第1章 国際軍事情勢 

パキスタン

 パキスタンは農業を主要産業としているが、近年の史上最悪の旱魃(かんばつ)により経済的な打撃を受けた。国際通貨基金(IMF)主導による緊縮財政を余儀なくされ、また、対外債務も多く抱えており、経済・財政は、いまだ厳しい状態にあるものの、最近改善の傾向が見られる。
 対外関係では、イスラム諸国との友好・協力関係を重視しつつ、インドとの対抗上、特に中国との関係を重視している。また、米国での同時多発テロ以降、米国などによるテロとの闘いへの協力を表明した。この協力は国際的に評価され、98(同10)年の核実験を理由に米国などにより科されていた制裁は解除された1。しかしながら、国内では根強い反米感情があり、テロとの闘いで米国に協力するムシャラフ政権に対して強い反発もある。
 パキスタンは、いかなる核の傘も持たない以上、インドの核に対抗するために自国が核抑止力を保持することは、安全保障及び自衛の観点から必要不可欠であるとしている。
 パキスタン軍は、陸上戦力として9個軍団約55万人、海上戦力として1個艦隊約40隻約8万6,000トン、航空戦力として12個戦闘航空団などを含む作戦機約330機を有している。
 99(同11)年10月、ムシャラフ陸軍参謀長は軍事クーデターを起こし、軍政を開始し、01(同13)年6月には、自ら大統領に就任したが、同年8月、上下院選挙の時期及び憲法改正実施などを含む民政移管プロセスを発表した2。しかし、同年9月の米国同時多発テロ及びその後のテロとの闘いの中でパキスタン国内の安定が内外から求められたことを受けて、昨年4月に、ムシャラフ大統領の5年間の任期延長を問う国民投票が実施され、その結果、大多数の賛成票が得られた。さらに、陸軍参謀長を兼任するムシャラフ大統領は、同年8月に、議会の解散権、陸海空軍参謀長の任命権、大統領を長とする国家安全保障会議の設置など大統領の権限を強化した憲法改正を発表した。
 他方、パキスタンでは民政移管に向けた動きとして、昨年10月に下院及び州議会選挙が実施され、ジャマリ首相以下の新内閣が発足し、本年2月には上院選挙も実施された。なお、これらの選挙では、ムシャラフ大統領の対米協調政策等に反対する反米的なイスラム政党が躍進し、アフガニスタン国境沿いの北西辺境州の議会では多数を確保した。



 
1)同じく核実験を理由に米国などによりインドにも科されていた制裁も併せて解除された。

 
2)2000(平成12)年5月、最高裁判所は、本クーデターの合法性を認めたが、ムシャラフ軍事政権に対し3年以内に上下両院及び州議会選挙の実施を命じた。


 

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