第1章 国際軍事情勢 

在韓米軍

 在韓米軍は、韓国の国防努力とあいまって、朝鮮半島の軍事バランスを維持し、朝鮮半島における大規模な武力紛争の発生を抑止する上で大きな役割を果たしている。盧武鉉大統領は、昨年2月の就任演説で、米韓同盟が韓国の安全保障と経済発展に大きく寄与しており、同盟を発展させ互恵平等の関係に成熟させていくと述べた。また、ブッシュ大統領も、同年5月にワシントンで開かれた米韓首脳会談で、朝鮮半島とアジア太平洋地域における米軍の強固な前方展開に対する公約を再確認している。
 米国は、米韓相互防衛条約に基づき、第2歩兵師団と第7空軍などを中心とする約4万1,000人の部隊を韓国に配備し、韓国軍とともに米韓連合軍司令部を設置している。在韓米軍の主体は約3万人の陸軍兵力であり、議政府(ウィジョンブ)に司令部が所在する第2歩兵師団を中心として、その多くがソウル市内を流れる漢江(ハンガン)以北からDMZの間に駐留している。
 米韓両国は、朝鮮半島における不測事態に対処する共同防衛能力を高めるために、共同演習を行っている。たとえば、後方地域における大規模な野外実動演習である「フォール・イーグル」が、本年3月、連合戦時増援演習「RSOI:Reception, Staging, Onward movement & Integration」と同時期に行われた44
 なお、従来、在韓米軍司令官が行使していた韓国軍に対する平時の作戦統制権は、94(同6)年に韓国軍合同参謀議長に返還された。ただし、有事の際には、これまでどおり在韓米軍司令官が韓国軍に対して作戦統制権を行使することとなっている。
 在韓米軍の基地は、人口が密集しているソウルなどの都市部近郊にも所在しており、環境問題や財産権の侵害などの問題が提起されてきた。そこで両国政府は、基地統廃合に伴う供与地返還について協議を重ね、02(同14)年3月に連合土地管理計画(LPP:Land Partnership Plan)に署名した。現在、後述の在韓米軍の再配置合意に伴い、LPPの改正案が検討されている模様である。
 現在、米韓両国間で今後の米韓同盟のあり方について議論がなされている。昨年5月の米韓首脳会談で、両首脳は、在韓米軍を統合し、ソウル中心部の龍山(ヨンサン)基地を早期に移転することに合意したほか、漢江以北の米軍基地の再配置については朝鮮半島と北東アジアにおける政治、経済、安全保障情勢を慎重に考慮し推進すべきであるということで一致した。さらに同年6月の米韓国防長官会談において、両長官は、できるだけ早期に龍山基地をソウル市外に移転する必要があることに同意し、米軍の漢江以南への統合を2段階で進めることを強く約束した45。また、本年1月の「未来の米韓同盟政策構想」第6回会議46で、両国は、07(同19)年までに龍山基地を、米韓連合軍司令部と在韓国連軍司令部を含めてソウル以南に移転することに合意したとされる。
 このように見直しが検討されている中、昨年5月、韓国国防部と在韓米軍司令部は、在韓米軍の戦力増強のため、06(同18)年までに110億ドルを投入し、情報収集能力の向上や改良された精密誘導弾の増強などを実施する計画を発表した。その一環として、昨年9月、在韓米軍はペトリオット・ミサイルシステムの最新型であるPAC-3が韓国に実戦配備されたことを発表した47
 また、米国防省は本年5月、在韓米軍第2歩兵師団に所属する約3,600人をイラクへ派遣することを正式発表した。



 
44)「フォール・イーグル」は毎年秋に行われてきたが、02(平成14)年以降は「RSOI」と同時期に行われている。

 
45)昨年6月の「未来の米韓同盟政策構想」第2回会議において、両国は、漢江以北の米軍基地の再配置を数年にわたり2段階で進めることに合意した。それによると第1段階で漢江以北に駐留する米軍は2か所に統廃合され、第2段階で漢江以南に移転する。また、米軍は、第2段階の完了以降も、漢江以北において交代で訓練を行うことにより駐留を継続する。

 
46)米韓同盟の各種問題について協議するため、昨年4月の第1回会議から継続して開かれている。

 
47)本年秋、PAC-2とPAC-3で編成される2個砲隊が追加配備される予定である。


 

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