1999(同11)年に関係閣僚会議で了承された「能登半島沖不審船事案における教訓・反省事項について」においては、不審船を停船させ、立入検査を行うという目的を十分に達成するとの観点から、危害射撃(注3−30)のあり方を中心に法的な整理を含め検討することなどとされた。政府としては、この教訓・反省事項を踏まえ内閣官房が事務局となって関係省庁で検討を行ってきた。この結果を踏まえ、昨年10月5日、政府は第153回臨時国会に自衛隊法改正案など(注3−31)を提出し、改正案は、同月29日成立し、11月2日公布、施行された。本改正は改正された海上保安庁法を自衛隊法で準用することとしたものである。その概要は次のとおりである。
海上警備行動時などにおいて、職務上の必要から立入検査を行う目的で船舶の進行の停止を繰り返し命じても乗組員などがこれに応じずなお抵抗し、又は逃亡しようとする場合において、一定の要件(注3−32)に該当する事態であると防衛庁長官が認めたときは、海上警備行動などを命ぜられた海上自衛隊の自衛官は、その船舶の進行を停止させるために他に手段がないと信ずるに足りる相当な理由のあるときには、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度において、武器を使用することができ、その結果人に危害を与えることとなっても、法律に基づく正当行為と評価されることとなる。
武装工作員などによる不法行為を防止あるいは鎮圧するに当たっては、現行の自衛隊法によって治安出動時などに認められている武器使用により、十分に対処できるのかなどの指摘が国会などでこれまでになされてきた。
前述したように、不審船や武装工作員などの不法行為について、外部からの武力攻撃に該当しない場合に、警察機関では対処が不可能又は著しく困難と認められる事態が発生したときには、自衛隊は、海上警備行動や治安出動により対処することになる。防衛庁としては、こうした枠組を前提としながら、検討を進めてきた。
その結果、前述の自衛隊法改正において、次の点を内容とする改正を行った。
防衛庁長官は、治安出動命令が発せられること及び小銃、機関銃などの武器を所持した者による不法行為が行われることが予測される場合において、その事態の状況の把握に資する情報の収集を行うため特別の必要があると認めるときは、国家公安委員会と協議の上、内閣総理大臣の承認を得て、武器を携行する自衛隊の部隊にそのような者がいると見込まれる場所又はその近くにおいてそれらにかかわる情報の収集を命ずることができる。
また、情報収集の職務に従事する自衛官は、その職務を行うに際し、自己又は自己とともにその職務に従事する隊員の生命又は身体の防護のためやむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる。その場合、正当防衛又は緊急避難に該当する場合のほか、人に危害を与えてはならない。
治安出動時の武器の使用(資料67参照)
治安出動を命ぜられた自衛隊の自衛官が事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができ、その結果人に危害を与えることとなっても、法律に基づく正当行為と評価されることとなる場合として、従来の、
ア 職務上警護する人、施設又は物件に対する暴行又は侵害を排除する場合
イ 多衆集合して行う暴行又は脅迫を鎮圧又は防止する場合
に、次の場合を追加した。
ウ 小銃、機関銃(機関けん銃を含む。)、砲、化学兵器、生物兵器などの武器を所持し、又は所持していると疑うに足りる相当の理由のある者による暴行又は脅迫を鎮圧又は防止する場合