アフガニスタンでは、「不朽の自由」作戦(OEF:Operation Enduring Freedom)の一環としてのタリバーンなどの掃討作戦や、国際治安支援部隊1(ISAF:International Security Assistance Force)およびアフガニスタン治安部隊(ANSF:Afghan National Security Forces)による治安維持活動といった取組が行われている。アフガニスタンの多くの地域で治安情勢は依然として予断を許さず、パキスタンと国境を接する東部、南部および南西部の治安は引き続き懸念すべき状況にある。
ISAFおよびANSFの活動により、タリバーンの攻撃能力は低下しつつあるものの、タリバーンはパキスタン国内に安全地帯を確保し、国境を越えて、アフガニスタン国内でテロ活動を行っているとみられている2。
10(同22)年のNATOリスボン首脳会合において、ISAFからANSFへの治安権限移譲を14(同26)年末までに完了することが合意された。治安権限移譲は五段階に地域を分けて行われており、11(同23)年7月、第一段階の治安権限移譲が開始された。カルザイ大統領は、同年11月に第二段階、12(同24)年5月に第三段階、同年12月に第四段階の治安権限移譲の対象地域をそれぞれ発表した。第五段階の治安権限移譲以降はANSFがアフガニスタン全土の治安維持を主導する予定である。
ISAFは、第五段階の治安権限移譲以降、戦闘任務をANSFの訓練、助言、支援任務に移行し、14(同26)年末に任務を完了する予定であり、現在、段階的にその規模を縮小している。11(同23)年7月、米軍は撤収を開始し、12(同24)年9月までに3万3,000人が撤収した3。また、カナダやフランスが既に戦闘部隊の撤収を終了しているほか、他のNATO主要国も戦闘部隊の撤収方針を発表している。
治安権限移譲後は、ANSFがアフガニスタンの治安を全面的に担うことになる。ANSFの整備規模は目標に達しつつあり、その能力も向上を続けているものの、識字率の低さ、限定的な兵站(へいたん)能力、ANSFの兵士や警察官による国際部隊への攻撃などの課題も多い。また、ANSFの維持にかかる費用は、その大部分を国際社会が負担しているが、14(同26)年末以降、ANSFの規模は縮小される予定である4。
国際社会によるアフガニスタンへの支援は、14(同26)年末以降も継続することで合意している。12(同24)年5月のNATOシカゴ首脳会合では、14(同26)年末以降のアフガニスタンの治安へのコミットメントが再確認されたほか、12(同24)年7月の東京会合ではわが国を含む国際社会が総額160億ドルを超える規模の支援を表明した。また、米国、英国、フランスなどの各国は、14(同26)年以降の支援を盛り込んだ戦略的パートナーシップ協定5をアフガニスタン政府と締結している。
アフガニスタンの問題は治安だけに留まらず、その復興には、汚職の防止、法の支配の強化、麻薬対策の強化、地方開発の促進などの課題が山積している。同国の平和と安定は国際社会の共通の課題であり、国際社会がアフガニスタンに継続的に関与していくことが必要である。
イスラエルとパレスチナの間では、93(同5)年のオスロ合意を通じて、本格的な交渉による和平プロセスが開始され、03(同15)年には、イスラエル・パレスチナ双方が、二国家の平和共存を柱とする和平構想実現までの道筋を示す「ロードマップ」を受け入れたが、その履行は進んでいない。その後、08(同20)年末から翌年初めにかけて、ガザ地区からのイスラエルに対するロケット攻撃を受けて、イスラエル軍が同地区に対して空爆や地上部隊の投入などの大規模な軍事行動を行ったことにより、両者間の交渉は中断した。12(同24)年11月には、ガザ地区からのイスラエルに対するロケット攻撃を受けて、イスラエル軍が同地区に対して空爆を行ったが、エジプトなどの仲介により停戦した。また、同年11月、国連総会において、パレスチナに国連における非加盟のオブザーバー国家の地位を付与することを決定する総会決議が採択され6、その翌日、イスラエルが、ヨルダン川西岸地区における入植計画拡大7を表明した。
イスラエルとシリア、レバノンとの間では、いまだに平和条約が締結されていない。イスラエルとシリアの間には、第三次中東戦争でイスラエルが占領したゴラン高原の返還などをめぐる立場の相違があり、ゴラン高原には、イスラエル・シリア間の停戦および両軍の兵力引き離しに関する履行状況を監視する国連兵力引き離し監視隊(UNDOF:United Nations Disengagement Observer Force)が展開している8。イスラエルとレバノンの間では、06(同18)年のイスラエルとイスラム教シーア派組織ヒズボラとの紛争後、規模を拡大した国連レバノン暫定隊(UNIFIL:United Nations Interim Force in Lebanon)が展開し、両国間では目立った衝突は発生していないが、ヒズボラが再び戦力を増強しているとの指摘がある9。
シリアでは、11(同23)年3月以降、民主化、アサド大統領の退陣などを要求する反政府デモが各地で発生し、治安部隊との衝突により多数の死傷者が発生する事態となった。これを受け、シリア政府は複数の都市に軍や治安部隊を投入し、一部の都市で軍と反体制派の衝突が継続している10。
反体制派は、当初、統一組織を持たず、シリア軍からの離反兵やイスラム武装勢力などが、各個に政府軍と衝突していたと指摘されていた。その後、12(同24)年11月、反体制諸派はカタールのドーハにおいて米国やアラブ連盟の仲介で会合を行い、統一組織「シリア国民連合」を設立した。その後、12(同24)年12月にモロッコで開催された第4回シリア・フレンズ会同で、同連合は「シリアの人々の正当な代表」として認められている。一方、13(同25)年1月、アサド大統領は演説の中で政府軍と衝突する反体制派をテロ組織として断じるなど、対決姿勢を崩していない。
米国や欧州連合(EU:European Union)などは、アサド大統領の退陣を要求するとともに、シリアからの石油輸入禁止などの累次の制裁措置を行っている。一方、シリア軍と衝突している反体制派には「シリア国民連合」に参加しないものもいる。その中には「アルカイダ」との関連があるとして米国がテロ組織に指定する「ヌスラ戦線」などがあり11、テロ組織に武器が拡散する懸念があることから、欧米による反体制派への武器の供与は行われていない。
また、シリアのトルコ国境付近において、シリア軍と反体制派の衝突が激化するなか、12(同24)年10月には、シリア領内から砲撃がトルコに着弾し死者が発生した。同年12月、NATOはトルコからの要請を受け、同国へのペトリオットPAC-3の配備を承認し、13(同25)年2月、シリア国境付近に配備を完了した。
シリアが保有するとされる化学兵器について、国際社会は生物・化学兵器の不使用を重ねて要求している12。同年3月、化学兵器の使用が疑われるシリア国内の事例について、シリア政府の要請により国連調査団が結成されたが、調査の対象地域をめぐる主張の相違のため、シリア政府と国連の交渉が継続しており、現地における調査は開始されていない。
12(同24)年4月に国連安保理により設立された国連シリア監視団(UNSMIS:United Nations Supervision Mission in Syria)は、シリア国内の治安状況が改善されず、これ以上の任務遂行13が困難になったことから、同年8月、活動を終了した。同年8月に就任したブラヒミ国連・アラブ連盟合同特使による、事態打開に向けた対話も大きな進展はなく、シリア情勢の今後の見通しは依然として不透明である。
スーダンでは、83(昭和58)年から、北部のアラブ系イスラム教徒を主体とする政府と、南部のアフリカ系キリスト教徒主体の反政府勢力との間の南北内戦が、20年以上継続した。05(平成17)年に成立した南北包括和平合意(CPA:Comprehensive Peace Agreement)に基づいて、11(同23)年1月、南部スーダンの分離・独立を問う住民投票が行われ、南部スーダンの分離が圧倒的多数で支持された結果を受け、同年7月に南スーダン共和国が独立した。また、国連安保理が採択した決議第1996号に基づき、国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS:United Nations Mission in the Republic of South Sudan)が設立された14。独立後は、アビエ地域15の帰属を含む南北国境線画定や南スーダン産石油の南北間の収益配分などの未解決の課題について、アフリカ連合(AU:African Union)16を始め国際社会の仲介により交渉が続けられてきた。12(同24)年3月下旬以降、南北国境地帯においてスーダン軍が南スーダン領内へ空爆を行ったとされる事案が発生する一方で、南スーダン軍がスーダン領内にある油田地帯を制圧するなど、両国間の軍事的緊張が高まった。これを受けて、国連安保理は同年5月、両国がすべての敵対行為を即時停止し、交渉を再開すべきことなどを決定する決議第2046号を採択した。両国は、同年8月までにアビエ地域からの撤退を実施し、同年9月には国境付近の治安措置や石油などに関する一連の合意文書に、13(同25)年3月には、合意履行日程を規定した文書に署名しており、今後、石油輸出再開を含む合意の着実な履行が期待される。
スーダン西部のダルフール地方では、03(同15)年頃から、アラブ系の政府と複数のアフリカ系反政府勢力の間で紛争が激化した。大量の国内避難民の発生などもあり、国連をはじめとする国際社会はダルフール問題を深刻な人道危機として扱っている。06(同18)年5月に政府と主要な反政府勢力の一部の間でダルフール和平合意(DPA:Darfur Peace Agreement)が成立したことを受け、07(同19)年7月、国連安保理はダルフール国連・AU合同ミッション(UNAMID:AU/UN Hybrid Operation in Darfur)の創設を決定する決議第1769号を採択した。10(同22)年2月以降、国連・AU・カタールなどが仲介し、カタールの首都ドーハにおいて、スーダン政府と「正義と平等運動(JEM:Justice and Equality Movement)」をはじめとするダルフールの反政府勢力との間で和平協議が断続的に行われている。11(同23)年7月にはスーダン政府と「解放と正義の運動(LJM:Liberation and Justice Movement)」は、ダルフール和平に関する合意文書(DDPD:Doha Document for Peace in Darfur)に署名した。しかし、スーダン政府軍と反政府勢力との戦闘が継続して発生しているほか、反政府勢力の協議への不参加やスーダン政府の資金不足などもあり、履行プロセスは遅延している。
ソマリアでは、91(同3)年以降、無政府状態が継続した後、05(同17)年に「暫定連邦政府」(TFG:Transitional Federal Government)が発足したが、これと対立するイスラム原理主義組織「イスラム法廷連合」(UIC:Union of Islamic Courts)などとの間で戦闘が激化した。06(同18)年12月、エチオピア軍がTFGの要請を受けて軍事介入し、UICを駆逐した。翌07(同19)年1月、AUソマリア平和維持部隊(AMISOM:African Union Mission in Somalia)が創設され、また、08(同20)年8月には、ジブチにおいて、UICなどが結成した「ソマリア再解放連盟」(ARS:Alliance for the Re-Liberation of Somalia)とTFGとの間で、和平合意が締結された。しかし、イスラム武装勢力「アル・シャバーブ」など17による激しい抵抗が続き、ケニアやエチオピアといった周辺国がアル・シャバーブ掃討のために部隊を展開させており、首都モガディシュや主要拠点キスマヨから撤退するなど一定の進展は見られるものの、ソマリア中南部を中心に依然として戦闘が継続している。このような情勢の中、12(同24)年8月には、TFGの暫定統治期間が終了し、新連邦議会が招集された。同年9月には新大統領が選出され、同年11月には新内閣が発足するなど、21年ぶりに成立した統一政府が情勢の安定化を目指している。
マリでは12(同24)年1月、北部のトゥアレグ族18の武装集団「アザワド地方解放国民運動(MNLA:National Movement for the Liberation of the Azawad)」が反乱を起こし、アルカイダとの関連が指摘されるイスラム武装勢力「アンサール・ディーン(Ansar al-Dine)」など19がこれに合流した。3月には、一部の軍兵士らが首都バマコで騒乱を起こし、これに乗じてMNLAは北部の複数の都市を制圧し、同年4月に同国北部の独立を宣言した。
その後、イスラム法の実行をめぐる争いの結果、アンサール・ディーンや西アフリカ統一聖戦運動(MUJAO)、イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ(AQIM)などのイスラム原理主義テログループが、シャリーア(イスラム法)に基づく統治を行うなど、人道・治安状況が悪化した。これに対し、同年12月、国連安保理は決議第2085号を採択し、マリ軍および治安機関の能力再構築、マリ北部地域の奪回およびテロ組織による脅威の低減のためにマリ当局を支援することなどを任務とするアフリカ主導国際マリ支援ミッション(AFISMA:African-led International Support Mission in Mali)20の展開を承認した。13(同25)年1月には、アンサール・ディーンなどの中南部への侵攻といった事態を受けて、マリ暫定政府から要請を受けたフランスはマリへ部隊を派遣し、米国、英国などの欧米諸国から輸送、補給、情報などにおける支援を受け、マリ軍とともに同国中北部の主要都市の多くを奪回した。一部の都市では自爆テロの発生などが伝えられているものの、フランスは任務の大部分は終了したとして、同年4月から部隊撤収を開始しており、最大で約4,000人の兵力を同年末には1,000人規模に縮小する方針を明らかにした。このような中、同年4月、国連安保理は、人口密集地の安定化とマリ全土における国家機能の再構築支援などを任務とする国連マリ多角的統合安定化ミッション(MINUSMA:United Nations Multidimensional Integrated Stabilization Mission in Mali)を設置し、7月1日にAFISMAからMINUSMAへの権限移譲を行うことを決定する安保理決議第2100号を全会一致で採択した21。
また、EUは12(同24)年12月、約500人規模のマリ軍訓練ミッションの設立を決定し、マリ軍の訓練と再編を支援している。
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