4 中国

全般

(1) 政治情勢

 中国は、「富強」、「民主的」、「文明的」な社会主義国を建設することを目標に、経済建設を最重要課題として改革開放路線を推進してきており、その前提となる国内外の安定的な環境を維持するため、内政の安定と団結、特に、社会的安定を重視するとともに、対外的には、周辺諸国との良好な経済協力関係を維持促進することを基本としつつ、国防面では、国防力の近代化・強化に努めている。本年3月の第9期全国人民代表大会(全人代)第4回会議における朱鎔基首相の「国民経済と社会発展の第十次五か年計画綱要に関する報告」においても、経済発展の堅持が主要課題とされ、2010(平成22)年までにGDP(Gross Domestic Product)を00(同12)年の2倍増にするための強固な基礎を築き上げることを主要目標とするとともに、国防分野においては、国防と軍隊の建設の強化が強調された。また、江沢民国家主席が唱える「三つの代表」(注1-118)指導思想がこの報告に盛り込まれ、改革開放を進める中国共産党の指導原理としての権威づけが図られている。
 一方、気功による心身の鍛錬を目的としているとされる「法輪功」集団による活動が問題となっている。「法輪功」は、1999(同11)年に北京において大規模な座り込み運動を行った。昨年10月にも天安門広場で抗議行動を行うなど、政府に対する抵抗活動を行っている。また、共産党幹部の汚職が大きな政治問題となっており、昨年8月には前全人代常務委員会副委員長が収賄・職権乱用の罪で死刑執行され、また、本年2月に福建省アモイ市を舞台にした大規模な密輸事件の裁判で収賄罪などに問われた被告が死刑執行されている。本年の全人代における最高人民検察院報告においては、汚職・腐敗関連で前年比17.5%増の4万5,113件を摘発したと報告され、汚職の深刻さが明らかになった。
 これらの問題に対し、政府は、99(同11)年に「法輪功」を非合法化したほか、全人代第4回会議において朱鎔基総理が「法輪功」との闘争継続や反腐敗闘争の展開を呼びかけるなど、国内の安定化を図っている。

(2) 台湾との関係

 中国と台湾との関係は、近年、貿易・投資の増進、文化・学術の交流などを通じて経済関係及び人的交流が深まってきた。本年1月には、「小三通」(注1-119)が実施された。
 一方で、中国は、台湾は中国の一部であり、台湾問題は中国の内政問題であるとの原則を堅持しており、また、平和的な統一を目指すものの、外国勢力による中国統一への干渉や台湾独立をねらう動きに対しては、武力行使を放棄していないことを度々表明している。99(同11)年に李登輝「総統」(当時)が中台関係を「特殊な国と国との関係」(二国論)と表現したことに対して、中国は、一つの中国の原則を否定し国家分裂を促すとして強い反発を示し、両岸間の対話が中断した。
 中国は、昨年2月に「一つの中国の原則と台湾問題」白書(台湾白書)を発表し、その中で、台湾当局が交渉による両岸統一問題の平和解決を無期限に拒否するなら武力行使を含むあらゆる可能な断固たる措置をとる旨明言した(注1-120)
 昨年3月の台湾「総統」選挙で当選した陳水扁「総統」は、従来、「台湾独立」を綱領としてきた民主進歩党から立候補したものの、昨年5月の就任演説においては慎重な姿勢を示し、中国が武力行使を行わない限り、独立宣言をせず、「中華民国」との名称を変更せず、「二国論」を憲法に盛り込まず、統一か独立かを問う住民投票を行わないことなどを明らかにしている。さらに昨年末、陳「総統」は、「中台は経済と文化の統合から徐々に信頼を築き、永久平和政治の枠組みを追求しよう」と発言した。
 中国も、最近では、中台間の対等性に配慮する姿勢を示している。たとえば、「大陸と台湾はともに一つの中国に属する」と度々表明したり、従来中国が主張していた「中華人民共和国が全中国を代表する唯一の合法政府である」という考え方を台湾に対しては「一つの中国」論で言及しないこととし、中台が中央と地方の立場ではなく、平等の立場で協議を行うとしている(注1-121)。このように、中国は、台湾に対して柔軟な姿勢を示しつつも、前述したように、台湾が交渉による両岸統一問題の平和解決を無期限に拒否する場合、武力行使の可能性もあり得ることを表明し、「一つの中国」の問題については、中台間の議論の前提であることを台湾に認めるよう要求している。
 一方、台湾は、陳「総統」がこの問題について中台双方が共同で未来の「一つの中国」の問題を解決していきたいとの意向を表明し、「一つの中国」は議論の前提ではなく、議題の一つとして取り上げるとしている。
 中台間には、このように基本的立場になお隔たりがあることから、双方とも交渉の糸口を見つけることができずに公式対話は途絶えたまま膠着(こうちゃく)状態が継続している。今後、双方が公式対話を再開するために、何らかの歩み寄りが見出せるかといった観点から、今後の台湾をめぐる問題の平和的解決に向けた動向の行方が注目される。

(3) 米国との関係

 米中関係は、99(同11)年のNATOによる在ユーゴ中国大使館の誤爆事案を契機として停滞したが、大使館誤爆事案の賠償問題が解決し、昨年10月に「恒久最恵国待遇付与法」(注1-122)が成立するなど両国関係は改善に向かい、昨年1月に熊光楷副総参謀長が訪米し、7月にはコーエン国防長官(当時)が訪中するなど米中軍事交流が再開されている。
 しかし、米中関係においては、台湾への武器売却(注1-123)など、種々の懸案も存在している。中国との「建設的な戦略的パートナーシップ」を謳(うた)っていたクリントン前政権と異なり、ブッシュ新政権は、中国を「敵でもなく、味方でもない、戦略的競争相手である」と位置づけている。
 また、本年4月1日、南シナ海の海南島南東の公海上空を偵察飛行していた米海軍のEP-3電子偵察機と、これを追跡していた中国海軍のJ-8戦闘機2機のうち1機が空中接触する事故が起きた。米軍機は損傷して海南島の陵水(リンスイ)飛行場に緊急着陸し、接触した中国軍機は墜落した。米側は乗組員及び機体の早期返還を求めたのに対し、中国側は責任は完全に米側にあるとして謝罪や偵察飛行の停止を要求した。しかし、4月11日、米国が中国人民及び墜落した中国軍機の乗組員の家族に対して誠に残念である旨表明したことを受け、中国側は同日夜に米軍乗組員24人の帰国を認めた。その後、機体の返還について両国間で原則合意がなされた旨の発表が5月29日にあった。


(写真)商用衛星イコノスが撮影した海南島に緊急着陸した米海軍電子偵察機(EP-3)〔Copyright Space Imaging LLC/株式会社アイ・エム・シー〕) (4章1節1参照)

商用衛星イコノスが撮影した海南島に緊急着陸した米海軍電子偵察機(EP-3)〔Copyright Space Imaging LLC/株式会社アイ・エム・シー〕


(4) ロシアとの関係

 中露両国は、世界の多極化と国際新秩序の構築を推進するとの認識を共有しており、両国関係は全般的に進展している。中国は、ロシアとの間で戦略的協力パートナーシップを確立したとしており、昨年7月の中露首脳会談においても「戦略的協力パートナーシップ」が確認されたほか、米国のNMD(National Missile Defense)システムへの反対や、主権国家の内政問題への介入への反対などが謳われた。また、ロシアから中国には近代的な武器が売却されている。

(5) 近隣諸国などとの関係

 中国は、近隣諸国などとの間で軍人を含む最高幹部級の相互交流を進めているほか、これら諸国との間に存在する問題解決に向けた努力も行っている。最近では、ヴィエトナムとの間で99(同11)年に陸上国境画定に関する協定への署名を行い(昨年7月に発効)、昨年12月にはヴィエトナムのルオン大統領が訪中し、トンキン湾の境界画定に関する協定への署名が行われた。また、97(同9)年以来、ASEAN非公式首脳会議に日本、韓国とともに出席を続けており、昨年11月のASEAN諸国と日中韓3か国の首脳会議においては、ASEANと日中韓の間で東アジア地域協力の重要性が確認された。さらに、96(同8)年以降、ロシア、中国及び中央アジア3か国(カザフスタン、キルギス、タジキスタン)の5か国会議が毎年開催されるなど、中央アジア諸国との交流も進めている。南アジアに対しては、パキスタンと一定の関係を有していると判断される一方、98(同10)年のインドによる核実験に際してはインドが実施の理由の一つとして中国の脅威を掲げたことから、中国はこれを厳しく批判する声明を発表して関係が悪化した。しかし、昨年5月にインドのナラヤナン大統領が訪中し、本年1月には李鵬全人代常務委員会委員長が訪印して国境交渉の加速化及び世界の多極化に向けた協力強化で合意するなど、最近では関係改善が進められている。