資料63 自衛官の処遇・勤務環境の改善及び新たな生涯設計の確立に関する基本方針 (令和6年12月20日)  一層厳しさを増す安全保障環境の中、我が国の平和と独立を守るため、身をもって責務の完遂に務めている自衛官の処遇改善、勤務環境の改善、そして新たな生涯設計の確立が喫緊の課題となっている。  このため、今般、内閣総理大臣を議長とし、官房長官、防衛大臣をはじめ、幅広い関係大臣を構成員とする「自衛官の処遇・勤務環境の改善及び新たな生涯設計の確立に関する関係閣僚会議」(以下「会議」という。)を10月9日に設置した。  10月25日に第一回会議を開催し、その場で、議長たる内閣総理大臣より、副議長たる防衛大臣を中心に、関係省庁が連携して取り組むべき方策の方向性と、令和7年度予算に計上すべき項目を年内にとりまとめるよう指示がなされた。  これを受け、関係省庁の間で精力的に検討を重ね、「自衛官の処遇・勤務環境の改善及び新たな生涯設計の確立に関する基本方針」を次のとおり取りまとめるものである。  今後も、この方針に基づき、自衛官が、安んじて国防という国家にとって極めて枢要な任務に専念できるよう、内閣が一致して万全の体制を構築していく。  なお、下記のうち下線部分については令和7年度政府予算案等においても適切に反映等を行う。また可能なものから順次、令和8年度概算要求においても盛り込んでいくこととする。 記 はじめに  内閣府の実施する自衛隊・防衛問題に関する世論調査によれば、今や国民の9割は、自衛隊に好意的な印象を持っている。  これは自衛隊創設以降70年の間、災害派遣など、様々な任務に真摯に当たってきた自衛官の地道な努力の賜物と言えるであろう。  しかし、自衛隊に対する好意的な印象にもかかわらず、自衛官の募集は困難な状況にある。  令和5年度は2万人募集したところ、1万人しか採用できなかった。自衛官の定員割れが続き、充足率は約90%となっている。戦後最も厳しい安全保障環境に対応した防衛力の抜本的強化のためには、その担い手である自衛官の確保が至上命題であり、このまま抜本的な策を講じなければ、さらに状況は悪化するばかりである。  国の防衛という厳しい任務を担うがゆえに、平素から、自衛官は厳しい環境に耐え続けることが当たり前であるという組織文化では、人材確保はおぼつかない。  個々人のやりがいと働きやすさを大切にし、働きがいを向上させる組織にしていく必要がある。防衛省・自衛隊は、強い危機感をもって取り組んでいかなければならない。  それでも、自衛官は、身をもって我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つという任務の特殊性から、様々な負担や制約から逃れることはできない。そのため、自衛官は、その特殊性に見合った処遇を得る必要があり、特別職の国家公務員として、一般職の国家公務員とは異なる人事管理制度及び給与制度を設けてきたところである。引き続きこうした特殊性が適切に評価され、自衛官という職業を選択したことについて、誇りと名誉を感じることができる処遇を確立していくことが重要である。さらに、多くの自衛官が56歳で退職する中、再就職や再就職後の再就職・収入に不安を感じさせないようにすることが自衛官の確保にとっても重要な課題である。自衛官としての知識・技能・経験を活かした再就職先の拡充や、安んじて生活できる収入の確保などを通じ、自衛官の将来不安の払しょくに取り組む必要がある。  本会議は、こうした問題意識を基に設置され、自衛官の処遇・勤務環境の改善や新たな生涯設計について、高い頻度で活発な議論を行った上で、次のとおり具体的な方策を進めていくことを決定する。 T 具体的な方策 1 自衛官の処遇改善  我が国が戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面する中で、防衛力の抜本的強化を真に実現するためには、優れた自衛官を安定的に確保し続ける必要がある。このためには、これからの防衛力の担い手となる世代が、安心して厳しい任務に従事でき、自衛官という職業を選択したこと、現役時代は自衛官であること、退職後は自衛官であったことの誇りと名誉を得ることができるような、令和の時代に相応しい処遇を確立する必要がある。  上記を踏まえ、過去に例のない30を超える手当等の新設・金額の引上げ等(手当等の新設8、金額の引上げ等25)を講ずることとする。 (1)任務や勤務環境の特殊性を踏まえた給与面の処遇改善  自衛官の俸給表は、昭和25年の警察予備隊発足時に、主として警察官等に適用される公安職俸給表(一)をベースに、一定の超過勤務手当分を繰り入れた構造とし、そこから大きく見直すことなく現在に至っている。自衛官の任務や勤務環境の特殊性、課された制約や負担に見合った給与とするため、現在実施している勤務実態調査の結果や公平性・公正性を確保するための部外の専門家の意見を踏まえ、あるべき俸給表の水準や俸給月額の算定の仕組みについて検討し、自衛官の俸給表を令和10年度に改定することを目指す。  また、我が国を取り巻く安全保障環境が厳しさを増す中にあって、任務や勤務環境の特殊性を正当に評価し、自衛官として質の高い人材を確保し続けるため、自衛官の中でも特殊な業務に従事する者に対して、手当を充実する。令和7年度には、航空管制業務を担う自衛官に支給する手当(例:1尉であれば月額約2万9千円)、対領空侵犯措置等に対処する航空機の整備員に支給する手当(日額1,200円)及び主要な野外演習等に従事する隊員に支給する手当(日額1,400円)を新設し、航空機の乗員に支給する航空手当(例:戦闘機パイロットの1尉であれば月額2万9千円増の約26万5千円に)や災害派遣等手当(日額540円増の2,160円に)を引き上げるとともに、陸海空自衛隊のサイバー専門の部隊等の隊員に特殊作戦手当等を新たに支給する(例:1尉であれば月額約2万9千円)。  なお、潜水手当不正受給事案が発生したことも踏まえ、手当を不正受給できないようなシステム化や電子化を進めるほか、手当等に係る関連規則や事務手続の教育やコンプライアンス教育などの再発防止策を徹底し、手当等の適正な執行に努めていく。 (2)士をはじめとした幅広い層の人材確保のための処遇改善  自衛官の応募者数・採用者数が大幅に減少する中でも、特に、士の採用は厳しく喫緊の課題となっている。このため、当初から自衛官として採用する新たな任期制士を創設し、入隊当初から有事や災害等に際して任務に従事できるような態勢を整えるとともに非任期制自衛官と同等の処遇を確保し、令和8年度より自衛官候補生制度を廃止する。また、任期・非任期に関わらず、一般曹候補生又は自衛官候補生で入隊する者に不慣れな営舎内生活等に対する給付金(指定場所生活調整金(仮称))を新設し、採用後6年間で120万円を給付することにより、若く壮健な人材の確保を後押しし、精強な部隊を維持する。さらに、新たな任期制士の制度が創設されるまでの間、速やかにできる措置として、令和7年度に自衛官任用一時金を現行より12万3千円増の34万4千円に引き上げる。加えて、任期制自衛官が任期満了後に大学等に進学し、在学期間中に予備自衛官又は即応予備自衛官に任官した場合に支給される進学支援給付金について、例えば即応予備自衛官であれば現行より年額約24万5千円増の約53万6千円に引き上げるなど進学支援給付金制度の拡充を図るとともに、自衛官として様々なスキルを培い、任期を全うして次のステップに進んでいく「自衛隊新卒」としての援護広報の強化や民間の職業紹介事業者も活用した再就職先の拡充にも取り組み、とりわけ採用状況の厳しい任期制自衛官の処遇の改善を図る。  また、将来の戦い方を見据えた自衛隊の人的基盤の強化のため、自衛隊奨学生制度を更に拡充し、現行より年額31万2千円増の96万円に引き上げるなど、幅広い層から優秀な人材確保を推進するための施策を推進する。 (3)予備自衛官等の処遇改善  予備自衛官等は、有事や災害に際しては自衛官となって防衛力を急速に増強する役割を担い、継戦能力の上でも重要な存在であることから、必要な人員数を確保すべく、予備自衛官等として安んじて活躍していくことができるよう、環境づくりを進める。  具体的には、例えば予備自衛官手当を現行より月額8千円増の約1万2千円とするなど予備自衛官等に支給する手当を引き上げるとともに、現在即応予備自衛官に支給されている勤続報奨金について、現行より9万5千円増の21万5千円に引き上げるほか、新たに予備自衛官に対しても7万円を支給するための制度を整備する。これにより、予備自衛官であれば、1任期当たりの支給額が現行より約41万円増の約68万円、即応予備自衛官(3曹)であれば1任期当たりの支給額が現行より約103万円増の約274万円となる予定である。また、進学支援給付金制度の拡充を図るほか、予備自衛官等が使用する被服の計画的な更新や装具等の更新も促進する。  さらに、訓練に参加しやすい環境を確保するため、予備自衛官等本人が事業主等である場合の支援や、予備自衛官等に関する理解と協力を一層獲得するために必要な施策を実施するとともに、国家公務員又は地方公務員が予備自衛官等の職を兼ねる場合においても、訓練に参加しやすくするための施策を講ずる。 (4)功績に相応しい叙勲等の在り方  自衛官に対する叙勲等の栄典は、長年にわたり任務に精励した功績をたたえ、自衛官であったことの誇りと名誉、国民からの尊敬を得るうえでも重要であり、これまで生存者叙勲の受章機会のなかった者への範囲の拡大など、その功績に相応しい叙勲等の在り方を検討する。 2 生活・勤務環境の改善 (1)若い世代のライフスタイルに合った生活・勤務環境の構築  自衛隊という組織全体のパフォーマンスを向上していくに当たっては、やりがいと働きやすさの双方を向上し、自衛官一人ひとりが働きがいを感じられる環境を構築していくことが不可欠である。  他方で、自衛隊においては、例えば、間仕切りなどのプライベートなスペースがない状況下で複数の隊員が同一の部屋で居住するなど、必ずしもプライバシーに配慮した生活環境とはなっていない。しかしながら、少子高齢化の大きな流れの中で、現下の人手不足が自衛隊にも深刻な影響を及ぼしていることを踏まえ、自衛隊としても社会の変化をしっかりと直視し、若い世代のライフスタイルに合った生活・勤務環境を構築する。  また、真に国民の期待に応えられる組織とするためには、自衛隊の組織文化そのものについても、良いところは残しつつ、時代の変化に合わせて変えていく必要がある。自衛隊は、若い世代も含め、隊員一人ひとりが自己効力感を感じられる組織への変革を進めていく。 @組織文化の改革  自衛隊が現在顕在化する新たな戦い方に対応していくに当たっては、質の高い、多様な人材を獲得し続ける必要がある。また、一般社会における労働に対する考え方が変化・多様化し、特に若い世代においてワークライフバランスを重視した働き方や、自らの達成感や成長感といった精神的充実が得られる職場を選好するようになっている。こうしたことを踏まえ、将来の戦い方や一般社会の変化に合わせて人の組織である自衛隊も変革していくことが喫緊の課題である。  具体的には、現代に相応しいリーダーシップを身に着けた自衛官を養成し、特に異世代のマネジメントに必要なスキルに焦点を当てて、自衛隊のマネジメントに必要な能力の見直しや教育を強力に推進する。また、自衛隊が組織として目指す方向を明文化し、心理的安全性や自衛官一人ひとりのエンゲージメントの高い組織づくりを推進する。こうした取組を推進することにより、人の組織である自衛隊としてハラスメントを許容しない環境を構築していく。加えて、ハラスメントが隊員相互の信頼を失わせ精強性を揺るがすものであることを踏まえ、ハラスメントに関する基準を明確化するだけではなく、時代に即した適切な基準を維持するため社会情勢や業務量の変化などを踏まえ、見直しの必要性を不断に検討していく。そして、隊員一人ひとりによる咀嚼と実践に努め、組織内に基準を浸透させる。 A営舎内居室の個室化等  国内外情勢から、本来任務に備えるための教育訓練に加え、激甚広域化する災害に際しての災害派遣や在外邦人等輸送をはじめとする各種任務への即応態勢確保等のため、以前にも増して隊員の心理的・身体的な拘束による負担は増加している。このため、曹長以下の自衛官は、原則、営舎内居住が義務づけられているところ、私生活との両立の観点から、営舎外に居住できる者の範囲を見直す。また、近年の若い世代の傾向を踏まえ、営舎内においても、プライバシーが配慮された生活環境を構築できるよう、営舎内居室の個室化についてスピード感をもって計画的に進めることにより、早期完了を目指す。その際、自衛隊の任務遂行に当たっては集団行動も求められることから、隊員一人ひとりの関係が希薄なものにならないよう留意するとともに、隊員が基本的な集団行動について習得する機会は確保する。加えて、庁舎や隊舎の居住環境や勤務環境の改善に向けて隊員のニーズをくみ取りつつ、必要な改修や修繕等きめ細やかな対応を継続する。  さらに、自衛官は、緊急時の対応などのため、様々な待機態勢があることから、その在り方を検証の上、所要の見直しを行う。 B艦艇乗組員の生活・勤務環境の改善  艦艇の乗組員は艦艇への居住が義務づけられているところ、艦艇内の居住区は特に狭く、プライバシーが確保されておらず、航海中の精神的負担が大きいことから、新型艦の居住区の魅力化や乗員待機所の拡充など艦艇乗組員の生活・勤務環境の改善を行う。 C宿舎環境の改善  自衛隊がその能力を十分に発揮し、士気高く任務を全うするためには、隊員及びその家族の居住環境の改善に取り組むことも重要である。これまでも宿舎の老朽化対策等に継続的に取り組んでいるが、今後もこれを更に推進する必要がある。この際、宿舎の改修やPFIによる建替え等をスピード感をもって計画的に推進していくとともに、近年の住宅事情を踏まえた住宅設備の充実及び生活の利便性と即応性との調和に留意した取組を進め、職務のさらなる能率的な遂行を確保する。 D通信環境の整備の推進  現代社会における若い世代のライフスタイルを踏まえると、通信環境は必須のインフラであり、自衛隊においても隊員一人ひとりの生活の充実感を確保するため通信環境を整備する。  具体的には、陸上自衛隊においては、令和7年度までに全国駐屯地のすべての生活隊舎の共用区画に1か所以上の無線LAN環境を整備するなど、駐屯地・基地等の厚生棟及び生活隊舎の共用区画等における無線LAN環境を拡充していく。また、令和9年度までに主要艦艇においては、業務用通信の補完として整備される商用低軌道衛星通信網を活用して、隊員と家族との連絡に加え、インターネットの閲覧等を可能とする通信環境を構築する。 E公共交通機関が少ない基地・駐屯地等へのアクセス改善  自衛隊の基地・駐屯地等には、僻地等に所在し、公共交通機関も少なく、生活の利便性に乏しいものもあるところ、部外力を活用し、最寄り駅等へのバスの運行の拡充やカーシェアリングのサービスの導入などを推進することで、生活環境を改善する。 (2)仕事と育児・介護の両立及び女性活躍の推進  社会構造の変化により、自衛官も男女ともに育児・介護などのため時間や異動に制約のある者が増加することが想定される。このため、自衛官の勤務の特殊性や社会全体における保育に係る需給バランスの変化に配慮した託児事業の充実など、自衛官が育児・介護との両立に不安を抱くことなく、任務に専念できる環境の整備を推進する。  また、女性の採用・登用を拡大していくため、教育基盤の整備や隊舎などにおける女性用区画、女性用トイレや浴場等の整備をスピード感をもって計画的に推進する。 (3)被服・糧食及び健康管理体制の充実  隊員が日ごろから身に着ける制服や作業服といった被服等については、隊員がその能力を発揮し、各種任務を遂行するため、適切に整備・更新を進めていくとともに、使用実態に応じて定数の増加や仕様の改善を行う。  糧食については、隊員が活動するために必要な栄養摂取基準をもとに健康管理を充実させ、食事の満足度の向上を図る観点から、隊員が要望する献立などを提供するといった工夫を行い、継続的に魅力化を図っていく。また、全国の駐屯地等における実態を把握するとともに、物価上昇に係る経費を適切に反映する。  健康管理体制についても、これまで実施してきた各種健康診断の充実を図るとともに、トレーニング用備品の購入など、隊員の健康増進に資する基盤整備を引き続き実施するとともに、新たな施策として、教育訓練時における各隊員の健康状態の把握のための器材整備についても検討を進めていく。 3 新たな生涯設計の確立 (1)若年定年制における将来不安の払しょく  若年定年制で多くの自衛官が56歳で退職する中、再就職や再就職後の再就職・収入に不安を感じさせないようにすることが、自衛官の確保にとっても重要な課題である。一般職の公務員の定年を65歳に引き上げるにあたり、民間の給与水準を踏まえ、60歳から65歳までの給与水準は、60歳時の約7割の水準に設定されているところ、自衛官の所得水準は、一般に、若年定年後に退職時の7割強に低下し、60歳時点で更にその7割に低下する構造になっている。こうした状況を踏まえ、一般職の国家公務員よりも若年で退職する自衛官の退職後の収入を確保し、引き上げていくことが必要である。また、現在、退職自衛官が再々就職する場合には国の支援が受けられない現状にある。自衛官が安んじて国防の任務に精励することができる、これまで以上に充実した生涯設計の確立が必要である。 @自衛官としての知識・技能・経験を活かした再就職先の拡充等  自衛官が安んじて国防の任務に精励することができる、これまで以上に充実した生涯設計の確立のため、退職する自衛官が自衛隊で培った知識・技能・経験を活かすことができる環境を整える。  具体的には、退職する自衛官のより円滑な再就職や再就職賃金の充実などを実現すべく、関係省庁と防衛省が連携して幅広い業界や経済団体に対し退職自衛官の活用等についての働きかけを行い、再就職先の拡充を図る。  また、警察、消防、海上保安、矯正部署等の様々な公的部門において退職自衛官が活躍しているところ、本年11月には海上保安庁の選考採用について、これまでの航空機職員に加えて船舶職員へも対象を拡大しており、引き続き関係省庁と防衛省が連携し、一層の活用を推進する。  このほか、全国の地方公共団体の防災・危機管理部門において約700名の退職自衛官が地域防災に貢献し、各地の防災力向上に重要な役割を担っているところ、自衛官として培った知識・技能・経験を地域防災に一層活用するべく、地方公共団体における退職自衛官の採用の拡大、安定的な雇用の確保、職務や責任にふさわしい処遇の確保が進むよう関係省庁と防衛省が連携して地方公共団体への働きかけを行う。あわせて、地方公共団体が退職自衛官を雇用しやすくするため、地域防災マネージャー制度について、財政措置を含めて、その在り方について検討を進める。  また、退職する自衛官に対する再就職に向けた職業訓練といった再就職支援の取組を強化する。再就職に向けた教育に新たにライフプランに関する講座を、また、職業訓練にIT関連課目等を追加するなどの充実を図る。その際、大学や専門学校等の関係機関が提供する学習機会との連携についても取組を進める。さらに、幅広い業界において、自衛官が培ってきた知識・技能・経験への理解が深まるよう、自衛官のキャリアパスなどを紹介する動画を作成し再就職先を拡充するための広報の強化を図る。  さらに、退職する自衛官の利便性の向上を図り、幅広い求人情報を閲覧し応募ができるよう、退職する自衛官と企業等とのマッチングを担っている(一財)自衛隊援護協会に就職援護情報ネットワークシステムを導入する。  加えて、関係省庁と防衛省が連携して、退職する自衛官が自衛隊の勤務を通じて培った技能を活かし、民間企業でも通用する海技士や航空整備士といった公的資格を取得しやすくするためのプロセスの簡素化に取り組む。  なお、現在、防衛省が行うことができる再就職支援は、離職に際しての一度だけとなっているが、退職後に再就職した自衛官の中には、再就職先の雇用条件等により、やむを得ず退職せざるを得ず、再び就職する必要が生じる者もいる。そのため年金受給開始年齢である65歳まで安心して社会で活躍していくことができるよう、そうした退職自衛官に対する再就職支援を可能とする。  こうした65歳までの再就職支援や後述する若年定年退職者給付金の給付水準の引上げの検討とあわせて、これまで培った知識・技能・経験を活かした人材の有効活用や自衛官の生涯設計の観点から、健康寿命の延伸と精強性の確保の均衡に考慮しつつ、一般隊員の定年を令和10年度以降2歳程度引き上げることを念頭に詳細な検討を行う。また、一部の職域に適用されている60歳定年については、宇宙、サイバー、医療関係などの分野のうち体力依存度が低いと認められるものにも拡大することについて検討する。これらの具体的な引上げ幅や対象等について令和7年夏頃を目途に決定する。また、自衛官の再任用の対象を定年退職後に自衛官としての勤務から一旦離れた者にも拡大するなど、定年後再任用者の確保のための施策を推進する。 A若年定年退職後の国からの給付水準の在り方  上記の再就職先の拡充及び再就職賃金などの充実を図りつつ、これまで以上の充実した生涯設計を確立し、自衛官の若年定年退職後も安んじて生活できるよう、部外の専門家の意見を踏まえ、令和8年度から施行することを目指し、若年定年退職者給付金の給付水準の引上げを検討する。その際、施行前後で大きな不公平感が生じないよう留意する。 (2)退職自衛官の部外力としての活用  我が国の人口減少が継続し、深刻な人手不足社会の到来が現実のものとなり、所要の数の自衛官の確保が困難となることが見込まれる中、新たな戦い方のための要員の所要に対応するに当たっては、自衛官の担うべき業務の整理を引き続き検討するとともに、自衛隊で知識・技能・経験を培った退職自衛官を中心とする法人や団体への業務の委託などを含めた、部外力としての退職自衛官の活用の在り方について検討を進める。 4 その他  上記のほか、自衛官として質の高い人材を確保するための取組や、国民の命と暮らしを守るための自衛官の貢献に対する国民の幅広い理解を得るための取り組みを強化する。  特に、自衛隊に対し、国民から多くの期待が寄せられる中、自衛隊がその能力を最大限に発揮し任務を遂行するためには、国民の支持と信頼を勝ち得ることが必要不可欠である。これに関し、本年7月に公表した一連の事案のいずれも、このような支持と信頼を裏切る、決してあってはならないものであり、防衛省・自衛隊として引き続き重く受け止め、規律維持に強い姿勢をもって取り組み、再発防止策を徹底していく。また、システム化や電子化を進めることでヒューマン・エラーや不正を防止することなどを含め、コンプライアンス機能や監査機能等を継続的に強化し、自衛隊と個々の隊員が、常に高い使命感と倫理観をもって任務に当たることを確保する。  さらに、防衛省・自衛隊の有する知識や経験を活かし、関係機関等における各種講座への講師派遣等を通じて、防衛・安全保障や災害対応といった自衛隊の活動に対する国民の理解を促進していく。  このほか、本基本方針に記載の具体的方策を継続的に推進するとともに、防衛省・自衛隊における人的基盤の強化を図る観点から、防衛省人事教育局に人的基盤の強化を担う室を設置し、省内における検討体制を充実させる。 (1)募集に関する地方公共団体との連携  平成25年には、自衛隊に対して募集対象者情報を電子データ又は紙媒体で提供していただいた市区町村はおおよそ全体の三分の一であったところ、年々割合は増加し、令和5年度にはおおよそ三分の二となっている。防衛省としては、総務省と連携し、募集対象者情報を有するすべての市区町村から電子データ又は紙媒体の提供が得られることを目指すとともに、防衛力の中核となる自衛官の確保の重要性に対する地方公共団体の理解を促進し、連携を強化していく。 (2)自衛官等の採用を推進するための広報・募集の強化  募集対象者である若年層に対し、本基本方針に定められた各方策の内容を含め、一層効果的に自衛隊の魅力を届けていけるよう、SNSやターゲティング広告等の募集広報のデジタル化・オンライン化を更に進めると共に、地方協力本部の人的・物的な体制の充実を図ることで募集活動を強化する。また、既卒者等に対する自衛官候補生及び一般曹候補生の募集のアプローチを強化するため、本年11月から防衛省と厚生労働省が連携してハローワークを活用した求人活動を開始しており、引き続き積極的に推進していく。  引き続き厳しい募集環境にあるものの、一人でも多くの採用者を獲得するため、入隊者の大部分は上半期に応募してくることを踏まえ、年度内の残期間において、既卒者等の募集活動や採用辞退者を減らすための応募者への働きかけを行うことも含め、速やかに本基本方針の取組を分かりやすく発信することにより、積極的な募集活動を実施し、本基本方針に定められた方策の成果を得ることを目指す。 II 今後の進め方  上記のうち下線部分については令和7年度政府予算案等においても適切に反映等を行う。また、法律・制度改正が必要なものについては速やかに検討を進めるとともに、可能なものから順次、令和8年度概算要求においても盛り込んでいくこととする。  また、本基本方針に定められた各方策については、自衛官の採用、中途退職抑制、充足率向上等にいかに寄与しているかという観点から、令和7年中に効果の検証を行い、以後年に1回フォローアップを行う。こうした検証を踏まえつつ、採用者数増加、中途退職抑制、充足率向上等に資する新たな方策を継続的に検討する。 (速やかに実施) 〇自衛官の勤務の特殊性を踏まえた処遇改善やこれまで以上に充実した生涯設計の確立を図る方策(自衛官の俸給表の改定及び若年定年退職者給付金の給付水準の引上げ)について、部外の専門家による検討に着手する。この際、若年定年退職者給付金の給付水準は令和8年度から引き上げることを、自衛官の俸給表は令和10年度に改定することを目指す。 〇営舎外居住許可基準を緩和するため規則改正を行う。 〇自衛官としての知識・技能・経験を活かした再就職先の拡充を図るため、業界・関係省庁・防衛省の間で、可能なものから随時、申合せを締結、又は業界等に対する関係省庁・防衛省の連名での要請文などを発出する。 〇自衛官としての知識・技能・経験を活かした再就職先の拡充を図るため、公的部門での退職自衛官のより積極的な活用を開始する。 〇自衛隊で知識・技能・経験を培った退職自衛官を中心とする法人や団体への業務の委託などを含めた、部外力としての退職自衛官の活用の在り方についての検討に着手する。 〇地方公共団体に対する募集活動への一層の協力を呼びかける通知を発出する。 (令和7年度中) 〇自衛官の中でも特殊な業務に従事する者に対して、手当を充実する。 〇一般曹候補生又は自衛官候補生で入隊する者の不慣れな営舎内生活等に対する給付金(指定場所生活調整金(仮称))を新設する。 〇自衛官任用一時金を引き上げる。 〇進学支援給付金制度及び自衛隊奨学生制度を拡充する。 〇予備自衛官及び即応予備自衛官に支給する手当等を引き上げる。 〇予備自衛官に対する勤続報奨金の制度を整備する。 〇事業を営む予備自衛官等が招集された場合の給付金を新設する。 〇自衛官に対する生存者叙勲について、各自衛隊幹部候補生学校を卒業した幹部自衛官の1佐(三)及び2佐にも対象範囲を拡大する。 〇退職自衛官を地方公共団体において雇用しやすくするため、地域防災マネージャー制度について、財政措置を含めて、その在り方についての検討を進める。 〇退職する自衛官が自衛隊で培った知識・技能・経験を再就職後に活かすために取得しようとする公的資格について、関係省庁とプロセスの簡素化に向けた検討を進め、可能なものから速やかに実施する。 〇自衛官の再任用の対象を、定年退職後に自衛官としての勤務から一旦離れた者にも拡大する。 〇一般隊員の定年を2歳程度引き上げることを念頭に詳細な検討を行う。一部の職域に適用されている60歳定年については、宇宙、サイバー、医療関係などの分野のうち体力依存度が低いと認められるものにも拡大することについて検討する。これらの具体的な引上げ幅や対象等について令和7年夏頃を目途に決定する。 〇防衛省人事教育局に人的基盤の強化を担う室を新設する。 (令和8年度中) 〇任期制自衛官について、非任期制自衛官と同等の処遇確保も視野に、自衛官候補生制度を廃止し、当初から自衛官として採用する新たな任期制士を創設して採用を開始する。 〇国家公務員又は地方公務員が予備自衛官等の職を兼ねる場合においても、訓練に参加しやすくするための制度整備を行う。 〇若年定年制自衛官が離職する際に実施している再就職の援助(援護)について、一定の要件の下、年金受給開始年齢の65歳に至るまで、国がこれを援助(援護)するための制度整備を行う。 〇部外の専門家による検討を踏まえ、若年定年退職者給付金の給付水準を引き上げる。 (令和9年度以降) 〇部外の専門家による検討を踏まえ、令和10年度に自衛官の俸給表を改定する。 〇一般隊員の定年引上げや60歳定年職域の拡大に関する検討結果を踏まえ、令和10年度以降、引上げ等を実施していく。 以上