが気象庁から震度5弱以上の地震発生の情報を受けたときに、自主派遣として、速やかに航空機などを使用して現地情報を収集し、官邸などに、その情報を伝達できる態勢をとっている。また、状況に応じ、関係地方公共団体などへ連絡要員を派遣して情報収集を行うこととしている。

 
災害派遣の実績(過去5年間)

 
災害派遣の実績(平成16年度)

(2)災害派遣の実施状況 平成16年度

ア 救急患者の輸送
 自衛隊は、従来から医療施設が不足する離島などの救急患者を、航空機で緊急輸送している。昨年度は災害派遣総数884件のうち、616件がこの救急輸送であり、南西諸島(沖縄県、鹿児島県)、五島列島(長崎県)などへの派遣が535件と多数を占めた。
 その内訳は、高齢者の救急患者が最も多く、出産、水難事故に際しての緊急輸送もあった。また、他機関の航空機では航続距離不足などで対応できない場合には、本土から遠距離にある海域で航行している船舶の緊急患者の輸送も行っている。

イ 消火支援
 昨年度の消火支援件数は、102件であり、急患輸送に次ぐ件数となっている。
 その内訳は、近傍火災に対する派遣が最も多く、昨年度は92件であった。全国に所在する各部隊などは、周辺住民の生活の安全確保に寄与するためにも、近傍火災への対処に積極的に取り組んでいる。
 また、島嶼(とうしょ)や山地など、消火が難しい場所では都道府県知事からの災害派遣要請を受け空中消火活動を行っており、例えば、昨年4月16日に新潟県岩船郡山北町で発生した山林火災では、新潟県知事からの災害派遣要請に対し、陸自は速やかに空中消火活動を行った。この派遣での空中消火における消火水の投下回数は延べ48回、水量288トンであった。

ウ 自然災害への対応
 昨年度は、観測史上最多となる10個の台風上陸や阪神・淡路大震災以来の最大震度7を観測した新潟県中越地震、さらに東北北部や北陸地方山間部の大雪被害など自然災害の多い一年となり、風水害・震災に伴う自衛隊の災害派遣も件数(46件)、規模(人員約14万6,000人)ともに例年を上回った。
 主要な派遣は次のとおりである。

1) 新潟・福島豪雨及び福井豪雨に対する派遣
 昨年7月中旬、活発化した梅雨前線の影響による新潟県、福島県及び福井県地方の豪雨の際には、新潟県及び福井県知事からの災害派遣要請を受け、人命救助活動、孤立者救助、行方不明者捜索、土のう積み、給水支援、道路啓開、公共施設復旧、防疫(ぼうえき)活動などに、延べ人員約10,800名、車両約2,600両、航空機74機を派遣し、約2,400名を救助した。

2) 台風23号災害に対する派遣
 昨年10月下旬、台風23号の影響による西日本一帯の豪雨に伴う各種被害発生の際には、宮崎県、香川県、岡山県、兵庫県、京都府及び岐阜県知事からの災害派遣要請を受け、人命救助活動、孤立者救助、行方不明者捜索、給水支援、道路啓開、防疫活動などに、延べ人員約4,200名、車両約810両、航空機18機を派遣し、59名を救助した。

3) 新潟県中越地震に対する派遣
 昨年10月23日に発生した最大震度7の新潟県中越地震の際には、陸・海・空自衛隊は直ちに航空機などによる偵察や連絡要員の派遣を行うとともに、新潟県知事からの災害派遣要請を受け、人命救助活動、孤立者救助、行方不明者捜索、物資輸送(食糧約84万食、毛布約7万枚など)、給水・給食支援(約1,030トン・約114万食)、入浴支援(約16万7,000名)、天幕の設営(最大時約1,200張)、医療支援(約140名)、演奏会の実施、流木・土砂などの除去、倒壊家屋の撤去(40軒)など多岐にわたる活動を約2か月にわたって実施し、延べ人員約12万5,000名、車両約3万8,000両、航空機約800機を派遣し、約1,800名を救助した。

 
消火剤を散布する陸自ヘリ(UH-1)

 
輸送ヘリ(CH-47JA)による被災者救助

 
救援物資輸送を行う隊員

 
給食(温食)支援(新潟スタジアム)

 
入浴支援(東小千谷小学校)

4) 雪害に対する派遣
 北日本及び東日本の日本海側では、昨年12月以来記録的な降雪に見舞われ、大雪による被害が多数発生した。新潟県中越地震で全村避難した山古志村(やまこしむら)(現長岡市)においては、住宅などが雪の重みで損壊する危険が生じたため、新潟県知事からの災害派遣要請により、12月から3月にかけて、村民などによる雪下ろし隊の安全確保及び緊急事態対処のために延べ人員1,340名、車両約280両を派遣した。また、中越地震の被災者が住んでいる仮設住宅周辺及び青森市の高齢者世帯などの除雪についても新潟県及び青森県知事からの災害派遣要請により、人員約2,200名、車両約410両を派遣した。

 
除雪を行う隊員(青森市)

 
主要な災害派遣実施地域(平成16年度)


 

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