
政府は、総理の指示に基づき、1996(平成8)年から、わが国に対する危機が発生した場合やそのおそれがある場合における、政府がとるべき対応について、起こり得る種々のケースを想定し、必要な対応策を検討、研究するための作業を行ってきた。この検討・研究は、内閣官房が事務局となり、「在外邦人などの保護」、「大量避難民対策」、「沿岸・重要施設の警備など」、「対米協力措置(施設・区域面での協力や米軍の後方支援)など」について関係省庁が連携をとって進めてきているものである。
この間においても、96(同8)年の北朝鮮座礁潜水艦乗員の韓国侵入事案、99(同11)年及び昨年12月の不審船事案、昨年の米国での炭疽(たんそ)菌事案などの各種事案が発生した。これらは、必ずしも防衛出動に至らない場合であっても、わが国の平和と安全に重要な影響を与える事態が実際に起こりうることを示しているものであり、これら各種の事態に自衛隊としていかに迅速かつ適切に対応するかが大きな課題となってきている。
これらを踏まえ、政府は、00(同12)年までに、「在外邦人などの輸送」、「対米協力措置など」については法整備を行った。さらに昨年、不審船及び武装工作員などへの対処をより適切に行うための自衛隊法の改正を行った。
本節では、こうした各種の事態への自衛隊の対応について説明する。
一般に、不審船事案や武装工作員などによる破壊活動など平時における不法行為への対処は、第一義的には警察、海上保安庁などの警察機関の任務であるが、自衛隊は、警察機関に対して警察官などの輸送、各種資器材の提供など必要な支援を行うことが考えられる。
また、警察機関では対処が不可能又は著しく困難と認められる事態が発生した場合には、海上における警備行動(海上警備行動)(注3−20)や治安出動(注3−21)により自衛隊が対処する。さらに、事態が外部からの武力攻撃に該当する場合には、防衛出動により対処する。
1999(同11)年に発生した能登半島沖の不審船事案(注3−22)では、北朝鮮の工作船と思われる2隻の不審船に対し、自衛隊創設以来初めての海上警備行動が発令され、海上自衛隊は護衛艦による停船命令、警告射撃や哨戒(しょうかい)機(P−3C)による警告としての爆弾投下などの対処を行った。
この不審船事案の教訓・反省事項を踏まえて、海上自衛隊では次に示す事業を進めている。
新型ミサイル艇の整備に当たり速力などを向上(注3−23)
不審船の武装解除・無力化を行うため「特別警備隊」(注3−24)を新編
護衛艦、哨戒(しょうかい)ヘリコプターへの機関銃の装備
不審船を停船させるための強制停船措置用装備品(平頭弾)(注3−25)の装備
立入検査活動を円滑に行うために必要な艦艇要員を確保するための充足率の向上など
また、99(同11)年に海上保安庁との間で「不審船に係る共同対処マニュアル」を策定し、不審船が発見された場合の初動対処、海上警備行動の発令前後における相互間の役割分担などについて規定するとともに、情報交換及び対処要領などに関する共同訓練などを行い、連携の強化を図っている。

昨年12月21日午後2時20分ごろ、海上自衛隊の哨戒(しょうかい)機(P−3C)が、通常の警戒監視活動のために鹿児島県の鹿屋(かのや)航空基地を離陸した。以後、多数の船舶を識別する過程で、同日午後4時30分ごろ、この哨戒(しょうかい)機(P−3C)は一般の外国漁船と判断される船舶を視認した。この哨戒(しょうかい)機(P−3C)は、念のため同日午後5時すぎにこの船舶を再度視認し、写真撮影をした上で、鹿屋(かのや)航空基地に帰投した。以後、鹿屋(かのや)航空基地でこの哨戒(しょうかい)機(P−3C)が撮影した画像の識別を行う過程で、この船舶について、海上幕僚監部(ばくりょうかんぶ)などに精緻(せいち)な解析を求める必要があるものと判断し、撮影した写真の伝送を開始した。同日午後10時すぎより、海上幕僚監部(ばくりょうかんぶ)において、伝送された写真の出力が始まり、専門家による写真解析作業が開始された。その結果、翌22日午前0時30分ごろ、防衛庁として、この船舶につき、前述の能登半島沖で確認された不審船と同様な性格の船舶である可能性が高い不審な船舶との判断に至った。防衛庁としては、速やかに官邸などに連絡を開始するとともに、この船舶の最新の位置情報を入手した上で、同日午前1時10分ごろ、海上保安庁に連絡を行った。
また、哨戒(しょうかい)機(P−3C)により引き続き所要の追尾・監視を行うとともに同日午前11時20分、警戒監視活動を行うため護衛艦2隻を派出した。
今回の不審船事案への対応については、政府として検証作業を行ったが、このうち防衛庁に関するものとして、次のような措置を講じることとしている。
哨戒(しょうかい)機(P−3C)が滞空のまま画像を基地まで伝送する能力を強化する(注3−26)とともに、写真画像など容量の大きな情報を基地から海上幕僚監部(ばくりょうかんぶ)などへ伝送する能力を強化する(注3−27)。
対処体制を早期に整えるため、不確実であっても早い段階から、内閣官房・防衛庁・海上保安庁間で不審船情報を適切に共有する。
工作船の可能性の高い不審船については、不測の事態に備え、政府の方針として、当初から自衛隊の艦艇を派遣する。
装備上の措置としては、現場で対処する隊員の安全を確保しつつ、不審船に対して有効な停船措置を講ずるため、遠距離から正確な射撃を行うための武器の整備などを推進する。
さらに、政府としての武装不審船に対する対応要領を策定し、不審船対処の基本、情報の集約、評価、対応体制などについて定めることとされている。
なお、排他的経済水域で発見した不審船を取り締まる法的根拠及び排他的経済水域で発見した不審船に対する武器使用要件の緩和については国際法上の制約などを踏まえつつ政府としてさらに検討することとされた。
