第5章 国民と防衛 

自衛隊の隊員

 自衛隊員は、図のように自衛官、即応予備自衛官、予備自衛官、予備自衛官補と事務官、技官、教官などに分けられる。

 
陸自第12普通科連隊を視察中の先崎陸上幕僚長(本年5月 鹿児島県国分駐屯地)

(1)自衛官1
ア 採用など
(ア)採用
 自衛官は、個人の自由意思に基づき入隊するという志願制度の下で、一般幹部候補生、一般曹候補学生、曹候補士、2等陸・海・空士、自衛隊生徒などとして採用される2。自衛官の募集業務の特色は、地方公共団体などの協力の下、北海道に4か所、全都府県に1か所ずつ配置している合計50か所の自衛隊地方連絡部が行っていることにある。

 
防衛庁職員の内訳

 
(イ)若年定年制と任期制
 自衛官の任用制度で、一般の公務員と比べ大きく異なる点は、自衛隊の精強さを保つため、「若年(じゃくねん)定年制」と「任期制」という制度をとっていることである。「若年定年制」は、一般の公務員より若い年齢で退職する制度である。「任期制」は、2年又は3年という期間を区切って任用する制度であり、士の多くがこの制度で採用されている。

 
自衛官の任用制度の概要

 
自衛官の階級と定年年齢

イ 部隊配属など
 採用後、各自衛隊の教育部隊や学校で基本的な教育を修了した自衛官は、全国の部隊などへ赴任する。なお、基本的な教育を終えるまでに、各人の希望や適性などに応じて、その進むべき職種・職域が決定される。具体的には、陸上自衛隊(陸自)では普通科(歩兵)、特科(砲兵)、機甲科(戦車・偵察)など、海上自衛隊(海自)では艦艇、飛行、装備など、航空自衛隊(空自)では飛行、航空管制、整備などがある。さらにその後、自衛隊の学校や部隊での教育訓練などを通じて、職務の遂行(すいこう)に必要な資質を養成するとともに知識や技能を向上させることとなる。
 また、自衛官には、勤務実績、功労に基づく選考や試験を通じて、上位の階級に昇任する道が開かれている点も特色の1つである。
ウ 処遇
 自衛官の職務内容は、各種の作戦を行うための航空機への搭乗、長期間にわたる艦艇や潜水艦での勤務、落下傘での降下など厳しい側面がある。このため、防衛庁・自衛隊は、隊員が誇りを持ち、安心して職務に従事できるよう、職務の特殊性を考慮した俸給と諸手当を支給している。また、職務遂行上必要な被服の支給や貸与、基地や駐屯地内に居住する曹士(そうし)自衛官に対する食事の支給を行うとともに、公務や通勤によらないで負傷したり病気にかかった場合でも、療養などが受けられる制度を備えている。
 部隊などでは、シフト勤務などの特殊な場合を除き、通常は、日課表に従い勤務しているが、自衛隊が対応すべき事態は、昼夜の別なく起こる可能性があることから、隊員は、いつでも職務に従事できる態勢になければならない。このため、陸上において勤務する曹長以下の自衛官は駐屯地や基地内での居住が、艦艇乗組員は艦艇での居住が原則3とされている。そこで、隊舎や艦艇の生活環境の整備・充実のため、隊舎の新設や建て替えを促進するとともに、艦艇の居住性の改善を進めている。また、隊員の福利厚生の充実を図るため、談話室、図書室、各種売店などを備えた厚生センターの整備なども行っている。

 
駐屯地隊員食堂において昼食喫食中の陸自隊員(本年3月 東立川駐屯地)

 
隊舎内居室において課業準備中の空自幹部候補生(本年5月 空自幹部候補生学校)

 
協力支援活動派遣のため艦艇食堂を利用して昇任試験を受ける海自隊員(昨年3月 インド洋 派遣護衛艦内)

 
エ 就職援護
 50歳代半ばで定年を迎える若年定年制の自衛官の多くは、退職後の生活基盤の確保などのため再就職を必要としている。また、任期制自衛官は、任期満了により大半が20歳代に退職しているため、その後の長い人生の生計を維持する上で再就職が必要不可欠である。
 このようなことから、防衛庁では、人事施策における最重要事項の一つとして、退職予定自衛官に対して、再就職に有効な技能を身につけるための訓練や、再就職に際しての心構え、必要な知識の教育を行うなど、就職援護のための様々な施策を講じている。
 このような施策は、自衛官が安心して職務に励むとともに、その士気を高め、優れた資質を有する人材を確保するためにも重要である。
 また、若年定年退職する自衛官が多数となる時期を迎えている中、今後も厳しい雇用情勢が続くことが予想される。このため、就職援護施策の一層の充実を図る必要があり、退職自衛官の公的部門における採用などを推進するとともに、各自衛隊などが有する雇用情報を有効に活用するためネットワーク化を進めているほか、職業訓練課目などを充実させ、再就職希望者の能力の向上を図るなどの施策を推進している。

 
定年退職した自衛官数

 
技能訓練隊において再就職のための職業訓練中の空自隊員(昨年10月 入間基地)

 
就職援護のための主な施策

(2)即応予備自衛官、予備自衛官、予備自衛官補
ア 予備の要員を保有する意義
 多様な事態に対して有効に対応し得る防衛力を整備し、同時に、事態の推移にも円滑に対応できるよう、適切な弾力性を確保し得るものとすることが適当であることから、自衛官の定数については、平素は必要最小限で対応しつつ、有事などには、その所要を早急に満たせるように、日頃から予備の自衛官を保持することが重要である。
 諸外国では、国家の緊急事態にあたり、人的戦力を急速かつ計画的に確保するため、予備役制度を整備している4。わが国でも、これに類似するものとして即応予備自衛官制度、予備自衛官制度、予備自衛官補制度という3つの制度を設けている。

 
各制度の比較

イ 雇用企業の協力
 即応予備自衛官、予備自衛官、予備自衛官補は、平素はそれぞれの職業に就いているが、必要な練度を維持するため、毎年仕事のスケジュールを調整し、休暇などを利用して訓練招集や教育訓練招集に応じている。
 このような即応予備自衛官、予備自衛官、予備自衛官補の制度を円滑に運用するためには、雇用企業などの理解と協力が不可欠である。
 特に即応予備自衛官については、年間30日の訓練招集に応じるため、雇用企業などに、不在時の業務調整や休暇取得の配慮など、必要な協力を求めることになる。このため、防衛庁は、即応予備自衛官を雇用する企業などの負担に可能な限り報いるとともに、即応予備自衛官が安心して訓練に参加できるよう、即応予備自衛官の訓練出頭などのために所要の措置を講じている雇用企業などに対し、即応予備自衛官雇用企業給付金を支給している。
 即応予備自衛官や予備自衛官は、自衛隊で培った責任感、気力、体力、規律心などを活かし、また、毎年の訓練に参加してこれらを磨くことにより、企業の期待に応じ得るものである。
ウ 予備自衛官補
 01(同13)年に導入された予備自衛官補制度は、国民に広く自衛隊に接する機会を設け、防衛基盤の育成・拡大を図るとの観点から、将来にわたり、予備自衛官の勢力を安定的に確保し、民間の優れた専門技術を有効に活用することを目的としている。予備自衛官補は、「一般」(後方地域での警備要員など)と「技能」(医療従事者、語学要員、情報処理技術者、建築士、車両整備士など)からなり、昨年度から教育訓練を開始した。予備自衛官補は、自衛官未経験者の志願に基づき採用され、「一般」の場合は、3年以内に50日、「技能」の場合は、2年以内に10日の教育訓練を修了した後、予備自衛官として任用される。

 
野外訓練を実施中(第2教育団担当)の一般公募による予備自衛官補(昨年8月 滋賀県大津駐屯地内)

 
予備自衛官補の採用などの状況

 
平成15年度新たに採用予定の予備自衛官補の技術区分

(3)事務官、技官、教官など
 事務官、技官、教官などは、防衛庁全体で約2万4,000名であり、その数は自衛官の約10分の1にあたる。これらの隊員は、主に国家公務員採用I種試験、防衛庁職員採用I種、II種、III種試験で採用され、様々な分野で業務を行っている。
 事務官などは、内部部局での防衛政策の立案、自衛隊の管理・運営の基本に関する業務、情報本部などでの情報業務、全国各地の自衛隊の運営に必要な行政事務(総務、基地対策など)、後方支援業務(整備・補給など)などに従事している。
 また、技術研究本部などの技官は、防衛力の技術的水準の維持向上を図るために必要な研究開発などに取り組んでいる。このほか、防衛研究所の教官は、自衛隊の管理・運営に関する基本的な調査研究を行い、防衛大学校や防衛医科大学校などの教官とともに、有能な隊員を育成するための教育に取り組んでいる。
 技官、教官で、本年3月末において、博士号を取得している者は約550名である。
 
(4)15年度予算における関連事業の概要
1) 生活関連施設の整備、勤務環境改善施設(整備工場など)の整備など
2) 諸手当の改善、雑役務の部外委託などの処遇改善

(5)人事施策
 防衛庁では、新しい時代に向けて、種々の施策を推進するとともに、新たな人事施策の検討を行っている。
ア 公務員制度改革に関連した検討
 公務員制度改革大綱が01(同13)年12月閣議決定されたことを受け、防衛庁における公務員制度改革について、防衛庁・自衛隊の特殊性などを十分勘案しつつ検討を行うため、同月、庁内に「防衛庁公務員制度改革推進委員会」を設置し、所要の検討を行ってきた。昨年10月には、同委員会に替え「防衛庁公務員制度改革等推進委員会」を新たに設置して、防衛庁における公務員制度改革についての検討と併せ、少子・高齢化や高学歴化などを踏まえた自衛隊の新たな人事教育施策についても検討を行っている。
イ 男女共同参画の取組
 00(同12)年、男女共同参画社会基本法に基づく男女共同参画基本計画が閣議決定された。防衛庁でも01(同13)年5月、「防衛庁男女共同参画推進本部」を設置し、仕事と育児の両立支援、施設、服制面での配慮、女性職員の採用・登用の促進などの検討を進めている。同本部の決定に基づき、本年4月より、女性の自衛官を表す場合の呼称として、「婦人自衛官」にかえて、「女性自衛官」を用いることとした。
ウ 隊員の離職後の再就職についての規制
 99(同11)年の自衛隊法改正を受け、00(同12)年7月、自衛隊員の再就職手続が改正された。この手続きでは、長官の承認の対象となる再就職の範囲を拡大し、具体的な承認基準などを定めるとともに、長官による再就職の承認状況の国会への報告義務が規定されている。また、長官は、防衛人事審議会5による審査結果に基づいて、就職の承認を行うこととされている。なお、昨年、長官が自衛隊員の営利企業への就職を個別に承認したのは92件(92名)である。
エ 再任用制度
 再任用制度は、高齢・有為な人材の公務内における積極的活用、雇用と年金の連携の確保を図るため、定年退職者などを再任用する制度である。
 防衛庁・自衛隊は、この制度に基づき、本年5月末現在89名を再任用している。

 
再任用制度の概要

オ メンタルヘルス
 隊員が強い使命感を持って、わが国の防衛という崇高な任務を全うするためには、隊員のメンタルへルス(精神的健康)6を保持することが極めて重要であるとの認識の下、防衛庁・自衛隊は、メンタルヘルスに関する様々な検討を行っている。
 また、00(同12)年の、部外の専門家などによる、自衛隊員のメンタルヘルスに関する施策の提言7を受け、現在、部外カウンセラーの拡充や電話による相談体制の整備などの具体的な施策を進めているほか、教育用ビデオの作成・普及を通して、メンタルヘルスに関する隊員の啓発にも努めている。
カ 15年度予算における関連事業の概要
1) 部隊での精神教育など服務規律の徹底
2) 各種相談体制の整備などメンタルヘルスの維持向上



 
1)資料42参照。

 
2)資料43参照。

 
3)結婚によって親族などを扶養する場合など一定の要件に該当すると認められる自衛官は、基地などの外での居住が認められている。

 
4)資料7参照。

 
5)中央省庁等改革における審議会の整理統廃合の方針を踏まえて、自衛隊離職者就職審査会と公正審査会の機能を統合し、昨年1月に設置した。部外有識者によって構成され、隊員の再就職に関する審査や、懲戒処分などに関する審査請求事項などの審査を行う。

 
6)メンタルへルス活動は、1)精神的疾病がない、2)甚だしい不安や苦悩がない、3)社会規範に適応している、4)自己実現がなされているといった状態を目指すものであり、個々の隊員の精神的健康を維持し、個人の資質・能力がより効果的に発揮できるように支援する諸活動である。

 
7)「自衛隊員のメンタルヘルスに関する提言の要旨」
http://www.jda.go.jp/j/delibe/mental/hokoku01.htm


 

前の項目に戻る     次の項目に進む