第I部 わが国を取り巻く安全保障環境
2 軍事
1 国防政策

中国は、国家の安全と発展の利益に見合った強固な国防と強大な軍隊の建設を国家の近代化建設のための戦略的な任務であると位置づけており、国防政策の目標と任務については、主に、国家の主権、安全、発展の利益を擁護すること、社会の調和と安定を擁護すること、国防と軍隊の近代化を推進すること、ならびに世界の安定と平和を擁護することであるとしている1
中国は、湾岸戦争やコソボ紛争、イラク戦争などにおいて見られた世界の軍事発展の趨勢に対応し、情報化条件下の局地戦に勝利するとの軍事戦略2に基づいて、軍事力の機械化および情報化を主な内容とする「中国の特色ある軍事変革」を積極的に推し進めるとの方針をとっている。中国は、軍事や戦争に関して、物理的手段のみならず、非物理的手段も重視しているとみられ、「三戦」と呼ばれる「輿論(よろん)戦」、「心理戦」および「法律戦」を軍の政治工作の項目に加えた3ほか、「軍事闘争を政治、外交、経済、文化、法律などの分野の闘争と密接に呼応させる」4との方針も掲げている。
中国の軍事力近代化においては、ロシアなど陸上で国境を接する周辺諸国との関係の安定化を背景として、台湾問題への対処、具体的には台湾の独立および外国軍隊による台湾の独立支援を阻止する能力の向上が、最優先の課題として念頭に置かれていると考えられる。さらに、近年では、台湾問題への対処以外の任務のための能力の獲得にも積極的に取り組んでおり、非伝統的安全保障分野における軍隊の活用も重視する方針を打ち出しつつある。軍事力近代化の長期的な計画については、「2020年までに機械化を基本的に実現させ、情報化建設において重大な進展を成し遂げる」との目標を掲げ、「情報化条件下における局地戦で勝利する能力を中核とする、多様化した軍事任務を完遂する能力を向上させ、新世紀における新段階での軍隊の歴史的使命を全面的に履行する」5としており、国力の向上にともない軍事力も発展させていく考えであるとみられる。
中国は国防費を継続的に増加し、核・ミサイル戦力や海・空軍を中心とした軍事力の広範かつ急速な近代化を進め、戦力を遠方に展開させる能力の強化に取り組んでいる。また、各軍・兵種間の統合作戦能力の向上、実戦に即した訓練の実施、情報化された軍隊の運用を担うための高い能力を持つ人材の育成および獲得、国内の防衛産業基盤の向上に努めている6。さらに中国は、自国の周辺海空域において活動を急速に拡大・活発化させている。このような中国の動向は、軍事や安全保障に関する透明性の不足とあいまって、わが国を含む地域・国際社会にとっての懸念事項であり、わが国として強い関心をもって注視していく必要がある。

2 軍事に関する透明性

中国は、従来から、具体的な装備の保有状況、調達目標および調達実績、主要な部隊の編成や配置、軍の主要な運用や訓練実績、国防予算の内訳の詳細などについて明らかにしていない。また、軍事力の近代化の具体的な将来像は明確にされておらず、軍事や安全保障に関する意思決定プロセスの透明性も十分確保されていない。
中国は、98(同10)年以降2年ごとに、「中国の国防」などの国防白書を発表してきており、外国の国防当局との対話も数多く行われている。07(同19)年8月には、国連軍備登録制度への復帰および国連軍事支出報告制度への参加を表明し、それぞれの制度に基づく年次報告を提出した。また、中国国防部は、11(同23)年4月から毎月定例で報道官による記者会見を行っている。
このように、中国が、自国の安全保障についてまとまった文書を継続して発表していることや軍備と軍事支出に関する国連の制度に復帰・参加したことなどは、軍事力の透明性向上に資する動きとして評価できる。
一方で、たとえば、国防費の内訳の詳細については、基本的に、人員生活費、活動維持費、装備費に三分類し、それぞれの総額と概括的な使途を公表しているのみであり、「2008年中国の国防」では情報開示の面でわずかな進展は見られたものの7、主要装備品の調達費用などの基本的な内訳も示されていない。また、13(同25)年4月に発表された国防白書「中国武装力の多様化運用」においては、記述を特定のテーマに限定し、一部にこれまでよりも詳細に記述したところがある反面、それまでの国防白書にはあった国防費に関する記述が一切なくなるなど、透明性が低下している面も見られ、国際社会の責任ある大国として望まれる透明性は依然として確保されていない。中国が09(同21)年に提出した国連の軍事支出報告制度の報告も、わが国を含む多くの国が使用している軍事支出の内訳を詳細に記載する標準様式による報告ではなく、すでに中国が国防白書で公表している内容とほぼ同様の簡略な報告であった。
中国の軍事に関する意思決定や行動に懸念を生じさせる事案も生じている。たとえば、中国原子力潜水艦によるわが国領海内潜没航行事案(04(同16)年11月)については、国際法違反にもかかわらずその詳細な原因は明らかにされていない。また、中国海軍艦艇による海自護衛艦に対する火器管制レーダー照射事案など(13(同25)年1月)が発生していることについては、中国国防部および外交部が同レーダーの使用そのものを否定するなど事実に反する説明を行っている。近年では、軍事力近代化にともなう軍の専門化の進展や任務の多様化など軍を取り巻く環境が大きく変化してきている中で、共産党指導部と人民解放軍との関係が複雑化しているとの見方や、対外政策決定における軍の影響力が変化しているとの見方8もあり、こうした状況については危機管理上の課題としても注目される。
中国は、政治、経済的に大国として着実に成長し、軍事に関しても各国がその動向に注目する存在となっている。中国に対する懸念を払拭するためにも、中国が国防政策や軍事力の透明性を向上させていくことがますます重要になっており、今後、国防政策や軍事力に関する具体的な情報開示などを通じて、中国が軍事に関する透明性を高めていくことが望まれる。

3 国防費

中国は、2013年度の国防予算を約7,202億元9と発表した10。発表された予算額を昨年度の当初予算額と比較すると、約10.7%(約698億元)の伸びとなり11、中国の公表国防費は、引き続き速いペースで増加している12。公表国防費の名目上の規模は、過去10年間で約4倍、過去25年間で33倍以上の規模となっている。中国は、国防と経済の関係について、「2010年中国の国防」において、「国防建設と経済建設の調和的発展の方針を堅持する」と説明し、国防建設を経済建設と並ぶ重要課題と位置づけている。このため、中国は経済建設に支障のない範囲で国防力の向上のための資源投入を継続していくものと考えられる。
また、中国が国防費として公表している額は、中国が実際に軍事目的に支出している額の一部にすぎないとみられていること13に留意する必要がある。たとえば、装備購入費や研究開発費などはすべてが公表国防費に含まれているわけではないとみられている。
(図表I-1-3-1参照)

図表I-1-3-1 中国の公表国防費の推移
4 軍事態勢

中国の軍事力は、人民解放軍、人民武装警察部隊14と民兵15から構成されており、中央軍事委員会の指導および指揮を受けるものとされている16。人民解放軍は、陸・海・空軍と第二砲兵(戦略ミサイル部隊)からなり、中国共産党が創建、指導する人民軍隊とされている。

(1)核戦力およびミサイル戦力
中国は、核戦力および弾道ミサイル戦力について、50年代半ばごろから独自の開発努力を続けており、抑止力の確保、通常戦力の補完および国際社会における発言力の確保を企図しているものとみられている17。核戦略に関して、中国は、核攻撃を受けた場合に、相手国の都市などの少数の目標に対して核による報復攻撃を行える能力を維持することにより、自国への核攻撃を抑止するとの戦略をとっているとみられている18
中国は、大陸間弾道ミサイル(ICBM:Intercontinental Ballistic Missile)、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM:Submarine-Launched Ballistic Missile)、中距離弾道ミサイル(IRBM/MRBM:Intermediate-Range Ballistic Missile/Medium-Range Ballistic Missile)、短距離弾道ミサイル(SRBMShort-Range Ballistic Missile)という各種類・各射程の弾道ミサイルを保有している。これらの弾道ミサイル戦力は、液体燃料推進方式については固体燃料推進方式への更新による残存性および即応性の向上が行われている19ほか、射程の延伸、命中精度の向上や多弾頭化などの性能向上の努力が行われているとみられている。
戦略核戦力であるICBMについては、これまでその主力は固定式の液体燃料推進方式のミサイルであったが、中国は、固体燃料推進方式で、発射台付き車両(TEL:Transporter-Erector-Launcher)に搭載される移動型のICBMであるDF-31およびその射程延伸型であるDF-31Aを配備しており、特にDF-31Aについては、その数を今後増加させていくとの指摘もある20。また、SLBMについては、現在射程約8,000kmとみられている新型SLBMであるJL-2の開発およびこれを搭載するためのジン級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN:Ballistic Missile Submarine Nuclear-Powered)の建造が行われているとみられている。JL-2が実用化に至れば、中国の戦略核戦力は大幅に向上するものと考えられる。
わが国を含むアジア太平洋地域を射程に収めるIRBM/MRBMについては、液体燃料推進方式のDF-3のほか、TELに搭載され移動して運用される固体燃料推進方式のDF-21も配備されており、これらのミサイルは、核を搭載することが可能である。中国はDF-21を基にした命中精度の高い通常弾頭の弾道ミサイルを保有しており、空母などの洋上の艦艇を攻撃するための通常弾頭の対艦攻撃弾道ミサイル(ASBM:Anti-Ship Ballistic Missile)を配備しているとの指摘もある21。また、中国は、IRBM/MRBMに加えて、射程1,500km以上の巡航ミサイルであるDH-10(CJ-10)のほか、核兵器や巡航ミサイルを搭載可能なH-6(Tu-16)中距離爆撃機を保有しており、これらは、弾道ミサイル戦力を補完し、わが国を含むアジア太平洋地域を射程に収める戦力となる可能性がある22。SRBMについては、固体燃料推進方式のDF-15およびDF-11を多数保有し、台湾正面に配備しており23、わが国固有の領土である尖閣諸島を含む南西諸島の一部もその射程に入っているとみられている。
一方、中国は10(同22)年および13(同25)年1月に、ミッドコース段階におけるミサイル迎撃技術の実験を行ったと発表しており、中国による弾道ミサイル防衛の今後の動向が注目される。
(図表I-1-3-2参照)

図表I-1-3-2 中国(北京)を中心とする弾道ミサイルの射程

(2)陸上戦力
陸上戦力については、約160万人と世界最大である。中国は、85(昭和60)年以降に軍の近代化の観点から行ってきた人員の削減や組織・機構の簡素化・効率化に引き続き努力しており、装備や技術の面で立ち遅れた部隊を漸減し、能力に重点を置いた軍隊を目指している。具体的には、これまでの地域防御型から全国土機動型への転換を図り、歩兵部隊の自動車化、機械化を進めるなど機動力の向上を図っているほか、空挺部隊(空軍所属)、特殊部隊およびヘリコプター部隊の強化を図っているものと考えられる。また、部隊の多機能化を進め、統合作戦能力の向上と効率的な運用に向けた指揮システムの構築に努力し、後方支援能力を向上させるための改革にも取り組んでいる。中国は09(平成21)年、軍区を横断する演習としては過去最大とされる「跨越2009」演習を行ったほか、10(同22)年にも同様の機動演習「使命行動2010」を行った。これらの演習は、陸軍の長距離機動能力、民兵や公共交通機関の動員を含む後方支援能力など、陸軍部隊を遠隔地に展開するために必要な能力の検証・向上などを目的としていたと考えられる。
(図表I-1-3-3参照)

図表I-1-3-3 中国軍の配置と戦力

(3)海上戦力
海上戦力は、北海、東海、南海の3個の艦隊からなり、艦艇約970隻(うち潜水艦約60隻)、約147万トンを保有しており、自国の海上の安全を守り、領海の主権と海洋権益を保全する任務を担っている。中国海軍は、キロ級潜水艦のロシアからの導入や新型国産潜水艦の積極的な建造を行うなど潜水艦戦力を増強24するとともに、艦隊防空能力や対艦攻撃能力の高い水上戦闘艦艇の増強を進めている。また、大型の揚陸艦25や補給艦の増強を行っているほか、08(同20)年10月には大型の病院船を就役させた26
空母に関しては、ウクライナから購入した未完成のクズネツォフ級空母ワリャーグの改修を進め、11(同23)年8月から12(同24)年8月の間に計10回の試験航行を行った後、同年9月に遼寧(りょうねい)と命名し、就役させた27。同艦就役後も艦載機パイロットの育成や国産のJ-15艦載機の開発など必要な技術の研究・開発を継続していると考えられる28。また、中国初の国産空母の建造を進めている可能性があるとの指摘もある29
このような海上戦力の近代化状況などから、中国は近海における防御に加え、より遠方の海域において作戦を遂行する能力の構築を目指していると考えられる。こうした中国の海上戦力の動向には今後も注目していく必要がある。

(4)航空戦力
航空戦力は、空軍、海軍を合わせて作戦機を約2,580機保有している。第4世代の近代的戦闘機は着実に増加しており、ロシアからSu-27戦闘機の導入・ライセンス生産などを行い、対地・対艦攻撃能力を有するSu-30戦闘機も導入しているほか、Su-27戦闘機を模倣したと指摘されるJ-11Bや国産のJ-10戦闘機を量産している。また、中国は次世代戦闘機との指摘もあるJ-20の開発を進めている30ことに加え、別の次世代戦闘機の開発も進めているとの指摘もある31。また、H-6空中給油機やKJ-2000早期警戒管制機などの導入により近代的な航空戦力の運用に必要な能力を向上させる努力も継続している。さらに、輸送能力向上のため、ロシアから大型輸送機を導入予定とも伝えられているほか、新型のY-20大型輸送機を開発中32であるともみられている。このような多種多様な航空機の自国での開発・生産・配備やロシアからの導入に加え、中国は無人機の自国での開発・生産・配備も進めているとみられている33
このような航空戦力の近代化状況などから、中国は、国土の防空能力の向上に加えて、より前方での制空戦闘および対地・対艦攻撃が可能な能力の構築や長距離輸送能力の向上を目指していると考えられる34。こうした中国の航空戦力の動向には今後も注目していく必要がある。

(5)宇宙の軍事利用およびサイバー戦に関する能力
中国は宇宙開発の努力を続けており、これまでに国産のロケットを使用して各種の人工衛星を打ち上げたほか、有人宇宙飛行、月周回衛星の打上げなどを行っている35。中国の宇宙開発は、国威の発揚や宇宙資源の開発を企図しているとの見方がある一方、宇宙開発においては軍事分野と非軍事分野が関連しているとみられることから36、中国は、軍事目的で情報収集、通信、航法などの宇宙利用を行っている可能性がある。最近では、複数の中国空軍幹部が、空軍として宇宙利用に積極的に取り組む方針を明らかにしている37
中国は対衛星兵器の開発も行っており、07(同19)年1月に弾道ミサイル技術を応用して自国の人工衛星を破壊する実験を行ったほか、レーザー光線を使用して人工衛星の機能を妨害する装置を開発しているとの指摘もある。また、中国はサイバー空間に強い関心を有しているとみられている38
中国が対衛星兵器やサイバー空間に関心を有している背景には、迅速で効率的な戦力の発揮に欠くことのできない軍事分野での情報収集、指揮通信などが人工衛星やコンピュータ・ネットワークへの依存を高めていることが指摘できる。

5 海洋に関する活動

(1)わが国近海における活動の状況
近年、中国は、より遠方の海域および前方の空域における作戦遂行能力の構築を目指していると考えられ、その海上戦力および航空戦力による海洋における活動を質・量ともに急速に拡大させている。特に、わが国周辺海空域においては、何らかの訓練と思われる活動や情報収集活動を行っていると考えられる中国の海軍艦艇39や海・空軍機、海洋権益の保護などのための監視活動を行う中国の海上法執行機関所属40の公船や航空機が多数確認されている41。このような中国の活動には、わが国領海への侵入や領空の侵犯、さらには不測の事態を招きかねない危険な行動を伴うものがみられ、極めて遺憾であり、中国は国際的な規範の共有・遵守が求められる。
海上戦力の動向としては、中国海軍の艦艇部隊による太平洋への進出回数が近年増加傾向にあり、現在では当該進出が常態化している。また、その東シナ海・太平洋間の往復ルートが、08(同20)年以来毎年通過してきた沖縄本島と宮古島の間の海域に加え、12(同24)年4月には、大隅海峡を初めて東進したほか、同年10月には、与那国島と西表島近傍の仲ノ神島の間の海域を初めて北進しており、多様化の傾向にあるなど、外洋での展開能力の向上を図っているものと考えられる。13(同25)年1月には、東シナ海において、中国海軍艦艇から海自護衛艦に対して火器管制レーダーが照射された事案や、中国海軍艦艇から海自護衛艦搭載ヘリコプターに対して同レーダーが照射されたと疑われる事案が発生している。
航空戦力などの動向としては、近年、中国海・空軍の航空機によるわが国に対する何らかの情報収集と考えられる活動が活発にみられるようになっており、近年、航空自衛隊による中国機に対する緊急発進の回数も急激な増加傾向にある。07(同19)年9月には複数のH-6中距離爆撃機が、東シナ海上空においてわが国の防空識別圏に入り日中中間線付近まで進出する飛行を行っており、10(同22)年3月にはY-8早期警戒機が、同じく日中中間線付近まで進出する飛行を行っている。11(同23)年3月にはY-8哨戒機およびY-8情報収集機が、日中中間線を越えて尖閣諸島付近のわが国領空まで約50kmに接近する飛行を行うなど、飛行パターンも多様化している。12(同24)年には戦闘機を含む中国機による活動も活発化した。13(同25)年1月には、中国国防部が東シナ海における中国軍機による定例的な警戒監視および同軍戦闘機による空中警戒待機(CAP:Combat Air Patrol)とみられる活動の実施について公表を行っているほか、「中国武装力の多様化運用」では、空軍による海上空域での警戒パトロールに関する記述が新たに追加されており、13(同25)年に入り、戦闘機を含む中国機による活動はさらに活発化している。また、11(同23)年3月、4月および12(同24)年4月には、東シナ海において警戒監視中の海自護衛艦に対して、中国国土資源部国家海洋局所属とみられるヘリコプターなどが近接飛行する事案が発生している42
尖閣諸島周辺のわが国領海においては、08(同20)年12月に中国国家海洋局所属の「海監」船が徘徊・漂泊といった国際法上認められない航行を行ったほか、10(同22)年9月には、わが国海上保安庁巡視船と中国漁船との衝突事件が生起している。その後も、11(同23)年8月、12(同24)年3月および同年7月に「海監」船や中国農業部漁業局所属(当時)の「漁政」船が、当該領海に侵入する事案が発生している43。このように、「海監」船および「漁政」船は、近年徐々に当該領海における活動を活発化させてきたが、12(同24)年9月のわが国政府による尖閣三島(魚釣島、北小島、南小島)の所有権の取得以降、当該領海へ頻繁に侵入している。13(同25)年4月23日には、当該領海に8隻の「海監」船が侵入した。一方、12(同24)年9月、中国国防部報道官は尖閣諸島に関する中国独自の立場に言及した上で、管轄海域における中国海軍艦艇によるパトロールの実施は完全に正当かつ合法的である旨発言している。
尖閣諸島およびその周辺上空のわが国領空については、12(同24)年12月に、中国国家海洋局所属の固定翼機が中国機として初めて当該領空を侵犯する事案が発生し、その後も同局所属の固定翼機の当該領空への接近飛行が度々確認されている。
なお、12(同24)年10月には、中国海軍東海艦隊の艦艇が「海監」船や「漁政」船と領土主権および海洋権益の維持・擁護に着目した共同演習を実施しているほか、海軍の退役艦艇を国家海洋局などに引き渡しているとみられるなど、海軍は、運用面および装備面の両面から海上法執行機関を支援しているとみられる。
(図表I-1-3-4参照)

図表I-1-3-4 わが国近海などにおける最近の中国の活動
海自護衛艦「ゆうだち」に対し火器管制レーダーを照射したジャンウェイII級フリゲート(13(平成25)年1月)
海自護衛艦「ゆうだち」に対し火器管制レーダーを照射したジャンウェイII級フリゲート(13(平成25)年1月)
尖閣諸島周辺の領空を侵犯した中国国家海洋局所属固定翼機(12(平成24)年12月)【海上保安庁撮影】
尖閣諸島周辺の領空を侵犯した中国国家海洋局所属固定翼機(12(平成24)年12月)【海上保安庁撮影】

(2)わが国近海以外における活動の状況
わが国の近海以外でも、東南アジア諸国連合(ASEAN:Association of Southeast Asian Nations) 諸国などと領有権について争いのある南沙・西沙諸島などを含む南シナ海において活動を活発化させている。09(同21)年3月には、中国海軍艦艇、国家海洋局の海洋調査船、漁業局の漁業監視船およびトロール漁船が、南シナ海で活動していた米海軍の音響測定艦に接近し、同船の航行を妨害するなどの行為を行う事案などが発生しているほか、中国海軍艦艇が周辺諸国の漁船に対し威嚇射撃を行う事案も生起していると伝えられている。さらに近年では、同海域における中国の活動に対してベトナムやフィリピンなどが抗議を行うなど、南シナ海をめぐって中国と周辺諸国との摩擦が表面化している。
参照 5節

(3)わが国近海などにおける活動の目標
中国が海軍の任務として海洋権益の擁護や海上の安全を守ることを法律などに明記している点44、中国の置かれた地理的条件、グローバル化する経済などの諸条件を一般的に考慮すれば、中国海軍などの海洋における活動には、次のような目標があるものと考えられる。
第1に、中国の領土や領海を防衛するために、可能な限り遠方の海域で敵の作戦を阻止することである。これは、近年の科学技術の発展により、遠距離からの攻撃の有効性が増していることが背景にある。
第2に、台湾の独立を抑止・阻止するための軍事的能力を整備することである。たとえば、中国は、台湾問題を解決し、中国統一を実現することにはいかなる外国勢力の干渉も受けないとしており、中国が、四海に囲まれた台湾への外国からの介入を実力で阻止することを企図すれば、海洋における軍事作戦能力を充実させる必要がある45
第3に、中国が独自に領有権を主張している島嶼(しょ)の周辺海域において、各種の監視活動や実力行使などにより、当該島嶼に対する他国の実効支配を弱め、自国の領有権に関する主張を強めることである。
第4に、海洋権益を獲得し、維持および保護することである。中国は、東シナ海や南シナ海において、石油や天然ガスの採掘およびそのための施設建設や探査を行っている46
第5に、自国の海上輸送路を保護することである。背景には、中東からの原油の輸送ルートなどの海上輸送路が、グローバル化する中国の経済活動にとって、生命線ともいうべき重要性を有していることがある。将来的に、中国海軍が、どこまでの海上輸送路を自ら保護すべき対象とするかは、そのときの国際情勢などにも左右されるものであるが、近年の中国の海・空軍の近代化を考慮すれば、その能力の及ぶ範囲は、中国の近海を越えて拡大していくと考えられる。
こうした中国の海洋における活動の目標や近年の動向を踏まえれば、今後とも中国は、東シナ海や太平洋といったわが国近海および南シナ海などにおいて、活動領域をより一層拡大するとともに活動の常態化をさらに進めていくものと考えられる。このため、わが国周辺における海軍艦艇の活動や各種の監視活動のほか、活動拠点となる施設の整備状況47、自国の排他的経済水域などの法的地位に関する独自の解釈の展開48などを含め、その動向により一層注目していく必要がある。

6 軍の国際的な活動

人民解放軍は近年、平和維持、人道支援・災害救助、海賊対処といった非伝統的安全保障分野における任務を重視し始めており、これらの任務を行うために積極的に海外にも部隊を派遣するようになってきている。このような軍の国際的な活動に対する姿勢の背景には、中国の国益が国境を越えて拡大することにともない、国外において国益の保護および促進を図る必要が高まっていることや、大国として国際社会に対する責任を果たす意思を示すことにより自国の地位を強化する意図があるとみられている。
中国は、PKOを一貫して支持するとともに積極的に参加するとしており、「中国武装力の多様化運用」によれば、これまでにPKOにのべ2万2,000人の軍人が派遣されている。国連によれば、中国は、13(同25)年4月末時点で、国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS:United Nations Mission in the Republic of South Sudan)など9のPKOに計1,872人の部隊要員、文民警察要員、軍事監視要員を派遣しており、PKOにおいて一定の存在感を示している。中国のPKOに対する積極姿勢の背景には、同活動を通じて当該PKO実施地域、特にアフリカ諸国との関係強化を図るとの狙いもあるとみられている。
また、中国は、ソマリア沖・アデン湾における海賊に対処するための国際的な取組にも参加しており、中国海軍として初めての遠洋における任務として、08(同20)年12月から、同海域に海軍艦艇を派遣し、中国船舶などの護衛にあたらせている。これは、中国海軍がより遠方の海域で作戦を遂行する能力を向上させていることを示すとともに、中国が自国の海上輸送路の保護を一層重視しつつあることのあらわれであると考えられる。
さらに、中国は、リビア情勢の悪化を受け、11(同23)年2月から3月にかけて在留中国人の退避活動を行った際、民間のチャーター機などに加え、海軍のフリゲートおよび空軍の輸送機を現地に派遣した。海外在留中国人の退避活動へ軍が参加することは初めてとされ、中国はこの活動を通じて、軍の平和的・人道的なイメージや、戦争以外の軍事作戦を重視する意図を内外に示すとともに、戦力を遠方に展開させる能力を検証する狙いもあるとの指摘がなされている。

7 教育・訓練などの状況

人民解放軍は、近年、運用面においても近代化を図ることなどを目的として実戦的な訓練の実施を推進しており、陸・海・空軍間の協同演習や上陸演習などを含む大規模な演習も行っている。また、習近平総書記の軍に対する発言や、総参謀部による軍などに対する2013年の軍事訓練指示において、「戦いができる。勝つ戦いをする」との目標が繰り返し言及されていることは、軍がより実戦的な訓練の実施を推進している証左と考えられる。06(同18)年に開かれた全軍軍事訓練会議において、機械化条件下の軍事訓練から情報化条件下の軍事訓練への転換の推進が強調され、09(同21)年から施行された、新たな「軍事訓練および評価大綱」では、複数の軍種による統合訓練のほか、非戦争軍事行動の訓練、情報化に関する知識・技能の教育、ハイテク装備のシミュレーション訓練、ネットワーク訓練、電子妨害が行われるなどの複雑な電磁環境下での訓練などが重視されている。
人民解放軍は、教育面でも、科学技術に精通した軍人の育成を目指している。03(同15)年から、統合作戦・情報化作戦の指揮や情報化された軍隊の建設などを担うための高い能力を持つ人材を育成するための軍隊の人材戦略プロジェクトが推進されており、20(同32)年にかけて、人材建設の大きな飛躍を成し遂げるという目標を掲げている。人民解放軍で近年行われているとみられる給与水準の向上には優秀な人材を確保する目的があると考えられる。また、00(同12)年から、優秀な高学歴者を確保するため、一般大学の大学生に奨学金を給付して卒業後に将校として入隊させる制度も導入されている。一方、近年では、退役軍人の処遇をめぐる問題も指摘されている。
中国は、戦争などの非常事態において民間資源を有効に活用するため、動員体制の整備を進めてきており、10(同22)年2月には、戦時における動員についての基本法となる「国防動員法」を制定し、同年7月に施行した。

8 国防産業部門の状況

中国では、自国で生産できない高性能の装備や部品をロシアなど外国から輸入しているが、装備の国産化を重視していると考えられ、多くの装備を国産しているほか、新型装備の研究開発に意欲的に取り組んでいる。中国の国防産業部門は、独自の努力のほか、経済成長にともなう民間の産業基盤の向上、軍民両用技術の利用、外国技術の吸収によって発展しているとみられ、中国の軍事力の近代化を支える役割を果たしている49
中国の国防産業は、かつて、過度の秘密主義などによる非効率性のために成長が妨げられてきたが、近年は、国防産業の改革が進められている。特に、軍用技術を国民経済建設に役立てるとともに、民生技術を国防建設に吸収するという双方向の技術交流に重点を置いており、具体的には、国防産業の技術が、宇宙開発や航空機工業、船舶工業の発展に寄与してきたとされている。
また、軍民両用産業分野における国際協力および競争を奨励、支持するとしており、軍民両用の分野を通じて外国の技術を吸収することにも関心を有しているとみられる。


1)「2010年中国の国防」による。なお、11(平成23)年9月に発表された「中国の平和的発展」白書において、中国は「覇権を唱えず平和的発展を歩む」と説明する一方で、「国家主権」「国家安全」「領土保全」「国家統一」「国家の政治制度と社会の安定」「経済社会の持続的発展の基本的保障」を含む「核心的利益」については断固擁護するとしている。
2)中国は、以前は、世界的規模の戦争生起の可能性があるとの情勢認識に基づいて、大規模全面戦争への対処を重視し、広大な国土と膨大な人口を利用して、ゲリラ戦を重視した「人民戦争」戦略を採用してきた。しかし、軍の肥大化、非能率化などの弊害が生じたことに加え、世界的規模の戦争は長期にわたり生起しないとの新たな情勢認識に立って、1980年代前半から領土・領海をめぐる紛争などの局地戦への対処に重点を置くようになった。91(平成3)年の湾岸戦争後は、ハイテク条件下の局地戦に勝利するための軍事作戦能力の向上を図る方針がとられてきたが、最近では情報化条件下の局地戦に勝利する能力の強化が軍事力近代化の核心とされている。
3)中国は03(平成15)年、「中国人民解放軍政治工作条例」を改正し、「輿論戦」、「心理戦」および「法律戦」の展開を政治工作に追加した。「輿論戦」、「心理戦」および「法律戦」について、米国防省「中華人民共和国の軍事および安全保障の進展に関する年次報告」(11(同23)年8月)は次のように説明している。
・「輿論戦」は、中国の軍事行動に対する大衆および国際社会の支持を築くとともに、敵が中国の利益に反するとみられる政策を追求することのないよう、国内および国際世論に影響を及ぼすことを目的とするもの
・「心理戦」は、敵の軍人およびそれを支援する文民に対する抑止・衝撃・士気低下を目的とする心理作戦を通じて、敵が戦闘作戦を遂行する能力を低下させようとするもの
・「法律戦」は、国際法および国内法を利用して、国際的な支持を獲得するとともに、中国の軍事行動に対する予想される反発に対処するもの
4)「2008年中国の国防」による。
5)「2010年中国の国防」による。なお、「2008年中国の国防」では、「21世紀中頃に国防および軍隊の近代化の目標を基本的に達成する」との目標があわせて記述されている。
6)人民解放軍は近年、総参謀部に戦略計画部を新設するなどの組織改編を進めており、これらは軍事戦略の研究やさらなる統合化を企図したものとも指摘されている。
7)「2008年中国の国防」では、2007年度の国防費の支出に限り、人員生活費、活動維持費、装備費のそれぞれについて、現役部隊、予備役部隊、民兵別の内訳が明らかにされた。
8)たとえば、国家主権や海洋権益などをめぐる安全保障上の課題に関して、人民解放軍が態度を表明する場面が近年増加しているとの指摘がある。一方、中国共産党の主要な意思決定機関における人民解放軍の代表者数は過去に比べて減少していることから、党の意思決定プロセスにおける軍の関与は限定的であるとの指摘もある。なお、人民解放軍は「党による軍隊の絶対指導」を繰り返し強調している。
9)中央財政支出における国防予算。なお、全国財政支出における2013年度国防予算は約7,406億元とされており、同予算額を前年度の全国財政支出における国防予算(当初予算)と比べると、約10.5%(約703億元)の伸びとなる。
10)外国の国防費を単純に外国為替相場のレートを適用して他の通貨に換算することは、必ずしもその国の物価水準に照らした価値を正確に反映するものではないが、仮に2013年度の中国の国防予算を1元=13円(平成25年度の支出官レート)で換算すると約9兆3,622億円となる。なお、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI:Stockholm International Peace Research Institute)「2012年版年鑑」は、11(平成23)年の中国の軍事支出を約1,429億米ドルと見積もっており、米国に次ぐ世界第2位としている。
11)中国は、2013年度の国防費の伸び率を「前年度比10.7%(約696億元)の増加」と発表したが、これは2012年度執行額と2013年度当初予算を比較した伸び率である。
12)中国の公表国防費は、中央財政支出における当初予算比で、1989年度からこれまでの間、2010年度を除き、毎年二桁の伸び率を記録している。
13)米国防省「中華人民共和国の軍事および安全保障の進展に関する年次報告」(13(平成25)年5月)は、中国の2012年の軍事関連支出は1,350億ドルから2,150億ドルと見積っている。また、同報告書は、中国の公表国防費は、外国からの兵器調達などの主要な支出区分を含んでいないと指摘している。
14)党・政府機関や国境地域の警備、治安維持のほか、民生協力事業や消防などの任務を負う。「2002年中国の国防」では、「国の安全と社会の安定を維持し、戦時は人民解放軍の防衛作戦に協力する」とされる。
15)平時においては経済建設などに従事するが、有事には戦時後方支援任務を負う。「2002年中国の国防」では、「軍事機関の指揮のもとで、戦時は常備軍との合同作戦、独自作戦、常備軍の作戦に対する後方勤務保障提供および兵員補充などの任務を担い、平時は戦備勤務、災害救助、社会秩序維持などの任務を担当する」とされる。12(平成24)年10月9日付解放軍報によれば2010年時点の基幹民兵数は600万人とされている。
16)中央軍事委員会には、形式上は中国共産党と国家の二つの中央軍事委員会があるが、党と国家の中央軍事委員会の構成メンバーは基本的には同一であり、いずれも実質的には中国共産党が軍事力を掌握するための機関とみなされている。
17)12(平成24)年12月、習総書記は第二砲兵について、「わが国の戦略的抑止の核心的な力であり、わが国の大国としての地位への戦略的な支えであり、国の安全を擁護する重要な礎である」と発言している。
18)「2010年中国の国防」では、「中国は終始、核兵器先制不使用の政策を遂行し、自衛防御の核戦略を堅持し、いかなる国とも核軍備競争を行わない」としている。一方、米国防省「中華人民共和国の軍事および安全保障の進展に関する年次報告」(12(平成24)年5月)は、中国の核兵器先制不使用政策の適用条件については不明瞭な点がある旨指摘している。
19)液体燃料推進方式と固体燃料推進方式の違いについては、2節1脚注6を参照
20)なお、米国防省「中華人民共和国の軍事および安全保障の進展に関する年次報告」(11(平成23)年8月)は、中国は新型の移動型ICBMを開発している可能性があり、おそらくこのICBMは、多弾頭独立目標再突入体(MIRV:Multiple Independently Targeted Re-entry Vehicles)を搭載できると指摘している。
21)11(平成23)年7月、陳炳徳(ちん・へいとく)総参謀長(当時)が対艦弾道ミサイルとされる「DF-21D」について、研究開発段階である旨発言したと伝えられる。一方、米国防省「中華人民共和国の軍事および安全保障の進展に関する年次報告」(13(同25)年5月)は、中国がDF-21を基にした対艦弾道ミサイル「DF-21D」の配備を継続していると指摘している。
22)米中経済安全保障再検討委員会(中国との通商・経済関係が米国の安全保障に及ぼす影響について監視・調査、および報告書の提出を行うことを目的として米議会に設置された超党派諮問機関)の年次報告書(10(平成22)年11月)は、中国は東アジアにおける米空軍の6か所の主要基地のうち5か所を、通常ミサイル(弾道ミサイルおよび陸上発射巡航ミサイル)によって攻撃することが可能であるほか、爆撃機の能力向上によってはグアムの空軍基地をも標的にすることが可能になる、と指摘している。
23)米国防省「中華人民共和国の軍事および安全保障の進展に関する年次報告」(13(平成25)年5月)は、中国が12(同24)年12月までに台湾対岸に1,100基以上のSRBMを配備したと指摘している。このほか、11(同23)年3月には、台湾の蔡得勝(さい・とくしょう)国家安全局長は、中国が新型ミサイル「DF-16」を開発・配備しており、同ミサイルが長射程で威力が大きく主に台湾および米軍介入阻止作戦に対して使用される旨発言したと伝えられる。
24)近年では特に、中国国産で最新鋭のユアン級潜水艦を大幅に増強しているとみられる。同艦は静粛性に優れているほか、必要な酸素をあらかじめ搭載することで、浮上などにより酸素を大気中から取り込むことなく、従来より長期間の潜航が可能となる大気非依存型推進(AIP:Air Independent Propulsion)システムを搭載しているとされる。
25)最近では、満載排水量2万トンを超えるとされる大型揚陸艦「ユージャオ級」を増強しているとみられる。
26)この病院船「岱山島(たいざんとう)」は「平和の方舟」とも呼称されており、10(平成22)年8月から11月にかけて医療サービス任務「調和の使命2010」を行い、インド洋沿岸の5か国を訪問したことに引き続き、11(同23)年9月から12月にかけて医療サービス任務「調和の使命2011」を行い、中南米の4か国を訪問し、医療サービスの提供などを行ったとされている。
27)米国防省「中華人民共和国の軍事および安全保障の進展に関する年次報告」(13(平成25)年5月)は、空母「遼寧」について、固定翼機の訓練などのために使用されるとの見方を示しつつ、「効果的な運用が可能となるまでには3〜4年は必要」とも指摘している。
28)12(平成24)年11月には開発中とみられる艦載機「J-15」による空母「遼寧」への発着艦試験が初めて実施され、13(同25)年5月には、中国初の艦載機部隊が正式に創設された旨、報じられた。
29)米国防省「中華人民共和国の軍事および安全保障の進展に関する年次報告」(12(平成24)年5月)は、「中国初の国産空母を構成するいくつかの部分は既に建造が始まっているかもしれない。それは2015年以降に運用する能力を有しうる。中国は今後10年で複数の空母と支援艦艇を建造するだろう」と指摘している。
30)ゲイツ米国防長官(当時)は、11(平成23)年2月の上院軍事委員会での証言において、中国はステルス性能を備えた次世代戦闘機を2020年までに50機、2025年までに200機程度配備する可能性がある、との見方を示している。11(同23)年1月には、J-20の試作機が初の飛行試験に成功したと報じられ、その後も試験を継続していると伝えられている。
31)12(平成24)年10月、J-20とは別に中国が開発中と指摘される新たな次世代戦闘機が初飛行したと報じられた。
32)中国国防部は、13(平成25)年1月26日、中国が自主開発したY-20大型輸送機が初試験飛行に成功し、今後計画に基づいて関連する各種試験や試験飛行を継続すると発表している。
33)たとえば、09(平成21)年10月の中国建国60周年記念行事における軍事パレードにおいて、無人機が確認されている。
34)「2008年中国の国防」は、中国空軍が「国土防空型から攻防兼備型への転換を加速し、偵察・早期警戒、航空攻撃、防空・ミサイル対処および戦略投射能力を高め、近代化された戦略空軍を建設することに力を入れている」と説明している。また、米国防省「中華人民共和国の軍事および安全保障の進展に関する年次報告」(10(平成22)年8月)は、中国空軍は引き続き、限定的な領土防衛から、米国およびロシアの空軍をモデルとして、沖合で攻撃および防御の両方の役割で作戦を行うことが可能な、より柔軟性のある有能な戦力への転換を継続している、と指摘している。なお、中国やロシアなどが参加した合同軍事演習「平和の使命2010」(10(同22)年10月)では、中国のH-6爆撃機2機およびJ-10戦闘機2機の戦闘群が、早期警戒機および空中給油機に支援され、片道1,000kmの経路を無着陸で往復し対地攻撃訓練を行ったと伝えられている。
35)最近では11(平成23)年9月に宇宙実験室「天宮1号」を打ち上げ、同年11月には無人宇宙船「神舟8号」とのドッキングを、12(同24)年6月には有人宇宙船「神舟9号」とのドッキングをそれぞれ成功させるなど、宇宙ステーション建設なども視野に入れた計画を推進している。また、12(同24)年12月には、衛星航法システム「北斗」がアジア太平洋の大部分の地域を対象にしたサービスを正式に開始し、既に海軍艦艇、「海監」船、「漁政」船、漁船などへの「北斗」システムの搭載が開始されていると報じられている。「北斗」は測位だけでなく双方向のショートメッセージ機能を有しており、同機能を利用することで、中国艦船が確認した他国艦船の位置情報などをリアルタイムで一元的に把握・共有することが可能になるなど、海洋などにおける情報収集能力が向上するとの指摘もある。また、国防科技工業局は、13(同25)年下半期に月探査衛星「嫦娥3号」による月面着陸を実施予定としている。
36)有人宇宙飛行プロジェクトの総指揮は、人民解放軍総装備部長がとっているとされる。
37)たとえば、許其亮(きょ・きりょう)空軍司令員(当時)が、「中国空軍は、「航空・宇宙一体、攻防兼備」の空軍戦略を確立した」と発言したと伝えられている。
38)中国のサイバー戦に関する能力については、2章1節2を参照
39)中国の海軍艦艇による活動としては、たとえば、04(平成16)年11月には、中国の原子力潜水艦が、国際法違反となるわが国の領海内での潜没航行を行っている。また、05(同17)年9月には、東シナ海の樫(中国名「天外天」)ガス田付近を中国のソブレメンヌイ級駆逐艦1隻を含む5隻の艦艇が航行し、その一部が同ガス田の採掘施設を周回したことが確認されている。さらに、06(同18)年10月には、沖縄近海と伝えられる海域において、中国のソン級潜水艦が米空母キティホークの近傍に浮上したが、米空母に外国の潜水艦が接近したことは軍事的に注目すべき事象と考えられる。
40)中国国務院(わが国の内閣に相当)の隷下の公安部「海警」、国土資源部国家海洋局「海監」、農業部漁業局「漁政」、交通運輸部海事局「海巡」、海関総署海上密輸取締警察などが海上における監視活動などを行ってきたが、13(平成25)年3月、「海巡」を除くこれら4つの機関などを統合し、新たな国家海洋局として再編した上で、同局が公安部の指導の下、中国海警局の名称により監視活動などを実施する方針などが決定された。また、辺海防委員会が、国務院および中央軍事委員会の指導の下、これら海上法執行機関および海軍による海洋における活動などについての調整を行っているとされる。なお、10(同22)年10月には、中国は自国の海洋権益維持の法執行能力を向上するため、今後5年以内に30隻の「海監」船を建造する計画を制定した旨伝えられている。
41)人民解放軍については、平時と戦時の兵力配備を同一化し、従来の活動領域を超えた領域での活動を行うなどして、例外的行為を慣例化・常態化させることにより、相手方の警戒意識の麻痺や国際社会に状況の変化を黙認・受容させることなどを企図している、との見方(2009年版台湾「国防報告書」)がある。
42)11(平成23)年3月7日、中国国家海洋局所属とみられるヘリコプター「Z-9」が、東シナ海中部海域において警戒監視中の護衛艦「さみだれ」に対して、水平約70m、高度約40mの距離に接近し周回したほか、同月26日には、護衛艦「いそゆき」に対して、水平約90m、高度約60mの距離に接近し周回するという事案が発生した。また、4月1日には、「いそゆき」に対し、同局所属とみられる航空機「Y-12」が、水平約90m、高度約60mの距離に接近し周回した。12(同24)年4月12日には、護衛艦「あさゆき」に対し、同局所属とみられる航空機「Y-12」が水平約50m、高度約50mの距離に接近し周回した。
43)12(平成24)年2月には、わが国の排他的経済水域において海洋調査を行っていた海上保安庁測量船に対して、中国国家海洋局所属の「海監」船2隻が中止要求を行う事案が発生している。同様の事案は、10(同22)年5月および9月にも発生している。
44)たとえば、「2010年中国の国防」では、「国家の海洋権益の擁護」が中国の国防政策の目標・任務の主な内容のひとつとして位置づけられているほか、軍は、国家海洋局などの海上法執行機関と責任を分担して、国境警備・海上防衛などの任務を行っている旨記述されている。
45)米国防省「中華人民共和国の軍事および安全保障の進展に関する年次報告」(13(平成25)年5月)は、中国がアクセス阻止/エリア拒否(A2/AD)の任務を可能にする各種兵器への投資を継続している旨指摘している。A2/ADの定義については、1章1節脚注8を参照
46)東シナ海資源開発国際約束締結交渉は、10(平成22)年9月に中国側が延期を一方的に発表した。交渉が再開されない中、中国が白樺油ガス田の開発を行っている可能性が指摘されているほか、樫ガス田でも生産が行われている可能性が指摘されている。一方、南シナ海においては、中国国家海洋局が、12(同24)年5月に石油掘削装置「海洋石油981」が初の掘削に成功したと発表している。
47)中国は、海南島南端の三亜市に、原子力潜水艦用の地下トンネルを有する大規模な海軍基地を建設していると伝えられている。中国にとって同基地は、南シナ海のほか、西太平洋へ進出する上での戦略的要衝に位置しており、空母の配備を含め、南海艦隊の主要な基地として整備が進められているとの指摘もある。
48)中国は近年、国連海洋法条約などの独自の解釈を利用しつつ、自国の排他的経済水域における他国の軍事活動の制限を企図した主張を展開しているとの指摘がある。たとえば、中国政府は、「中国の排他的経済水域においては、許可を得ていない如何なる国の、如何なる軍事活動にも反対である」と表明している(10(平成22)年11月26日、外交部声明)。
49)米国防省「中華人民共和国の軍事および安全保障の進展に関する年次報告」(11(平成23)年8月)は、中国の国防産業について、造船産業および電子機器分野において特に進展がみられるほか、ミサイルや宇宙システム分野においても技術力を高めているが、対照的に、誘導・制御システムやエンジン、最新のアプリケーション・ソフトウェアといった分野における進展は遅く、これらの技術については依然として海外に大きく依存している旨指摘している。
 
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