第1章 国際軍事情勢 

軍事態勢

(1)全般
 極東ロシアの軍事態勢について、その戦力は、1990(平成2)年以降縮小傾向がみられ始め、現在も、ピーク時に比べ大幅に削減された状態にあるが、依然として核戦力を含む相当規模の戦力が存在している。
 現在、極東地域には、地上兵力約11万人1、艦艇約280隻、作戦機約650機が配備されている。
 また、極東地域のロシア軍においては、ロシアの厳しい財政事情から必要な資金が配分されず、訓練などの活動は、依然として全般的には低調であったが、一部復調の兆しがみられる。さらに、政府・軍の要人が昨年相次いで極東地域を訪れ、極東地域の重要性を強調し、同地域の軍施設の整備の必要性を強調した。加えて、本年夏には同地域で大規模な軍事演習2が実施されるとしている。部隊の充足率については、軍改革に伴って部隊数が削減されたことから、結果として向上しつつあると考えられるが、即応態勢を維持しているのは戦略核部隊、常時即応部隊などに限られ、一般の部隊の即応態勢はいまだ低い模様である。
 極東地域のロシア軍の将来像については、ロシア国内の不透明な政治・経済情勢や軍改革の動向とあいまって必ずしも明確ではなく、その動向については、引き続き注目しておく必要がある。しかしながら、見通し得る将来において極東地域のロシア軍が冷戦時代のソ連軍のような規模・態勢に戻る可能性は低いと考えられる。その背景としては、現在、経済は比較的好調な状態にあるとはいえ、経済的に従来と同程度の軍の規模・態勢を維持することが困難になったこと、米国との軍事的緊張関係の緩和により太平洋での軍事的プレゼンスを強調する必要性が低下したこと、中国との関係改善が図られた結果、露中間の軍事的緊張関係が緩和され、中国に対する軍事的警戒の必要性が低下したことなどが挙げられる。

 
わが国に近接した地域におけるロシア軍の配置

(2)核戦力
 極東地域における戦略核戦力については、SS-25などの大陸間弾道ミサイル(ICBM)や戦略爆撃機Tu-95Hベアーがシベリア鉄道沿線を中心に配備され、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を搭載したデルタIII級などの弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN:Ballistic Missile Submarine Nuclear-Powered)がオホーツク海を中心とした海域に配備されている。これら戦略核部隊については、極東地域における他の部隊の活動が全般的に低調となっているにもかかわらず、即応態勢がおおむね維持されている模様である。
 昨年5月に戦略核兵器削減に関する条約(通称「モスクワ条約」)が米露間で署名されたが、これが極東地域の戦略核戦力にどのような影響を与えるのか注目される。
 非戦略核戦力については、極東地域のロシア軍は、中距離爆撃機Tu-22Mバックファイア、海上(水中)・空中発射巡航ミサイルなど多様な装備を保有している。バックファイアは、バイカル湖西方、樺太対岸地域及び沿海地域に約70機配備されている。

(3)陸上戦力
 極東地域の地上軍の兵力は、90(同2)年以降、その規模は縮小傾向にあり、現在、16個師団約11万人となっている3
 また、海軍の太平洋艦隊は、揚陸艦艇は減少しているものの、減少は下げ止まりの傾向にある。海軍歩兵師団を擁しており、水陸両用作戦能力を有している。

(4)海上戦力
 海上戦力については、太平洋艦隊がウラジオストクやペトロパヴロフスクを主要拠点として配備・展開されており、主要水上艦艇約20隻と潜水艦約20隻(うち原子力潜水艦約15隻)、約27万トンを含む艦艇約280隻、合計約75万トンで、90(同2)年以降、その規模は縮小傾向にある。

 
極東地域のロシア軍の地上兵力の推移

 
極東地域のロシア軍の主要海上兵力の推移

(5)航空戦力
 航空戦力については、空軍、海軍を合わせて約650機の作戦機が配備されている。その作戦機数は、ピーク時に比べ大幅に削減された状態にあり、最近も減少しているが、新型機種は維持されている。

 
極東地域のロシア軍の航空兵力の推移(戦闘機)

 
極東地域のロシア軍の航空兵力の推移(爆撃機)



 
1)従来、極東地域におけるロシア軍の地上兵力について、ザバイカル軍管区及び極東軍管区における地上軍の推定兵員数を用いてきたが、1998(平成10)年に、ザバイカル軍管区とシベリア軍管区が統合されたことから、99(同11)年より、(新)シベリア軍管区及び極東軍管区における推定兵員数を挙げている。

 
2)本年5月の日露首脳会談において、小泉総理より北方四島において同演習が行われる可能性について懸念を表明した。これに対し、プーチン大統領より、日露関係に悪影響を与えぬよう話し合っていきたい旨発言された。

 
3)師団の一部は、地域防御的な部隊である機関銃・砲兵師団へ改編され、また、削減された師団の中には、旅団化されたものや、人員の充足により他の師団と同様な戦力への回復が可能である動員基地に転換されているものもある。なお、極東地域においては、1998(平成10)年には、ザバイカル軍管区とシベリア軍管区の統合が完了したほか、カムチャツカ半島などに所在する地上部隊が太平洋艦隊隷下の北東部統合コマンドへ編入され、99(同11)年及び昨年、地上部隊の一部部隊が解体された模様である。


 

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