資料編

資料90 防衛省改革会議「報告書」の概要

平成20年7月15日

防衛省改革会議

I はじめに

1 平成19年12月、防衛省・自衛隊の不祥事の頻発を受け防衛省改革会議を官邸に設置。

2 個々の事案とそれを許容した組織の問題を解明し、再発防止の方策と改革の方向を示すための検討を重ねる。改革の原則を機能させ、また、組織の任務に沿った実効的な活動が行えるよう、防衛省・自衛隊の組織と意思決定システムの再構築が必要。

3 自衛隊は、多機能・弾力的・実効的に行動すべき時代を迎えている。戦後強調された「軍事実力組織からの安全」の更なる充実強化とともに、今後は「軍事実力組織による安全」という観点との組み合わせが必要。

4 文民統制を確保しつつ、安全保障機能を効果的に果たしうるシステムの改革をここに提案。

II 不祥事案-問題の所在

1 給油量取違え事案(報告義務不履行):米海軍艦船への給油量について、海幕防衛課長が報告した誤った数値によって統幕議長の記者会見や、防衛庁長官及び官房長官の発言が行われた。

誤りを認識した後も訂正をしなかった報告義務不履行は、プロフェッショナリズム(職業意識)の欠如と文民統制への背反。誤りを正す責任が明確でない組織上の問題も正されるべき。

2 情報流出事案(通信情報革命と情報保全):秘密情報を含む業務用データを私有パソコンに取り込んだファイル共有ソフトを介して部外に流出するなどの事案が平成18年まで立て続けに発生。

急速な通信情報革命に自衛隊の認識がついていけなかったこと、秘密情報についての保全意識が不徹底であったことが原因。

3 イージス情報流出事案(先端技術の学習と情報保全):特別防衛秘密に該当するイージス情報が正規の手続きを経ることなく教材として利用され、海上自衛隊内に拡散した事案。最先端技術への学習意欲が情報保全意識の欠如と結びついて生じたもの。

4 「あたご」衝突事案(基本動作のゆるみ):海自護衛艦「あたご」が漁船と衝突。基本的な規律のゆるみやルール無視の組織的蔓延、航海技量の欠如がどれほど恐るべき結果を招くかを教える事案。また、事故発生後の幕僚監部と内部部局における緊急時の情報伝達の問題が浮き彫りに。

5 前事務次官の背信:前事務次官が接待や金品供与を受け、防衛装備品の調達に当たって影響力を行使したとされている事案。調達に際して私的利益を動機にすることは、内部部局官僚が誇るべきプロフェッショナリズムから最も遠く、忌まわしい背信行為。最高幹部による重大な逸脱が放置された組織的な背景にも問題。

6 諸事案の総合検討

不祥事の抑制のためには全組織をあげて目標と任務意識を鮮明化しつつミスを極小化する継続的な取組みが不可避。

III 改革提言(1) -隊員の意識と組織文化の改革

1 改革の原則

不祥事案の検討・分析を踏まえ、<1>規則遵守の徹底、<2>プロフェッショナリズムの確立、<3>全体最適をめざした任務遂行優先型の業務運営の確立、の改革の原則を提唱。

2 規則遵守の徹底

自発的な規則遵守意識が組織風土として定着することが必要。また、守るべき事項を明確にするための規則の整理が必要。

(1) 幹部職員自身が規則の必要性を理解し、率先垂範すること。

(2) 形式よりも必要性に着目した規則遵守についての職場教育。

(3) 機密保持に関する規則の徹底と違反行為の厳正な処分。

(4) 防衛調達における透明性確保のための責任の所在の明確化、会議録の作成・公開。

(5) 抜き打ち監察など監査・監察の強化。

(6) 規則の必要性の検討及び見直し。

3 プロフェッショナリズム(職業意識)の確立

プロ意識に徹した上官の統率によって組織全体に高い倫理観、使命感を与えるべき。

(1) 幅広い視野を持った幹部要員を養成するため、教育プログラムや行政経験の在り方を見直し。

(2) 自衛隊の各部署における業務量と人員配置のバランスを見直し、現場の過度な負担を軽減しつつ、基礎的な職場教育の充実を図る。

(3) 現代の安全保障に決定的な意味を持つ情報伝達・保全におけるプロ意識の醸成。

4 全体最適をめざした任務遂行優先型の業務運営の確立

個々の隊員、部隊等の意識改革に加え、任務遂行を中心に全体最適をめざす組織文化を創出することが必要。

(1) 文官と自衛官の一体感と陸・海・空自衛隊の一体感醸成による協働体制の確立。

(2) 自律的なPDCA(Plan Do Check Act:計画・実施・評価・改善)サイクルの確立。

(3) 民間のベスト・プラクティスを参考にしつつ、自衛隊の基本単位である部隊を統率する指揮官と部下との共通の改善努力。

(4) 組織横断的プロジェクトチーム(IPT(Integrated ProjectTeam))方式による政策立案を通じた政策課題への機動的対応。

(5) 防衛調達におけるIPT方式の本格的導入。

(6) 統合幕僚監部を中心とする統合運用体制の更なる促進。

(7) 国民が不信を抱かぬよう、各種会見や中央と部隊の間で整合性の取れた広報の実施。

IV 改革の提言(2) -現代的文民統制のための組織改革

1 組織改革の必要性

防衛省・自衛隊が、上記の改革の三原則をより確実・効果的に実行するため、組織面での改革が必要。

2 戦略レベル-官邸の司令塔機能の強化

防衛省のみならず官邸の司令塔機能強化が必要。

(1) 防衛政策の前提となる国全体としての安全保障戦略を明示。

(2) 官房長官、外相、防衛相などの閣僚により、安全保障に関わる重要課題を日常的・機動的に議論する会合の充実。

(3) 防衛力整備に関する政府の方針等を議論するための関係閣僚会合の設置。あわせてこれを補佐する常設の機関の設置。

(4) 安全保障に関わる内閣総理大臣の補佐体制を充実強化するため、内閣官房のスタッフの強化。

3 防衛省における司令塔機能強化のための組織改革

(1) 防衛大臣を中心とする政策決定機構の充実

<1> 防衛参事官制度を廃止し、防衛大臣補佐官の設置。

<2> 防衛会議を法律で明確に位置づけ、副大臣、事務次官、統幕長などの政治家、文官、自衛官の三者による審議を通じ防衛大臣の政策決定・緊急事態対応を補佐。

<3> 省としての情報集約や危機管理の対応を行うセンターの設置。

(2) 防衛政策局の機能強化

防衛政策の企画・立案・発信機能の向上を図る。また、自衛官を登用して運用面での実情を踏まえた機能強化を図る。

とりわけ、国際平和活動等の企画立案や、情報分析能力の向上に取り組む。

(3) 統合幕僚監部の機能強化

運用企画局を廃止し、作戦運用の実行は、大臣の命を受けて統合幕僚長の下で実施。また、部隊出動等や作戦計画等の重要事項については、防衛政策局を通じ、防衛会議の議を経て、防衛大臣の決裁を仰ぐ。なお、文官を登用して機能強化を図る。

(4) 防衛力整備部門の一元化

<1> 防衛力整備の全体最適化を図るため、内部部局、陸・海・空三幕の防衛力整備部門を整理・再編して、整備事業等を一元的に取扱う整備部門を創設することとし、その具体的在り方を更に検討。IPT方式の調達を本格実施できる体制とする。

<2> 地方調達については、できる限り中央調達に移行させる見直しを実施。また、独立性の高い第三者チェック体制を強化。

(5) その他の重要分野における施策

<1> 管理部門については、部隊の実情に精通した自衛官を積極的に登用すると共に極力統合化を図る。

<2> 自衛官の人事、教育・訓練は、陸・海・空三幕が責任を負うが、内部部局も制度や政策面から防衛大臣を補佐。

V 結びにかえて

本提言の改革の実施計画を早急にとりまとめ、実施に移すべき。また、組織改革に当たっては、事前に多面的なシミュレーションを行うべき。

防衛省・自衛隊と警察、海上保安庁との関係を更に緊密にするとともに国全体としての機能をどう果たしていくか、というような今後検討すべき課題を提起。

防衛省・自衛隊が誇りを持ったプロフェッショナル集団として再生することを期待。

 
前の項目に戻る      次の項目に進む