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第IV部 防衛力を構成する中心的な要素など

4 防衛施設と周辺地域との調和を図るための施策

1 防衛施設の特徴と周辺地域との調和関連事業

防衛施設は、用途が多岐にわたり、広大な土地を必要とするものが多い。また、日米共同の訓練・演習の多様性・効率性を高めるため、2021年1月1日現在、在日米軍施設・区域(専用施設)の土地面積のうち約29%、78の専用施設のうち30施設を日米地位協定に基づき自衛隊が共同使用している。一方、多くの防衛施設の周辺地域で都市化が進んだ結果、防衛施設の設置・運用が制約されるという問題が生じている。また、航空機の頻繁な離着陸による騒音などが、周辺地域の生活環境に影響を及ぼすという問題もある。

そのうえで、防衛施設は、わが国の防衛力と日米安全保障体制を支える基盤としてわが国の安全保障に欠くことのできないものであり、その機能を十分に発揮させるためには、防衛施設と周辺地域との調和を図り、地域住民の理解と協力を得て、常に安定して使用できる状態に維持することが必要である。

このため、防衛省は、1974年以来、防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律(環境整備法)などに基づき、自衛隊や米軍の行為あるいは飛行場をはじめとする防衛施設の設置・運用により、その周辺地域において生じる航空機騒音などの障害の防止、軽減、緩和などの措置を講じてきた。

2011年には関係地方公共団体などからの要望などを踏まえて同法を一部改正し、特定防衛施設周辺整備調整交付金について、医療費の助成などのいわゆるソフト事業への交付を可能とするための見直しを行ったほか、交付対象となる防衛施設の追加などを行った。また、住宅防音工事を重点的に実施している。

なお、特定防衛施設周辺整備調整交付金については、2014年4月からPDCAサイクルの徹底を図る取組などにより、交付金の効果の向上を図っている。

防衛省としては、防衛施設と周辺地域との調和を図るための施策のあり方について、関係地方公共団体からの要望などを踏まえ、厳しい財政事情を勘案し、より実態に即した効果的かつ効率的なものとなるよう引き続き検討している。

参照図表IV-5-1-2(在日米軍施設・区域(専用施設)の自衛隊との共同使用状況)、
図表IV-5-1-3(自衛隊施設(土地)の状況)、
図表IV-5-1-4(在日米軍施設・区域(専用施設)の状況)、
図表IV-5-1-5(令和3(2021)年度基地周辺対策費(契約ベース))、
資料59(在日米軍施設・区域(共同使用施設を含む。)別一覧)

図表IV-5-1-2 在日米軍施設・区域(専用施設)の自衛隊との共同使用状況

図表IV-5-1-3 自衛隊施設(土地)の状況

図表IV-5-1-4 在日米軍施設・区域(専用施設)の状況

図表IV-5-1-5 令和3(2021)年度基地周辺対策費(契約ベース)

2 在日米軍の駐留に関する理解と協力を得るための取組

わが国を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増す中、在日米軍のプレゼンスとその即応性の維持は、わが国の安全を確保する上で極めて重要な要素である。

そのうえで、在日米軍の安定的な駐留のためには、防衛施設周辺の地方公共団体や地域住民の方々の理解と協力を得ることが不可欠である。

このため、日米防衛相会談をはじめ様々なレベルで米側との認識共有を図るほか、在日米軍の部隊運用などに関する地方公共団体などとの調整、在日米軍再編にかかる交付金等の交付、事件・事故発生時の地方公共団体などへの速やかな情報提供、在日米軍と地域住民の交流の促進など、様々な取組を不断に行っていくこととしている。

(1)在日米軍の部隊運用等に関する地方公共団体等との調整

防衛省では、在日米軍再編や在日米軍の訓練、部隊の展開、新規装備の配備等に際し、その都度、関係する地方公共団体及び地域住民に対して事前に説明するなどの調整を実施し、在日米軍施設の維持や部隊運用に対する地元の理解の促進に努めている。

(2)在日米軍再編を促進するための交付金等

再編交付金5は、再編6を実施する前後の期間(原則10年間)において、再編が実施される地元市町村の住民生活の利便性の向上や産業の振興に寄与する事業7の経費にあてるため、防衛大臣が再編関連特定防衛施設と再編関連特定周辺市町村を指定した後、在日米軍の再編に向けた措置の進み具合などに応じて交付される。

2021年4月現在、9防衛施設14市町村が再編交付金の交付対象となっている。そのほか、在日米軍再編を促進するため、予算措置により追加的な施策を実施している。

参照資料60(防衛施設と周辺地域との調和を図るための主な施策の概要)

(3)在日米軍の運用における安全確保等

在日米軍の運用にあたって、地域住民の安全確保は大前提であり、事件・事故はあってはならない。

防衛省としては、米軍機の墜落、部品落下・遺失、民間空港などへの予防着陸8などが発生した際には、米側に対し、安全管理及び再発防止の徹底並びに速やかな情報提供を強く求めるとともに、個別の事案の態様に応じて飛行停止等の対策を講ずるよう求め、得られた情報は直ちに関係自治体等に説明しているほか、事件・事故による被害に対し迅速で適切な補償が行われるよう措置している。

また、米側の事故調査結果や再発防止策を聞くだけではなく、自衛隊の専門的知見も活用して確認し、その合理性を判断している。

さらに、2019年7月、航空機事故に関するガイドラインを改正し、万が一国内の米軍施設・区域外で米軍機による事故が発生した場合には、適用される方針及び手続が一層改善されるよう取り組んでいる。

わが国としては、地元の不安や懸念を踏まえ、首脳や閣僚レベルを含め、米側に対し、わが国の考え方をしっかり伝え、安全な運用の確保を最優先の課題として、日米両国で緊密に協力して取り組んでいる。

また、米軍人等による飲酒に起因する事件・事故が増加傾向にあることは、防衛省としても懸念しており、米側に対して、累次の機会を通じて、綱紀粛正や隊員教育を強化するよう申し入れている。

米側においても、夜間飲酒規制措置、一定階級以下の米軍人を対象とする夜間外出規制措置などを含む勤務時間外行動の指針(リバティ制度)を示すなど、対策を実施しており、今後も日米間で協力して、飲酒事案の再発防止に努めていくこととしている。

なお、沖縄県内における犯罪を抑止し、沖縄県民の安全・安心の確保を図るため、2016年6月「沖縄県における犯罪抑止に関する対策について」が取りまとめられ、防犯パトロール体制の強化と安全・安心な環境の整備を柱とした対策がおこなわれている。

防衛省も、沖縄総合事務局に創設された「沖縄・地域安全パトロール隊」に参加しており、今後とも関係省庁と連携し、実効的な犯罪抑止の取組となるよう、協力することとしている。

(4)在日米軍と地域住民の交流の促進

防衛省では、日米の相互理解を深める取組として、地方公共団体と米軍の理解と協力を得ながら、在日米軍施設・区域周辺の住民の方々と米軍関係者がスポーツ、音楽、文化などを通じて交流を行う「日米交流事業」を開催している。

また、在日米軍においても、基地の開放(フレンドシップデー)、ホームページ・ソーシャルメディアを活用した情報発信など、地域の方々との相互理解を深めるための取組を行っている。

(5)その他の措置(自衛隊にかかるものも含む)

①漁業補償

防衛省は、自衛隊又は在日米軍が水面を使用して行う訓練などのため、法律(自衛隊法第105条第1項又は漁船操業制限法第1条)又は契約により制限水域を設定し、これに伴う損失を補償している。

また、同法の規定による操業の制限又は禁止により、漁業経営上の損失を被った者で、同法の規定による補償を受けられないものを救済するため、行政措置として一定の要件を満たす者に対し、見舞金を支給している。

②基地交付金等

総務省所管の防衛施設に関する交付金の制度である国有提供施設等所在市町村助成交付金(以下「基地交付金」という。)及び施設等所在市町村調整交付金(以下「調整交付金」という。)についても、防衛省は、各種情報提供等の協力を行っている。

基地交付金は、米軍の施設や自衛隊が使用する施設のうち、飛行場や演習場の用に供する土地が広大な面積を有しており、市町村の区域の多くを占めていることが市町村の財政に著しい影響を与えていることを考慮して創設されたものであり、固定資産税の代替的性格を基本として、米軍や自衛隊の用に供している国有財産(土地、建物及び工作物)の所在する市町村に対して交付されるものである。

調整交付金は、米軍が建設し、又は設置する資産(以下「米軍資産」という。)に対する固定資産税が非課税とされているにもかかわらず、基地交付金が交付されていないこととの均衡や、米軍の軍人や軍属にかかる市町村民税等の非課税措置による税財政上の影響を考慮して創設されたものであり、米軍資産の所在する市町村に対して交付されるものである。

5 令和3(2021)年度予算で約48億円

6 再編特措法では、在日米軍の再編の対象である航空機部隊と一体として行動する艦船の部隊の編成の変更(横須賀海軍施設における空母の原子力空母への交替)について、在日米軍の再編と同様に扱うこととしている。

7 具体的な事業の範囲は、「駐留軍等の再編の円滑な実施に関する特別措置法施行令」第2条において、教育、スポーツ及び文化の振興に関する事業など、14事業が規定されている。

8 パイロット等が飛行中に、航空機に何らかの通常と異なることを示す徴候を察知した場合に行う着陸