資料62 装備品等の開発及び生産のための基盤の強化に関する基本的な方針 (令和5年10月12日) はじめに  政府は、令和4年12月、国家安全保障戦略、国家防衛戦略及び防衛力整備計画を策定した。その中で、防衛生産・技術基盤は、自国での装備品等の研究開発・生産・調達を安定的に確保し、新しい戦い方に必要な先端技術を装備品等に取り込むために不可欠な、いわば防衛力そのものであり、その強化が必要不可欠であるとされるとともに、我が国の防衛産業は装備品等のライフサイクルの各段階(研究、開発、生産、維持・整備、補給、用途廃止等)を担っており、装備品等と防衛産業は一体不可分であって、防衛産業が高度な装備品等を生産し、高い可動率を確保できる能力を維持・強化していくため、国は必要な予算措置等、これに必要な法整備、及び政府系金融機関等の活用による政策性の高い事業への資金供給を行うとされた。令和5年2月にこれらを実現するための法律案が国会に提出され、国会における審議を経て、同年6月7日に「防衛省が調達する装備品等の開発及び生産のための基盤の強化に関する法律」(令和5年法律第54号。以下「法」又は「本法」という。)が成立した。  法第3条において、防衛大臣は、装備品等の開発及び生産のための基盤の強化に関する基本的な方針(以下「本基本方針」という。)を定めることとしている。  装備品等の開発及び生産のための基盤(以下「基盤」という。)の強化に関する施策は、基盤の強化を通じて装備品等の安定的な製造等の確保を図り、防衛力の整備や自衛隊の任務遂行を円滑かつ確実なものとすることを通じ、我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つことに寄与するものでなければならない。こうした観点から、本法で規定された施策が適切に実施され有効に効果を発揮するために、本基本方針を定める。また、本基本方針を定めることで、平成26年に策定した「防衛生産・技術基盤戦略」に代わり、今後の基盤の維持・強化の方向性を新たに示す。  なお、本基本方針において使用する用語は、本法において使用する用語の例による。 第1章 我が国を含む国際社会の安全保障環境及び装備品等に係る技術の進展の動向に関する基本的な事項 第1節 我が国を含む国際社会の安全保障環境  我が国を含む国際社会は、今、ロシアによるウクライナ侵略が示すように、深刻な挑戦を受け、新たな危機に突入している。  我が国周辺国の軍事動向に目を向けると、中国は、国防費を継続的に高い水準で増加させ、十分な透明性を欠いたまま、核・ミサイル戦力を含む軍事力を広範かつ急速に増強している。また、東シナ海、南シナ海等における海空域において、力による一方的な現状変更の試みを強化している。さらに、中国は、ロシアとの戦略的な連携を強化し、国際秩序への挑戦を試みている。開発金融等に関する活動の実態も十分な透明性を欠いており、また、他国の中国への依存を利用して相手国に経済的な威圧を加える事例も起きている。中国は、台湾について平和的統一の方針は堅持しつつも、武力行使の可能性を否定せず、さらに、台湾周辺海空域において軍事活動を活発化させている。現在の中国の対外的な姿勢や軍事動向等は、我が国と国際社会の深刻な懸念事項であり、我が国の平和と安全及び国際社会の平和と安定を確保し、法の支配に基づく国際秩序を強化する上で、これまでにない最大の戦略的な挑戦であり、我が国の総合的な国力と同盟国・同志国等との連携により対応すべきものである。北朝鮮は体制を維持するため、大量破壊兵器や弾道ミサイル等の増強に集中的に取り組んでおり、近年、かつてない高い頻度での弾道ミサイルの発射等を繰り返し、関連技術・運用能力を急速に向上させている。こうした北朝鮮の軍事動向は、我が国の安全保障にとって、従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威となっている。ロシアによるウクライナ侵略は国際秩序の根幹を揺るがすものであり、欧州方面における防衛上の最も重大かつ直接の脅威と受け止められている。また、我が国周辺においても北方領土を含む極東地域において、ロシア軍は活発な軍事活動を継続している。こうしたロシアの軍事動向は、我が国を含むインド太平洋地域において、中国との戦略的な連携と相まって防衛上の強い懸念である。  また、科学技術の急速な進展が安全保障の在り方を根本的に変化させ、各国は将来の戦闘様相を一変させる、いわゆるゲーム・チェンジャーとなり得る先端技術の開発を行っている。加えて、サイバー領域等におけるリスクの深刻化、偽情報の拡散を含む情報戦の展開、気候変動等のグローバルな安全保障上の課題も存在する。 第2節 装備品等に係る技術の進展の動向  科学技術は、社会や人々の生活だけでなく安全保障の在り様を大きく変え、近年は特に、民生分野において様々な技術が急速に発展しており、安全保障にも大きな影響を与えている。  人工知能(以下「AI」という。)や情報通信技術等の分野では、民生用と安全保障用の技術の区別が極めて困難になっている。ロシアによるウクライナ侵略においては、これらの技術が応用された無人機による攻撃や監視・偵察活動が実施されている。AIを搭載した無人機の開発は世界各国で進められており、最近では、スウォーム(群れ)飛行ができる小型無人機や潜水艦発見用の無人艦、空対空戦闘の自動化等、多様な研究開発が行われている。また、情報通信技術の発達によりサイバー攻撃が頻発しており、社会に深刻な影響を及ぼしているほか、安全保障にとっても現実の脅威となっている。  このほか、社会に変革をもたらす重要な技術として、量子技術に注目が集まっている。特に、量子暗号通信や量子センサ、量子コンピュータ、更に量子コンピュータでは解読できない耐量子計算機暗号といった、軍事分野への応用が期待されている技術の実用化に向けた研究開発が各国において進められている。また、3Dプリンタのような積層製造技術も実用化が加速している。積層製造技術を活用することにより、複雑な構造物の製造が低コストで可能となり、在庫に頼らない部品調達によって兵站に革命が起きる可能性があるとされている。  近年開発が進められている極超音速滑空兵器は、通常の弾道ミサイルとは異なる低い軌道を、マッハ5を超える極超音速で長時間飛翔すること、機動性を有すること等から、探知や迎撃がより困難になると指摘されている。また、多様な経空脅威に対処するための手段として、レールガンや高出力レーザー兵器、高出力マイクロ波等の高出力エネルギー兵器の開発が進められている。  さらに、将来的な技術として例えば、鳥や昆虫の飛行に必要な構造や機能等を模倣した生物模倣技術の活用が研究されている。情報収集が可能な小型の虫型ドローン等、世界各国でこれまでにない画期的な装備品等の研究開発が進められている。  こうした中、我が国を守り抜くためには、重要な技術分野を特定・育成し、他国に先駆けた先進的な能力や技術的優位性を確保することで、画期的な装備品等の創製につなげることが極めて重要である。例えば、物理分野で優位性を獲得するために必要な技術として、無人化・自律化技術や、将来の戦いに適応し得る宇宙関連技術・微小ロボット技術、従来使われていなかったエネルギーを活用するための技術、新たな機能を実現する素材・材料関連技術等があげられる。  また、情報分野においては、より早く、正確に情報を得るためのセンシング技術や、膨大な情報を瞬時に処理するためのコンピューティング技術、これまで見えなかったものを検知するための量子イルミネーション技術や素粒子検出技術、仮想・架空情報を活用するためのメタバース技術や立体ホログラム投影技術、部隊内外において瞬時に情報共有を可能とするBeyond 5G技術、効率的・効果的にサイバー空間を防御するためのサイバーキルチェーン自動分断・対処技術等があげられる。認知分野では、脳科学を活用した認知能力向上のためのトレーニング技術や、認知分野可視化技術等があげられる。このような先端技術に加えて、防衛特有の従来技術分野においても、デジタル技術の活用等により、既存の装備品等の着実な能力向上に取り組むことが重要である。  このように、装備品等に係る技術の進展の動向は大きく様変わりしており、新たな技術が常時現れ、旧来の技術に取って代わる速度も著しく加速化している。我が国周辺の安全保障環境が急速に厳しさを増している中、科学技術・イノベーションの創出は、我が国の経済的・社会的発展をもたらす源泉である。新しい戦い方に必要な装備品等の調達、ひいては我が国の安全保障環境の改善のためには、官民の先端技術研究の成果や新たに生み出される様々な技術を、従来の考え方にとらわれず積極的かつ迅速に活用していくことが重要である。 第3節 基盤を取り巻く環境  我が国における基盤には、いくつかの特徴がある。まず前提として、工廠(装備品等に係る国営工場)を持たない我が国においては、基盤の重要な役割を民間企業に大きく依存している。したがって、防衛力の抜本的強化が求められる中、自衛隊の任務遂行に必要な装備品等の確保を担保する防衛産業の重要性はますます高まっている。その上で、装備品等の製造等に当たっては、高度な要求性能や保全措置への対応が必要となり、企業がそのための投資に踏み込むには、経済合理性の観点から一定の予見可能性が必要となる。また、これら企業は得てして独自仕様、少量多種生産を求められ、装備品等の運用期間の長さから、長期にわたる製造等の体制確保も必要となる。さらに、顧客は基本的には防衛省・自衛隊に限定されることもあり、企業にとって投資回収の機会は限られる。加えて、依然として日本社会においては、防衛事業に対する忌避感やレピュテーションリスクといった問題がある。  上記のような特徴にも起因し、基盤の弱体化が進んでいる。高度な要求性能や保全措置への対応の必要性等により、多大な経営資源の投入を必要とする一方、収益性は調達制度上の水準より低い。諸外国では営業利益率が10%を超える防衛関連企業もある中、我が国の防衛産業の利益率の実態は2〜3%にとどまるという産業界の調査結果もある。また、防衛関連企業の売上高に占める防衛部門の比率も、我が国の企業は諸外国と比して低い傾向にある。そうした中、防衛事業からの撤退や事業規模の縮小を決断する企業が断続的に現れており、加えて、既存の企業による新たな投資や新規参入も低調になりがちである。その結果、自衛隊の運用に必要不可欠な装備品等の安定的な調達に支障が生じるだけでなく、長期的には、適正な競争環境やイノベーションが失われ、安全保障分野における我が国の技術的優位性を喪失するおそれもある。  さらに、近年、基盤を取り巻く様々なリスクが顕在化している。産業全体のICT化が進展する昨今、民生技術を含め外国の先端技術を収集し、軍事に転用する動きが活発化する中、装備品等に関する機微な情報を保有する防衛産業に対しては、軍を含む国家が関与する疑いのあるサイバー攻撃の脅威が深刻化している。例えば、令和3年、外国軍が関与している可能性が高いとされるサイバー攻撃集団によって、防衛関連企業を含む国内の約200の企業や研究機関等に対して大規模なサイバー攻撃が実行されたことが判明した。また、装備品等の製造等に用いる設備や部品に、外国由来の悪意ある要素が入り込み、サプライチェーンの安全性・信頼性を揺るがす情報窃取等の懸念が生じている。さらに、重要な物資の囲い込みが国際的に進む中、例えば外国政府による輸出規制の動きに伴い、装備品等の製造等に必要な原材料等が確保できず、結果として安定的な供給が確保できなくなるリスクも現実味を帯びている。このような比較的新しいリスクの低減も念頭に置き、政府は施策を講じる必要がある。 第2章 基盤の維持・強化に関する基本的な考え方 第1節 基盤の維持・強化に関する基本的な考え方及び方向性 1.基盤の維持・強化の意義  国内に基盤を維持・強化する意義については、以下の三点が挙げられてきた。第一に、我が国の安全保障の主体性の確保である。我が国の国土の特性、政策等に適合した運用構想に基づく要求性能を有する装備品等の取得を可能とすること、取得後の維持・整備、改善・改修、技術的支援、部品供給等の継続的な運用支援や装備品等の追加取得等を円滑にすること、機密保持等の観点から外国に依存できない装備品等の調達を可能とすることは、国内の基盤の存在が前提であり、我が国の安全保障の主体性を高める意義がある。新しい戦い方に対応した高度な装備品等の早期獲得や、自衛隊の十分な継戦能力の維持・確保が求められる中、こうした意義は一層増大している。  第二に、対外的な安全保障上の効果である。防衛力を自らの意思で、一定の迅速性を持って構築できる能力を我が国が備えていることを対外的に認識させることは、抑止力の向上に潜在的に寄与する。また、装備品等を外国からの輸入により取得する、あるいは他国と国際共同開発・生産を含む防衛装備・技術協力を実施する場合において、国内に一定の基盤を保持することは、条件交渉を有利にする効果も期待できる。  第三に、国内産業への経済的・技術的寄与である。基盤の重要な担い手たる我が国の防衛産業は、防衛省と直接の契約関係にあるプライム企業と、その下に広がる中小企業を中心とした広範多重なサプライヤーから構成されており、その裾野は広い。また、技術に係る民生・軍事の境界はなくなりつつあることから、装備品等の分野における技術的進展は直ちに民生分野へ波及し得るとともに、逆もまた然りである。したがって、国内の基盤を維持・強化する営みは、民生分野を含め広く国内産業を経済的に強化し、技術的に高度化させる意義が期待される。  その上で、国内において基盤を維持・強化する意義については、近年、新たな要素が出現している。経済的手段による外的脅威が顕在化し、経済安全保障の観点から我が国の自律性の向上、技術的優位性、不可欠性の確保等が喫緊の課題となっている。また、新型コロナウイルス感染症の感染拡大によるサプライチェーンの途絶に伴い、重要物資及びそのサプライチェーンのブロック化が進行し、諸外国において、国内産業重視の動きが活発化してきた。同盟国といえども、最先端技術については、厳しい技術管理政策の下で容易に開示・供与しない傾向が強まっている。こうした中、我が国防衛に直結する装備品等の安定的な製造等及び技術的優位性を確保する観点から、基盤を装備品等の完成品からその部品・構成品に至るまで幅広く国内に維持・強化する必要性は一段と高くなっている。 2.基盤の維持・強化の対象  装備品等は、多数の部品・構成品の集合体であり、また、その製造等を担う企業も、完成品を防衛省に納めるプライム企業に加え、部品・構成品のプライム企業への納入等を担う多数のサプライヤーが存在しており、装備品等の安定的な製造等を確保するには、いずれも同様に重要である。このような観点から、基盤の維持・強化のための方策を講じるに当たっては、完成品としての装備品等のみならず、それに用いる部品・構成品の安定的な製造等の確保も念頭に置き、プライム企業のみならずサプライヤーも含めた装備品等のサプライチェーン全体を対象としていく。 3.装備品等の取得に関する考え方  装備品等の取得方法を決定することは、当該装備品等のライフサイクルの各段階における我が国の基盤の在り方を決定するに等しく、基盤に直接的な影響を及ぼす。したがって、先述の基盤の維持・強化の意義を踏まえ、その趣旨を担保する取得方法を確立させる必要がある。装備品等の取得については、現在、国内開発、ライセンス国産及び輸入といった複数の方法を採用しているが、そのいずれを採用するかを決定するに当たっては、我が国を防衛するための装備品等の運用構想に合致する所要の性能を有するものを取得することが当然の前提であり、また、経費面においても継続的な取得や維持整備が可能であることが必要である。その上で、我が国に比較優位がある分野を育成し、劣後する分野や欠落する分野を必要に応じ補完する観点に加え、本節第1項のとおり、基盤を国内に維持・強化する必要性が一段と高くなっていることを踏まえ、取得方法を決定していく必要がある。  そのため、装備品等を新たに取得するに当たっては、以下の分野を中心に国産による取得を追求する。  ア 運用構想、性能、取得経費、ライフサイクルコスト、スケジュール等の諸条件を国内技術で満たすことができるもの  イ 有事の際の継戦能力の維持と平素からの運用、維持整備に係る改善能力の確保の観点から不可欠なもの(例:弾薬、艦船)  ウ 機密保持の観点から外国に依存すべきでないもの(例:通信、暗号技術)  エ 我が国の地理的、政策的な特殊性を踏まえた運用構想の実現に不可欠なもの  オ 外国からの最新技術の入手が困難なもの  カ 経済的手段による外的脅威の対象となり得るもの  また、国産による取得により難い場合であっても、我が国への技術移転による技術力向上や将来的な我が国による改修の自由度の確保に努める観点から、国際共同開発・生産又はライセンス国産による取得を追求する。  その上で、装備品等の取得に当たり、国産のものと海外のものが共に存在し、いずれもアに示す諸条件を満たす場合において選定を行う必要があるときには、選定対象となる装備品等のライフサイクルの各段階への国内企業の参画や我が国への技術移転等の範囲及び規模等を評価した上で、国産のものと海外のものいずれの装備品等を取得するか選定する。なお、こうした選定の適切性の検証を可能とする観点から、プロセスの透明化に取り組むとともに、選定後のライフサイクルの各段階でマイルストーンを定め、コスト、スケジュール等を国民に説明できるよう徹底した管理を推進する。  また、装備品等の取得の在り方は、事業者の事業計画にも大きく影響を及ぼす。したがって、主要な装備品等の調達予定数量を可能な限り明確にする等、防衛事業に係る将来の予見可能性の向上を図っていく。 4.国際協力に関する考え方  各国が軍事分野での研究開発にしのぎを削り、技術の進展が著しい昨今、必要な基盤を自国のみで維持することは困難であり、装備・技術面での国際協力を推進していくことが不可欠となっている。他国に依存すべきでない装備品等に係る基盤は国内において維持・強化することを基本としつつも、国際共同研究・開発、更には生産を見据えた積極的な国際協力やライセンス国産を推進し、各国の優れた技術を我が国の装備品等に取り込むことが必要である。  他方、国際共同開発・生産をはじめとする国際協力については、国家間の調整や事業管理に多大な労力が必要となる場合が多く、その調整次第では、我が国が求める要求性能が十分に満たされない可能性がある。また、技術流出のリスクや我が国で管理できないコスト上昇のリスク等を伴うため、装備・技術面での国際協力を推進するに当たっては、こうした課題にも留意する必要がある。  その上で、装備・技術面での国際協力は、相手国との安全保障上の協力関係や相互運用性の強化に貢献し、我が国自身にとって有用であるのみならず、我が国と共通の価値観を有する国々の能力が向上することによって、地域の安定に寄与することが期待できるという面もあり、こうした意義も踏まえて戦略的に推進していく。  また、重要な技術や物資の各国による囲い込みが進展する中、装備品等のサプライチェーンを自国のみで完結させることは不可能であり、同盟国・同志国と相互に補い合う関係を構築することが不可欠となっている。装備品等を安定的に調達するためには、取得のみならずその後の維持・整備も見据えてサプライチェーンを維持する必要があることも踏まえ、同盟国・同志国との連携強化を通じ、グローバルなサプライチェーンの脆弱性や国家・地域間の相互依存リスクの低減に努める必要がある。  さらに、ロシアによるウクライナ侵略に際し、各国が装備品等の供与によりウクライナを支援する状況を見ても、装備品等の他国との相互運用可能性及び相互交換可能性を担保するために仕様の共通化等を図る必要性が顕在化している。装備品等の開発に当たっては、有事の際の継戦能力の維持の観点や国際協力の観点も踏まえ、国際標準に準拠した仕様を念頭に置いて開発していくことが必要である。  装備移転は、特にインド太平洋地域における平和と安定のために、力による一方的な現状変更を抑止して、我が国にとって望ましい安全保障環境の創出や、国際法に違反する侵略や武力の行使又は武力による威嚇を受けている国への支援等のための重要な政策的な手段となる。こうした観点から、安全保障上意義が高い装備移転や国際共同開発を幅広い分野で円滑に進めるため、基金を創設し、必要に応じた企業支援を行うこと等により、官民一体となって推進していく。 5.防衛産業のあるべき姿  基盤の維持・強化を企図した各種取組は、その結果として実現すべき防衛産業のあるべき姿を念頭に置きながら推進される必要がある。国の立場からは、基盤は、自国での装備品等の製造等を安定的に確保し、新しい戦い方に必要な先端技術を装備品等に取り込むために不可欠な、いわば防衛力そのものであるという認識の下、防衛産業においては、必要な装備品等の製造等を行い、高い可動率を支えることのできる能力が維持されることが最も重要である。また、国内企業や外国企業との間で適正な競争環境が維持されることは、切磋琢磨を促し、装備品等の価格適正化や関連する技術等の改善につながり得る。加えて、新規企業が積極的に防衛事業に参入するとともに、既に防衛事業に従事する企業によっても新規事業への投資、生産工程の改善が活発になされることは、防衛産業の活性化の観点から重要である。特に、民生分野で進展の著しいAIや情報通信技術等の分野における先端ソフトウェア技術を有するスタートアップ企業等、従来防衛分野との関連が薄かった企業を防衛産業に取り込んでいくことが不可欠である。さらに、今後、国際共同研究・開発・生産を含む装備・技術面での国際協力を積極的に推進していく観点からは、国内における適正な競争環境の維持にとどまらず、企業が国際的なマーケットにおける競争力を獲得できるよう、技術革新をキャッチアップし、技術的優位性を獲得することも求められる。また、近年顕在化している経済的手段による外的脅威を含む、様々なリスクに対して適切に対応可能な能力を備えることは、喫緊の課題となっている。  一方、企業の立場からは、収益性や安定性があること、防衛事業により得られた技術が当該企業の民生事業にスピンオフし、相乗効果があること、敵対的買収を防ぐ抑止力になり得ること等の総合的な観点から、サプライチェーンの各層にあるそれぞれの企業にとって、防衛事業に従事するメリットが具体的に期待できることが求められる。  欧米等諸外国の防衛関連企業は、防衛事業を主体としている場合が多いのに比し、我が国の大手防衛関連企業は基本的に民生事業を主体としており、各企業の総売上高に占める防衛事業の売上高の比率(防需依存度)は10%未満にとどまるものがほとんどである。防需依存度が低いと、当該企業体内におけるリソース配分等の優先度が低下する傾向があること等から、国際的な競争力を持った防衛産業としていくためには、防需依存度が高い企業が主体となった防衛産業を構築していくことが重要である。なお、個々の企業の組織の在り方は、あくまで各社の経営判断によるものであることに留意する必要がある。競争力を持った防衛産業とするために、どのような施策が効果的かについては、他省庁の施策とも連携しつつ、企業の事業連携及び部門統合等も含め、引き続き官民間でよく意見交換していくことが必要である。 第2節 装備品等の安定的な製造等の確保を図るための国及び装備品製造等事業者の役割  国及び装備品製造等事業者は、自国での装備品等の製造等を安定的に確保し、新しい戦い方に必要な先端技術を装備品等に取り込むために不可欠である基盤を、いわば防衛力そのものと認識し、両者分担して、法に基づく措置のほか、基盤の維持・強化に係る各種施策に取り組む必要がある。また、国は、次章及び第4章に記載する各種施策を実行するための十分な体制を構築する必要がある。  もとより、企業は営利を目的とすることから、民生事業と同様、収益性や安定性があること、防衛事業により得られた技術が当該企業の民生事業にスピンオフし、相乗効果があること、敵対的買収を防ぐ抑止力になり得ること等の総合的な観点から、防衛事業に従事するメリットを装備品製造等事業者が具体的に期待できることが必要となる。したがって、国は、装備品製造等事業者が防衛事業に携わり、更に継続すると判断するに足る環境を整えることを重視し、基盤の維持・強化を進めることが重要である。  一方、装備品製造等事業者においても、自らが国防を担う重要な存在であるとの認識を改めて強く持った上で、国が実施する各種施策も活用しながら、基盤の維持・強化に主体的に取り組むことが期待される。その際、我が国を取り巻く安全保障環境や我が国の安全保障政策の方向性を踏まえ、自衛隊の運用を支える装備品等の安定的な製造等の確保に必要な生産力・技術力を維持するとともに、民生事業を含めた企業が有する技術のほか、スタートアップ企業等の先端技術も積極的に取り入れ、防衛事業に積極的に活用することが期待される。  いずれにしても、防衛省・自衛隊は防衛力であり、また、防衛生産・技術基盤は、いわば防衛力そのものと位置づけられるものである関係上、防衛省・自衛隊及び装備品製造等事業者は、防衛力整備・運用の構想等について、共通の認識に立った上で、相互の役割を分担して果たしていくことが重要であり、そのために、双方が各レベルにおいて緊密な意思疎通を継続的・日常的に行っていくことが求められる。 第3章 本法に基づく措置に関する基本的な事項  第1章で述べたように、我が国の装備品製造等事業者においては、防衛事業からの撤退や事業規模の縮小、既存の装備品製造等事業者による新たな投資や新規参入の停滞、装備品等に関する機微な情報を保有する装備品製造等事業者に対するサイバー攻撃の脅威の深刻化、装備品等の開発や生産に用いる設備や部品に外国由来の悪意ある要素が入り込むことでサプライチェーンの安全性・信頼性を揺るがす情報窃取等の懸念、外国政府による原材料等の輸出規制により装備品等の安定的な製造等を確保できなくなるリスク、といった様々な課題がある。  他方で、このような装備品製造等事業者から構成される基盤は、いわば我が国の防衛力そのものであることから、これを強化しなければならない。本法は、かかる観点から特に喫緊の対処が必要となる基盤の強化のための施策を規定するものである。  なお、民生品の製造基盤の強化については、本法以外の他の施策により措置することが適当であることから、本法に規定する措置の対象となる装備品等には、基本的に民生品を含めないこととしている。 第1節 装備品等の安定的な製造等の確保を図るための装備品製造等事業者に対する財政上の措置その他の措置に関する基本的な事項 1.特定取組の基本的な考え方  装備品等の製造等に際しては、外国政府が輸出を規制して原材料等の輸入が困難となるリスク、老朽化した設備が更新されず生産性や技術水準が低迷し納入遅延や要求性能未達となるリスク、工程においてマルウェアやスパイウェアが混入するといった懸念部品のリスク、サイバー攻撃によって性能等の情報が流出するリスク、事業継続が困難となって防衛事業から撤退するリスクといった、装備品等の安定的な製造等を損なう様々なリスクが想定される。  このようなリスクに効果的に対応し、プライム企業とサプライヤーから構成されるサプライチェーンが効果的・効率的に機能し、安定的な製造等に寄与するよう、以下の特定取組がなされる必要があり、特定取組の種類ごとに、その基本的な考え方を明らかにする。 (1)供給網強靱化  装備品等のサプライチェーンには、代替性の低い特殊な設備や技術を有するサプライヤーや、入手ルートが限定される原材料等が存在しており、一般の工業製品と比較し、その脆弱性が懸念される。また、サプライヤーの買収・撤退、天災・事故等が生じた場合には、生産・物流の機能低下、装備品等の製造等に必要な部品・構成品の調達遅延及びコスト上昇が懸念される。そのため、装備品等の運用に支障を来すことがないよう、サプライチェーンの冗長性や代替性の確保等、サプライチェーンリスクへの対応が急務である。  このため、装備品安定製造等確保計画の認定を受けた装備品製造等事業者は、当該計画に基づいて、例えば以下のような措置を実施することが求められる。 ・供給途絶リスクに備えて原材料等の輸入元を当該リスクのある外国から当該リスクの小さい複数の外国に切り替えること ・希少性の高い原材料等を、調達・補給計画等の想定を踏まえ備蓄しておくこと ・指定装備品等の製造等に供給途絶リスクのある原材料等を必要としないようにするため若しくは当該原材料等がより少量で足りるようにするための原材料等の国産化等のための生産技術の導入又は代替品及び仕様変更品のために研究・開発・改良をすること・指定装備品等に誤作動や情報漏えいを生じさせる部品やプログラムの混入の余地を排除するため、製造等の工程や設備等を変更等すること (2)製造工程効率化  民生部門では、AIや3Dプリンタ等の先端技術を活用する等の製造設備等の高度化が急速に進展している。一方、防衛部門では、装備品等に特有の多品種少量生産及び投下資本回収の長期化に加え、安全保障環境への依存による将来需要の不確実性を背景とする、設備の老朽化、作業員の高齢化等による生産性や品質の低下、防衛事業からの撤退の可能性等、指定装備品等の安定的な製造等が困難となるリスクが存在する。このようなリスクを低減するためには、例えば以下のような取組を通じて、原価低減、柔軟な製造体制の構築、開発期間や調達リードタイムの短縮等、指定装備品等の製造工程等の効率化を図ることが求められる。 ・製造工程の合理化・省人化 ・熟練作業者の経験値等、製造工程上のノウハウの電子データ化とその分析 ・装備品等の製造等に特有の多品種少量生産や長期間にわたる部品等の製造等に柔軟に対応するための製造方法等の改善 ・製造等に供する設備の故障頻度の低下  これらの観点から、装備品安定製造等確保計画の認定を受けた装備品製造等事業者は、当該計画に基づき、以下のような効率化に資する設備投資及び設備の導入可能性調査を実施することが求められる。 ・最新の工作機械や3Dプリンタ等の先端技術を備えた機器の導入により製造工程の効率化を図ること ・AI等のプログラムの導入により製造工程の自動化を図ること ・デジタルトランスフォーメーションによる製造工程の効率化を図ること (3)サイバーセキュリティ強化  指定装備品等の製造等を行う装備品製造等事業者から、その保有する技術や設計図等の情報が流出すれば、我が国の防衛戦略や技術的優位性に深刻な悪影響を与え、装備品等の安定的な調達及び同盟国等との信頼関係に著しい支障が生じかねない。そのため、防衛省は「防衛産業サイバーセキュリティ基準」(装備品等及び役務の調達における情報セキュリティの確保について(防装庁(事)第137号。令和4年3月31日))を定めて、令和5年度から逐次適用を開始している。当該基準を満たし、複雑化・巧妙化するサイバー攻撃に対応するためには、官民共用のクラウドである防衛セキュリティゲートウェイを活用することのほか、自社が保有する情報システムに対して、当該基準に適合した追加的な情報セキュリティ対策を講ずることが適当となる場合があり、そのためには、自社において、高度な情報セキュリティ対策に対応する機能を備えた情報システム・施設等の整備といった設備投資等を行う必要がある。  このため、装備品安定製造等確保計画の認定を受けた装備品製造等事業者は、当該計画に基づいて、例えば以下のような措置を実施していくことが求められる。 ・多要素によるシステム利用者の認証 ・システムの常時監視とログの分析 ・脆弱性スキャンの実施と結果の分析 ・情報セキュリティ事故等への対処テストの実施 ・電子錠等を備えた入退管理機器による施設の物理的セキュリティの確保 (4)事業承継等  指定装備品等の全部又は大部分の製造等の事業を行う装備品製造等事業者が当該事業から撤退することは、当該事業者の経営判断によるものである。  この際、かかる防衛事業からの撤退による装備品等の供給途絶や、事業承継等に係る調整の長期化により、装備品等について納入の遅延や可動率の低下が生じるおそれがある。そのような事態を生じさせないため、装備品製造等事業者が円滑かつ確実に事業承継等を進めることができるよう、製造設備や技術資料等の取得等を行う必要がある。  このため、装備品安定製造等確保計画の認定を受けた装備品製造等事業者は、当該計画に基づいて、例えば以下のような措置を実施していくことが求められる。 ・安定的かつ効率的な製造能力の確保が期待できる施設や設備の取得等 ・製造等に必要な技術資料やライセンスの取得 ・教育訓練等による従業員の育成 2.装備品安定製造等確保計画の対象  装備品安定製造等確保計画の対象となる「指定装備品等」とは、自衛隊の任務遂行に不可欠な装備品等であって、その製造等を行う特定の装備品製造等事業者による製造等が停止された場合において、防衛省によるその適確な調達に支障が生ずるおそれがある装備品等である。  なお、自衛隊の任務遂行に不可欠な装備品等とは、具体的には、武器、弾火薬、車両、艦船、航空機、レーダー、誘導武器、情報システム、各種需品等といったものが挙げられ、それが欠けることで自衛隊の任務の達成が困難となるもののことをいう。 3.財政上の措置に関する事項  防衛大臣は、装備品製造等事業者から提出された特定取組に係る装備品安定製造等確保計画について、それが当該装備品製造等事業者の上位サプライヤーやプライム企業が把握又は管理する製造等の方針に適合し、防衛省に納入される指定装備品等の安定的な製造等に不可欠であるかどうかを確認した上で、当該装備品安定製造等確保計画を認定する。防衛省は、かかる特定取組に必要な費用を確認した上で、特定取組に係る契約を認定装備品安定製造等確保事業者と締結し、当該事業者に対して直接、当該契約の定めに従って遅滞なく対価を支払うものとする。 第2節 装備品等の安定的な製造等の確保に資する装備移転が適切な管理の下で円滑に行われるための措置に関する基本的な事項 1.装備移転仕様等調整に係る取組の基本的な考え方  装備移転は、特にインド太平洋地域における平和と安定のために、力による一方的な現状変更を抑止して、我が国にとって望ましい安全保障環境の創出や、国際法に違反する侵略や武力の行使又は武力による威嚇を受けている国への支援等のための重要な政策手段であり、我が国はこれを官民一体となって推進しているところである。また、装備移転については、同盟国・同志国との実効的な連携を構築し、力による一方的な現状変更や我が国への侵攻を抑止するための外交・防衛政策の戦略的な手段となる。さらに、我が国と外国政府との防衛協力を実施していくに当たって、装備移転の適切な管理が確保され、円滑に移転が実施されることで、結果として装備品等の販路が拡大されれば、防衛産業の成長にも効果的である。  装備移転に際しては、我が国政府が、我が国と外国政府との協力関係を十分に考慮した上で、我が国の安全保障環境上の観点から適切な仕様・性能の変更・調整を装備品製造等事業者に実施させる必要がある。とりわけ我が国の装備品等に用いられている先進的な技術に係る情報を保全することにより、我が国の防衛分野における技術面での諸外国に対する優位性が失われる懸念について適切に対応する等の必要がある。  このような問題意識から、本法においては、防衛装備移転三原則による適切な管理の下、装備移転を安全保障上適切なものとするための取組を促進することを目的とし、装備移転を実施しようとする装備品製造等事業者が行う装備移転仕様等調整に要する費用を助成することとした。 2.助成金交付の対象となる装備品製造等事業者  装備移転仕様等調整は、相手国政府との防衛の分野における協力の関係の内容に応じて、装備品等に係る秘密の保全その他の我が国の安全保障上の観点から適切なものとするために防衛大臣の求めに応じて行われる仕様及び性能の調整のことをいい、移転先の国が使用するものとして適切な水準とするために行われる。助成金は、このような装備移転仕様等調整を実施した上で、外国政府に対して装備移転を実施しようとする装備品製造等事業者に対して交付される。この場合の装備品製造等事業者については、移転先の外国政府に完成品を製造・販売するプライム企業のみに限定されるものではなく、設計等の一部を担うサプライヤーも対象となり得る。 3.助成金の使途  装備移転に当たっては、これを安全保障上の観点から適切なものとするため、防衛大臣の求めに応じ、装備品製造等事業者が認定装備移転仕様等調整計画に基づき、移転対象物品の仕様や性能を変更するための設計の変更や、それに伴って必要となる一連の作業を実施することになるところ、これらに要する費用について助成金を交付する。  なお、装備移転仕様等調整は、このような安全保障上の必要性から防衛大臣が装備品製造等事業者に求めるものであるため、その費用については、国が負担するべきものである。また、仮に装備移転仕様等調整を行った後、国際競争入札等において見込まれた装備移転が実現しなかった場合でも、装備移転仕様等調整に要した費用の返還を装備品製造等事業者に対して求めることはない。 第3節 装備移転支援業務及び基金に関して指定装備移転支援法人が果たすべき役割に関する基本的な事項 1.指定装備移転支援法人の役割  指定装備移転支援法人は、基金から装備移転仕様等調整を行うために必要な資金を認定装備移転事業者に対し助成する業務を実施するものであり、認定装備移転仕様等調整計画に従って、装備移転の実施に際して必要な基金を管理し、助成金を交付するという役割を担う。その他、装備品製造等事業者による装備移転仕様等調整に関する事項について、照会及び相談に応じ、並びに必要な助言を行うといった業務についても実施することとなる。  前節で述べたように、装備移転は、我が国の防衛にとって重要な政策手段であり、官民一体となって推進しているところ、指定装備移転支援法人が担う上記の装備移転支援業務は、装備移転が防衛省の政策目的に適合したものとして認定装備移転事業者によって円滑に行われるようにする点で重要であり、適切にその役割を果たすことができる法人にこれを実施させる必要がある。 2.基金に関する事項  指定装備移転支援法人は、認定装備移転事業者への支援に関し、基金から助成金を交付するに先立って必要な審査をし、交付決定後は検査の実施等により適正に執行するものとする。また、基金の管理に当たっては、防衛大臣が定める装備移転支援実施基準等の範囲で、基金の資産を毀損することのないよう適正な運用を行うものとする。  具体的には、次に掲げる事項に留意するものとする。 ・助成金の執行に当たっては、指定装備移転支援法人は、防衛大臣と連携し、認定装備移転仕様等調整計画が適正かつ確実に遂行されていることを確認するものとする。 ・防衛大臣が認定装備移転仕様等調整計画の認定を取り消す等の措置を講じた場合には、その措置の内容に応じ、助成金の返還等の所要の手続を遅滞なく実施するものとする。 ・基金は他の事業との区分経理を求められているところ、本法の規定に従い、適正な会計処理を実施するものとする。 ・基金の管理については、本法の規定を踏まえ、資産運用の安全性と資金管理の透明性が確保される方法により行うものとし、運用上のリスクが低い方法で運用するものとする。 第4節 装備品等契約における秘密の保全措置に関する基本的な事項 1.装備品等に含まれる秘密の保全の意義  装備品等のライフサイクルの各段階を担う契約事業者は装備品等の安定的な調達・使用のために一体不可分の関係にある。  装備品等の製造等に当たっては、より質の高い装備品等を安定的に調達するため、先端技術等の装備品等に含まれる秘密情報を、契約事業者に提供している。  一方で、近年、安全保障上の懸念国によるサイバー攻撃、産業スパイ、企業買収等の働きかけ等、装備品等に含まれる秘密情報の流出の脅威がこれまで以上に高まっており、仮に契約事業者から情報が漏えいした場合には、装備品等の性能等が明らかになり、自衛隊の円滑な運用、ひいては我が国の防衛上の支障が生じるおそれがある。  これに加え、諸外国からの装備品等の調達や次期戦闘機の開発をはじめ、国際的な共同研究・開発・生産が進展する中で、装備品等に含まれる秘密情報の諸外国との共有に当たって、仮に契約事業者から情報が漏えいした場合には、当該諸外国からの信頼低下や共同開発の継続が困難となり、国際的な連携に齟齬を来すおそれがある。  今般の措置は、こうした装備品等に含まれる秘密情報の保全の必要性を踏まえ、秘密情報を取り扱うこととなる契約事業者の従業者に対して、これまでの契約上の守秘義務に加え、法律上の守秘義務も課すこととし、情報を漏えい等した場合の罰則を設けることで、産業保全制度のより一層の強化を図り、また、国家間の信頼関係の強化や情報管理の徹底による契約事業者の信頼性の向上により、もって基盤の強化につなげるものである。 2.装備品等秘密の保全の基本的な考え方  今般の措置は、これまで契約による担保の下に契約事業者に提供していた秘密情報を「装備品等秘密」として改めて指定し、これを取り扱う契約事業者及びその従業者に装備品等秘密であることを明示し、情報管理の徹底を求めるものである。こうした秘密情報を含む文書等を契約事業者に提供する必要がある場合には、装備品等秘密に指定するとともに、装備品等秘密の表示や指定の有効期間等を記載した「装備品等秘密指定書」を併せて契約事業者に提供することにより、これまで以上に契約事業者及びその従業者による情報管理ができることとなる。  なお、法第27条に規定する装備品等秘密は、自衛隊法(昭和29年法律第165号)第59条第1項の規定により自衛隊員が漏らしてはならないとされる秘密のうち、日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法(昭和29年法律第166号)第1条第3項に規定する「特別防衛秘密」及び特定秘密の保護に関する法律(平成25年法律第108号)第3条第1項に規定する「特定秘密」は含まれないものであって、秘密保全に関する訓令(平成19年防衛省訓令第36号)第16条第1項及び防衛装備庁における秘密保全に関する訓令(平成27年防衛装備庁訓令第26号)第16条第1項の規定により「秘」に指定された、いわゆる省秘を想定している。  また、今般措置する漏えい時の罰則は、故意に漏えいした者や外部から漏えいを働きかけた者等を対象としており、現在、自衛隊員等を対象にした秘密漏えい時の罰則と同様の措置とすることで、装備品等秘密を取り扱う関係者に対し、より効果的に漏えい等の防止をする。  こうした措置を講ずるに当たり、事業者に対しては装備品等秘密の保護の必要性等について十分な説明を行って理解を得つつ、従来からの施設の保全措置、保全教育、定期検査等の各種保全措置を引き続き確実に実施することによって、防衛省及び契約事業者の双方が、装備品等秘密の情報管理の徹底を図っていく。 第5節 防衛大臣による指定装備品製造施設等の取得及びその管理の委託に関する基本的な事項 1.基本的な考え方  法第2章の規定による措置では防衛省による適確な調達を図ることができないと認める場合には、当該指定装備品等の製造等をする施設である指定装備品製造施設等を防衛省が取得することができることとする。これにより、法第2章の措置でも安定的な製造等の確保が困難な装備品等について、装備品製造等事業者が固定資産を保有することにより負うリスクを軽減して、装備品等の製造等の事業継続を確保し、供給途絶を防ぐことを期する。  本制度が適用されるのは、例えば、 ○ 装備品等の製造等からの事業撤退に際し、  ・自ら指定装備品製造施設等を所有するリスクを負わないのであれば装備品等の製造等の事業を行える装備品製造等事業者が存在する場合  ・事業承継先の装備品製造等事業者は存在するものの、撤退に係る現在の指定装備品製造施設等が耐用年数を経過し老朽化しており、承継先の事業者がこれを新規取得することは困難なため、国が新規に建設する場合 ○ 指定装備品製造施設等が事故や災害で滅失し、装備品製造等事業者による復旧の目途が立たない場合に、国が新規に建設するとき 等が想定されるところ、様々な事例における必要性を踏まえ、個別具体的に検討していくことが必要である。なお、指定装備品製造施設等の防衛省による取得は、管理の委託を受けて指定装備品等の製造等を行う装備品製造等事業者が存在することが前提である。また、法第30条第1項に基づき、防衛省から委託を受けて管理する指定装備品製造施設等において指定装備品等の製造等を行う事業主体は民間企業であり、通常の企業活動と何ら変わりなく、効率的な運営が実施されることを期待するものである。 2.指定装備品製造施設等の管理を委託される者に関する事項  基本的に、施設委託管理者は、防衛大臣から管理の委託を受ける指定装備品製造施設等(以下「受託指定装備品製造施設等」という。)において指定装備品等の製造等を行うこととなる装備品製造等事業者である。 3.取得する指定装備品製造施設等に関する事項  防衛大臣による取得の対象は、指定装備品等の製造等を行うことができる土地、施設及び設備である。取得すべき指定装備品製造施設等は、個別の事例に応じて選定するものとする。 4.施設委託管理業務の内容、権利義務関係その他の実施体制に関する事項  施設委託管理者は、受託指定装備品製造施設等を、指定装備品等の製造等が必要となった場合に直ちにこれを安定的に行うことができるよう維持管理するものとする。また、施設委託管理者は、受託指定装備品製造施設等の維持管理のため、十分な従業員を確保し、その技能を維持するものとする。  防衛大臣は、受託指定装備品製造施設等の維持管理に必要な費用を負担する。ただし、維持管理又は指定装備品等の製造等に際して施設委託管理者の善管注意義務違反によって受託指定装備品製造施設等の破損が生じた場合には、この限りでない。 5.目的外使用に関する事項  受託指定装備品製造施設等については、指定装備品等の製造等という主目的を達成することを前提として、防衛大臣が、その目的外の使用を例外的に承認することができる。  このような主目的を達成する観点から、受託指定装備品製造施設等における施設委託管理者による指定装備品等以外の製品(以下「他製品」という。)の製造等を行う期間は、基本的に、指定装備品等の製造等を行う期間を超えないものとする。また、他製品の製造等を行う期間に、指定装備品等の製造等が必要となった場合には、当該指定装備品等の製造等を優先するものとする。  なお、防衛大臣は、他製品の製造等のために受託指定装備品製造施設等を使用する施設委託管理者から、適正な対価を徴収しなければならない。 6.受託指定装備品製造施設等の譲渡に関する事項  指定装備品製造施設等の国による取得については、財政上の措置等のあらゆる手段を講じてもなお、指定装備品等の適確な調達を図ることができない場合に用いる政策手段であること等に鑑み、法第33条第1項の規定により、できるだけ早期に、取得した指定装備品製造施設等の譲渡に努めることとする。一方で、本法においては、装備品等の安定的な製造等の確保を進めることを目的としているところ、これに支障が生じてまで、早期に譲渡する努力義務を防衛大臣に課しているものではない。  このため、法第33条第2項において防衛大臣は、指定装備品等の円滑な製造等に支障が生ずることがないよう配慮することとし、装備品等の調達の安定性及び経済合理性を踏まえつつ、法の趣旨に即した適切な時期の中でできるだけ早期に譲渡を進めることとする。なお、具体的な譲渡の時期等については、施設委託管理先の装備品製造等事業者の声も聞きつつ、個別の事例に即して適切に検討する。 第4章 基盤の維持・強化に関するその他の必要な事項  基盤を強化するため、法に基づく措置のほか、以下の施策を実施する。また、必要に応じて、関係省庁と連携し、政府一体として基盤の強化を図る。 1.防衛事業の魅力化(適正な利益の算定等)  防衛事業は高度な要求性能や保全措置への対応の必要性等により、多大な経営資源の投入を必要とする一方、収益性は調達制度上の水準より低い傾向にある。営利を追求する民間企業にとって、防衛事業を維持する必要性をステークホルダーに説明するに当たり、収益性や安定性があること、防衛事業により得られた技術が当該企業の民生事業にスピンオフし、相乗効果があること、敵対的買収を防ぐ抑止力になり得ること等の総合的な観点から、防衛事業に従事するメリットを企業が具体的に期待できることが重要となる。  原価計算方式の価格算定において、企業努力を正当に評価し、企業の適正な利益を算定する仕組を構築して、その運用を確立するほか、調達制度についても、適正性を確保しつつ、より一層の効率化を促すための各種契約制度の見直しを不断に行い、防衛事業の魅力化を進める。  また、防衛事業に対する忌避感やレピュテーションリスクを低減させていくため、防衛産業の重要性やその技術的優位性、経済力や科学技術力に波及する効果等についても、政府として積極的に訴求する等の施策を講じていく。 2.企業の競争力・技術力の維持・強化  魅力が低下する防衛産業においては、企業による新たな投資や新規参入のインセンティブが低調である。これを放置すれば、適正な競争環境・イノベーションは失われ、ひいては安全保障分野における我が国の技術的優位性の喪失につながるおそれがある。  第2章第1節第3項で示した装備品等の取得に関する考え方に基づき、国内の基盤を維持・強化する観点を一層重視した装備品等の取得を促進する。また、会計法令に則り、財務大臣通知「公共調達の適正化について」(平成18年8月25日付財計第2017号)の趣旨を踏まえつつ、随意契約の活用も検討する等、契約制度の柔軟な運用を推進するとともに、防衛事業における長期資金の需要に応え、防衛産業の持続的発展を促すため、政府系金融機関等の活用により、金融面から支援を行う。さらに、新たな研究開発手法の導入や研究機関の創設をはじめ、我が国の基盤を強化する各種取組を推進し、将来の戦い方に直結する、我が国を守り抜くために必要な機能・装備を早期に実現するとともに、官民の連携の下で、我が国が持つ科学技術・イノベーション力を結集して、将来にわたって防衛分野における技術的優位性を確保し、他国に先駆け先進的な能力を実現する。その際、防衛に用途が限定される分野においては、従来技術の維持向上にも留意する。 3.防衛産業の活性化(新規参入促進)  事業としての魅力が低い中、防衛産業への新規参入は低調にとどまる。このままでは、産業全体の活力が失われるとともに、民生分野での先端技術を安全保障分野に取り込む機会を逸するおそれもある。  企業向けのマッチングイベントの開催や、新規参入企業のための相談窓口の設置等を進め、中小企業やスタートアップ等による防衛事業への新規参入を促すとともに、防衛事業への参入障壁の解消に努める。 4.撤退企業への適切な対応  近年、企業による防衛事業からの撤退や事業規模の縮小の判断が断続的に生起している。こうした動きは防衛産業の衰退のみならず、装備品等の安定的な製造等にも重大な支障となり得る。  第一に、防衛事業の魅力化に係る取組を進めるとともに、防衛力整備の見通しに係る適時の説明等、企業の防衛事業に係る将来の予見性を高める取組を推進することで、撤退を生起させないよう努める。その上で、サプライチェーン調査の実効的な実施等により、撤退の予兆を早期に把握し、事業撤退が不可避の場合には、円滑な事業承継を担保し、装備品等の安定的な製造等の確保に努める。 5.強靱なサプライチェーンの構築  装備品等のサプライチェーンをめぐっては、輸出規制等により原材料等の供給が途絶するリスクや、懸念ある設備や部品により情報が窃取されるリスク等が存在し得る。こうした脆弱性を放置しては、装備品等の安定的な製造等を脅かすとともに、情報窃取により我が国の相対的な技術的優位性を毀損するおそれがある。  サプライチェーン調査の実効的な実施等により、サプライチェーン上のリスクを早期に把握した上で、そうしたリスクを低減するための装備品製造等事業者による取組を後押しする。調査の実施に当たっては、指定装備品等の安定的な製造等の確保の観点からその実効性を向上させるため、装備品製造等事業者による主体的な協力を促す。また、装備品等のサプライチェーンを相互に補完する関係を構築するため、米国をはじめ諸外国との連携を強化する。 6.産業保全の強化  先端技術をめぐる国家間の競争が激化し、国家による様々な手段による軍民双方の技術情報の獲得が試みられており、防衛産業は、その最前線の様相を呈している。装備品等や防衛産業のICT化が急速に進む中、近年、国家の関与が疑われる集団によるものとみられる防衛関連企業へのサイバー攻撃と被害が生じており、サイバー脅威への対策が急務となっている。また、米国をはじめとする諸外国と実質的に同等となるハイレベルの国際的な保全水準を確保しなければ、米国からの最先端装備品等の導入や、諸外国との国際的な共同研究・開発・生産の更なる進展にとって支障となりかねない。  国際水準を踏まえた産業保全施策を推進するとともに、それに対応するために企業が投資するに当たっては、防衛調達における経費負担等により、政府として下支えする。加えて、防衛省・企業間の安全な情報共有環境を創出する等、防衛事業に関して機微情報を取り扱う企業が一定の必要な保全体制を整えるよう取り組む。 7.機微技術管理の強化  先端技術をめぐる国家間の競争が激化し、民生技術を含めた先端技術が様々な手段により収集され、軍事に転用される動きが活発化する中、国家としての機微技術の管理を強化することが必要となっている。  機微技術を適切に管理する体制を構築するとともに、そのための諸外国との連携を推進する。 8.装備移転の推進  装備移転については、同盟国・同志国との実効的な連携を構築し、力による一方的な現状変更や我が国への侵攻を抑止するための外交・防衛政策の戦略的な手段となるのみならず、装備品等の販路拡大を通じた、防衛産業の成長性の確保にも効果的であるにもかかわらず、現状は十分に進展していない。  政府が主導し、官民の一層の連携の下に適切な装備移転を推進するとともに、基金を創設し、必要に応じた企業支援を行っていく。 9.有償援助調達の合理化  有償援助調達(以下「FMS」という。)は、高い性能や機密性を有する装備品等を調達でき、米国等と共同購入することでスケールメリットが期待できる一方、価格は見積りで納期が確定でないことや、原則前払いで納入後に精算を行う等の特徴が存在している。また、近年、FMS調達額が高水準で推移しており、国内の基盤の維持・強化とのバランスに留意する必要がある。  外部人材も活用して防衛装備庁の米国における活動を強化する等、FMS調達の合理化に一層取り組むとともに、FMS装備品等の製造等に国内の企業が参画することを促進し、これへの裨益を重視した在り方を追求していく。