ミサイル防衛
米国は、弾道ミサイルの拡散による脅威に対応するため、弾道ミサイル防衛(
BMD
:Ballistic Missile Defense)として、戦域ミサイル防衛(
TMD
:Theater Missile Defense)
(コラム注1)
と国家ミサイル防衛(
NMD
:National Missile Defense)
(コラム注2)
の開発を進めてきました。NMDについては、対弾道ミサイル・システム制限(
ABM
:Anti-Ballistic Missile)条約を修正する必要があるとされています
(コラム注3)
が、ロシアは修正に反対し続けています。また、1999(平成11)年10月から昨年7月にかけて行われた3回の迎撃実験のうち2回が失敗に終わりました。これらを受け、クリントン前大統領は、昨年9月、技術面、運用面での有効性について十分な情報がない、配備を決定する前に同盟国やロシアの理解を得る必要があるなどとして、NMD配備の決定を次期大統領に先送りしました。
ブッシュ政権は、大量破壊兵器や弾道ミサイルの拡散が懸念される今日の安全保障環境においては、抑止力はもはや核による大量報復のみに基づくことはできず、攻撃核戦力と非核防衛能力の組み合わせに基づくことが必要であるとして、前政権に比してミサイル防衛に積極的な姿勢を示しています。すなわち、可能な限り早期に、利用可能な最善の技術に基づき、限定的な弾道ミサイル攻撃から全米50州、海外展開米軍、同盟・友好国を防衛するミサイル防衛
(コラム注4)
を配備しなければならないとしています。ABM条約については、冷戦の遺物として、これに代わり、21世紀の安全保障環境に対応するための新たな枠組みが必要であるとしています。ミサイル防衛の具体的な構造、規模などについては、現在、検討が進められているところです
(コラム注5)
。
米国によるミサイル防衛の推進に対しては、従来から、ロシア、中国が、ABM条約は戦略的安定の基礎であり、米国によるNMD配備は他国の核戦力を減殺することにより戦略的安定を破壊し、核軍拡競争をもたらすとして強く批判しています。ロシアは、
START II
の批准に当たって、ABM条約の維持を条件としたほか、中国などと共同でABM条約の維持やNMDへの反対を表明するなどの外交攻勢をとる一方、本年2月、ABM条約に抵触しないものとして、
NATO
に対して独自の欧州ミサイル防衛構想を提案しました。
これに対し、ブッシュ政権は、ミサイル防衛はミサイル拡散の脅威に直面している国際社会の利益にかなうものであり、他国を害しようとしない限りいかなる国にとっても脅威となるものではないとし、その必要性について、同盟国をはじめロシア、中国と協議を開始しました。
なお、NATO諸国の反応は当初様々でしたが、米国がミサイル防衛について同盟国などとの協議を重視する姿勢を明確にしたことを歓迎し、協議を行っています。
また、ブッシュ政権は、21世紀の安全保障環境に対応するための新たな枠組みの一環として、安全保障上必要最低限まで核戦力を削減する方針であり、その際、ロシアにも米国とともに削減するよう促しますが、米国が一方的に削減することも視野に入れています。
このように、米国はミサイル防衛と同時に核軍縮を推進していく方針であり、今後、ロシア、中国をはじめとする関係各国とのミサイル防衛や核軍備管理・軍縮に関する協議の行方が注目されます。
わが国としては、米国のミサイル防衛について次のように考えています。
ブッシュ大統領は、ミサイル防衛を含む新たな戦略的枠組みにおいて、核兵器の一層の削減につき表明しており、わが国はこれを歓迎しています。
わが国は、弾道ミサイルの拡散がもたらす深刻な脅威につき米国と認識を共有しています。
米国がこれに対処するための様々な外交努力を行うとともに、ミサイル防衛計画を検討していることをわが国として理解しています。
弾道ミサイル防衛(BMD)に関する日米共同技術研究は、引き続き推進していきたいと考えます。
わが国は、ミサイル防衛問題が軍備管理・軍縮努力を含む国際安全保障環境の向上に資する形で扱われていくことを望んでおり、米国が同盟国やロシアなどとも十分に協議すると表明していることを歓迎しています。わが国としても、この件につき米国と緊密に協議していく考えです。