刊行によせて

平成24年版防衛白書の刊行に寄せて


防衛大臣 森本 敏

わが国と周辺諸国の関係は、経済や文化の結びつきが深まる一方、わが国周辺の安全保障環境は一層厳しさを増しています。
北朝鮮では、金正恩氏を中心とする新体制が短期間で整えられるとともに、本年4月には「人工衛星」と称するミサイルの発射が強行されました。また、中国は、国防費を継続的に増加し軍事力を広範かつ急速に近代化させるとともに、わが国の近海などにおいて活動を拡大・活発化させています。さらに、ロシアも極東地域において艦艇や航空機などの活動を活発化させています。
また、国際社会全体を概観すると、頻発する地域紛争やテロリズムなどの非対称脅威は人々に大きな恐怖を与え、さらに、核・生物・化学兵器などの大量破壊兵器やそれらを運搬するための弾道ミサイルの移転・拡散が問題となっています。

このような安全保障環境のもとで、わが国の防衛と安全保障政策を進めるに当たり、特に重視していくことは、次のとおりであります。

まず、防衛力整備については、「防衛計画の大綱」および「中期防衛力整備計画」に基づき、厳しい財政状況の中にあっても着実に進展させ、動的防衛力の構築を進めるとともに、わが国の繁栄に不可欠な海洋の安全確保など、あらゆる面でわが国の防衛を確固としたものにしてまいります。
次に、日米同盟は、わが国の安全保障政策の重要な柱の1つです。わが国周辺の安全保障環境が変化していく中で、米国もまた、アジア太平洋地域を重視する政策を打ち出すなど、国防戦略を変化させています。このような大きな流れの中で、わが国は、米国と緊密に協力し、日米同盟を深化・拡大することにより、日米両国のみならず、地域の平和と安定のための役割を果たしてまいります。

また、普天間飛行場の移設問題をはじめとする米軍再編についても、米国の抑止力を維持しつつ、沖縄をはじめとする地元の負担を速やかに軽減していくことが重要です。本年4月の「2+2」共同発表で米軍再編の計画の調整を決定し、また、共同訓練、共同の警戒監視活動、施設の共同使用などの日米共同の活動を活発化させる動的防衛協力を打ち出すなど、地域における新たな戦略環境に対応していくための取組は緒に就いています。これまでの成果をさらに実りあるものとするよう努めながら、戦略的観点から日米防衛協力のあるべき姿を模索し、これを実現していきます。

また、国際社会の平和と安定への協力において、防衛省・自衛隊は大きな役割を果たしてまいります。アジア太平洋地域の重要なパートナーであるオーストラリアや韓国との協力をはじめとする二国間の防衛協力・防衛交流を促進するとともに、隣国である中国やロシアとの相互理解・信頼関係の増進にも努め、関係諸国との連携を強化してまいります。また、東京ディフェンスフォーラムなどの多国間会議を主催するとともに、海外における安全保障会議への参加を通じて、多国間の協力関係を構築してまいります。

現在、防衛省・自衛隊は、ゴラン高原、ハイチ、東ティモールおよび南スーダンの各PKOに要員を派遣し、ソマリア沖・アデン湾においては海賊対処活動を行っています。海外におけるこうした自衛隊の活動については、今後とも隊員の安全確保を図りつつ、万全の態勢で取り組んでまいります。

さらに、危機管理態勢については、大震災、北朝鮮のミサイル発射など、内外の様々な危機に対し、国家の安全と国民の安心を確保するため、情報機能を強化するとともに、迅速・的確に対応できる体制の整備などに努めてまいります。
近年、防衛省・自衛隊に対する期待と支持は高まっています。平成23年度の内閣府世論調査では、自衛隊に対して良い印象を持っていると回答した方の割合が91.7パーセントと過去最高の値を示しています。
国の防衛は、国民のみなさまの信頼と支持をいただくことが必要です。この防衛白書が、一人でも多くの国民のみなさまに読まれ、わが国の防衛に対する理解をより一層深めていただくための一助となれば、誠に幸いに存じます。

 
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