第1章 国際軍事情勢 

台湾の軍事力など

 台湾では、00(同12)年1月に「国防法」が制定され、昨年3月に施行された。同法では、軍政・軍令の一元化、すなわち、「総統」と文民である「国防部長」による統帥や軍の政治的中立などを明確にした。
 台湾は、防衛政策として、民間の能力も防衛に活用した総合的な防衛力の増強を行うことで台湾の平和と安定を維持するとの「全民防衛」をとっている1。また、台湾人民や財産への被害を局限化するために、台湾領域での戦争、紛争を防止することを原則とした「有効抑止、防衛固守」戦略をとっている。
 台湾は97(同9)年から「精実案」と称する防衛力の見直しを行った。その主な内容は、総兵力を45万人から40万人まで削減し、陸軍については、従来の師団編成から、火力と機動力を強化した諸兵種旅団に変更し、海軍も新鋭艦の導入に伴い艦隊編成を変更することなどである。本案は01(同13)年完了したが、湯曜明「国防部長」は昨年2月、04(同16)年から兵員数を毎年1万5,000人ずつ削減し、06(同18)年までに総兵力を35万人に削減することを表明した。
 台湾軍の勢力は、現在、陸上戦力が12個師団と陸戦隊2個師団合わせて約27万人、海上戦力が約340隻約20万7,000トン、航空戦力が空軍、海軍を合わせて作戦機約530機である。
 現在、台湾は、陸軍を中心とした兵員の削減とともに、装備の近代化に力を入れており、新型地対空ミサイルの配備を開始している。また、自主開発戦闘機「経国」号やF-16、ミラージュ2000といった新型戦闘機や新型フリゲートの導入なども行われている。米国は、01(同13)年、台湾関係法に基づき、キッド級駆逐艦4隻、ディーゼル型潜水艦8隻、哨戒機(P-3C)12機などを含む売却可能な武器のリストを台湾に提示、昨年11月に米国防省はキッド級駆逐艦4隻と関連装備を売却する計画を米議会に通告したと発表した。
 台湾は、このような装備の近代化にもかかわらず、人民解放軍の大幅な近代化が台湾に与える脅威は、単純な数量的優勢にとどまらず、質的な競争へと変化しつつあるとしている。
 また、昨年2月の米中首脳会談でブッシュ大統領が台湾関係法を堅持するとの発言を行い、同3月には台湾の湯曜明「国防部長」が訪米2、同9月には康寧祥「国防部副部長」(当時)がワシントンを訪問するなどの動き3がみられる。
 なお、中台の軍事力については単なる量的比較だけではなく、様々な要素から判断されるべきであるが、一般的特徴は、次のように考えられる。
1) 陸軍力については、中国が圧倒的な兵力を有しているが、台湾本島への着上陸侵攻能力は限定的である。
2) 海・空軍力については、中国が量的には圧倒しているが、質では台湾が優位である。
3) ミサイル攻撃力については、中国は台湾を射程に収める短距離弾道ミサイルを保有している。
 いずれにせよ、軍事能力の比較は、兵力、装備の性能や量だけではなく、運用態勢、要員の練度、後方支援体制など様々な要素から判断されるべきものであり、このような観点から、今後の中台の軍事力の近代化や米国による台湾への武器売却などの動向に注目していく必要がある。特に、中国の軍事力の近代化は急速に進んでおり、近い将来にも中台の軍事バランスにおける台湾の質的優位に大きな変化を生じさせる可能性もある。



 
1)「台湾の防衛は全民防衛であり、軍事、政治、経済、心理及びその他の国家防衛に直接または間接的に貢献する要素を包含する。」(「国防法」第1章第3条)とされている。

 
2)昨年3月、台湾の湯曜明「国防部長」は、民間の会議に出席するために、現職としては1979(昭和54)年の断交以来初めて米政府からビザを得て訪米し、ウルフォウィッツ国防副長官やケリー国務次官補とも会談した。米側は湯曜明「国防部長」に対し、レーガン政権下の82(同57)年に定めたとされる「六つの保証」指針(1)台湾への武器供与の終了期日を定めることに同意していない、2)台湾への武器売却に関し、中国と事前協議を行うことに同意していない、3)中国と台湾の仲介を行わない、4)台湾関係法の改正に同意していない、5)台湾の主権に関する立場を変えていない、6)中国との対話を行うよう台湾に圧力をかけない)を守ると語ったと伝えられる。

 
3)現職としては1979年(昭和54)年の断交以来初めてのワシントン訪問。また、本年2月には陳肇敏「国防部副部長」が民間の会議に出席するため訪米している。


 

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