第III部 わが国の防衛に関する諸施策
3 わが国の取組
1 海賊対処行動のための法整備

09(平成21)年3月、ソマリア沖・アデン湾においてわが国関係船舶を海賊行為から防護するために、自衛隊法第82条の規定により、閣議決定に基づく内閣総理大臣の承認を経て、防衛大臣が海上における警備行動(海上警備行動)を発令し、必要な行動をとることとした。
この命令を受け、護衛艦2隻(「さざなみ」および「さみだれ」)がわが国を出発し、同月からわが国関係船舶の護衛を行った。また、広大な海域における海賊対処をより効果的に行うため、同年5月、固定翼哨戒機P―3Cを派遣する命令も発出し、同年6月よりアデン湾において警戒監視などを開始した。
その後、国連海洋法条約に則し、わが国が、関係者や関係船舶の国籍・船籍を問わず海賊行為を処罰し、抑止し、取り締まることにより、海賊行為に適切かつ効果的に対応するため、「海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律」(海賊対処法)が、09(同21)年7月から施行された。これに基づき、防衛大臣は、内閣総理大臣の承認を得た上で、1年間海賊対処行動を実施することとした。
当初発令した海上警備行動では、日本に関係する船舶のみ防護可能であったが、本法律では、船籍を問わず、すべての国の船舶を海賊行為1から防護することが可能となり、また、民間船舶に接近するなどの海賊行為を行っている船舶の進行を停止するために他の手段がない場合、合理的に必要な限度において武器の使用が可能となった。
(図表III―3―3―2参照)

図表III―3―3―2 海上警備行動と海賊対処行動の比較

参照 資料222354

2 自衛隊の活動

(1)活動実績
現在派遣されている2隻の護衛艦は、アデン湾を往復しながら民間船舶を護衛している。護衛方法としては、まずアデン湾の東西に一か所ずつ定められた集合地点において、護衛の対象となる民間船舶の受け入れ作業を行う。その際、性能などが異なる民間船舶を海賊から効果的に防護するため、最適な陣形となるよう調整する。アデン湾を護衛船団が航行する際には、船団の前後を護衛艦が守り、護衛艦に搭載された哨戒ヘリコプターも、上空から船団の周囲を監視している。このように昼夜を問わず船団の安全確保に万全を期しつつ、アデン湾を約2日ほどかけて通過していく。また、護衛艦には8名の海上保安官が同乗2し、必要に応じて、司法警察活動ができるよう、自衛隊は海上保安庁と協力して活動している。12(同24)年5月31日現在で、2,672隻が、護衛艦に守られて、1隻も海賊の被害をこうむることなく、安全にアデン湾を通過している。わが国の経済のみならず、世界経済にとっての大動脈たる本海域において、自衛隊の行う護衛活動が生み出した安心感は、大きなものである。
なお、風浪(ふうろう)が小さく海賊の活動海域が拡大する非モンスーン期(3月〜5月、9月〜11月)においては、護衛航路を東方へ約200km延長して護衛活動を行っている。
(図表III―3―3―3参照)

図表III―3―3―3 自衛隊による海賊対処のための活動
第12次派遣海賊対処行動水上部隊を見送る田中防衛大臣(当時)
第12次派遣海賊対処行動水上部隊を見送る田中防衛大臣(当時)
300回護衛達成(アデン湾11(平成23)年11月13日)
300回護衛達成
(アデン湾11(平成23)年11月13日)
護衛艦に先導される船団(船団前方上空から撮影)
護衛艦に先導される船団
(船団前方上空から撮影)

ジブチ共和国に活動拠点を置く哨戒機(P―3C)も、日本の面積に匹敵するほど広大なアデン湾を、航続力を発揮して警戒監視を行っている。ジブチを飛び立ったP―3Cは、アデン湾を航行する無数の船舶の中に、不審な船舶がいないかどうか確認作業を行っている。同時に、護衛活動に従事する護衛艦や他国の艦艇、そして周囲を航行する民間船舶に対し情報提供を行い、また、求めがあればただちに周囲が安全かどうか確認するなど、きめ細やかな対応をとっている。2機のP―3Cを派遣している自衛隊は、同様に哨戒機を派遣している各国と協調しつつ、ほぼ連日にわたり警戒監視活動を行っている。
自衛隊のP―3Cが収集した情報は、常時、海賊対処に従事する米国などの各国派遣部隊や関係機関と共有され、海賊行為の抑止や、海賊船と疑われる船舶の武装解除といった成果に大きく寄与している。この海域において海賊対処活動を効果的に行うためには、各国海軍との連携が重要であることから、派遣部隊は機会を捉えて意見交換、情報交換などを行い交流を促進している。
09(同21)年6月に任務飛行を開始して以来、12(同24)年5月31日現在で飛行回数は689回を数え、のべ飛行時間は5,330時間に及んでいる。識別作業を実施した船舶は約5万3,000隻であり、周囲を航行する船舶や、海賊対処に取り組む諸外国に情報の提供を行った回数は約6,200回となっている。
また、本海賊対処行動にあたっては、陸上自衛官が活動拠点におけるP―3Cやその他の装備品の警護を行っているほか、航空隊の司令部要員などとしても活動しており、自衛隊として初めての統合部隊として編成されている。このほか、空自も、本活動を支援するため、輸送機(C―130)や多用途支援機(U―4)からなる空輸隊を編成している。
(図表III―3―3―4参照)

図表III―3―3―4 派遣部隊の編成
第9次派遣海賊対処行動航空隊を迎える下条防衛大臣政務官
第9次派遣海賊対処行動航空隊を迎える下条防衛大臣政務官
ジブチ自衛隊活動拠点を訪問する米海軍第5艦隊司令官(中央)
ジブチ自衛隊活動拠点を訪問する米海軍第5艦隊司令官(中央)

(2)海賊対処行動を継続する必要性について
ソマリア沖・アデン湾では、12(同24)年も昨年同様、乗っ取りなどの海賊行為が発生しており、日本関係船舶に対する海賊襲撃事案も発生していることから、引き続き予断を許さない状況にある。また、日本船主協会などからも引き続き海賊対処に万全を期して欲しい旨、継続的に要請を受けているほか、国際的にも、NATOやEUが活動を継続する決定を行っており、わが国が海賊対処を行っていかなければならない状況に大きな変化はない。

(3)ジブチ自衛隊活動拠点の運用
防衛省・自衛隊は、派遣海賊対処行動航空隊を効率的かつ効果的に運用するため、ジブチ国際空港北西地区に活動拠点を整備し、11(同23)年6月から活動拠点を運用している。この活動拠点は、司令部などのための事務所、隊員が居住する宿舎、整備格納庫および駐機場(収容機数3機)などから構成されており、航空隊のほか、水上部隊の隊員なども利用している。
ジブチ自衛隊活動拠点の安定的運用のため、派遣された部隊はジブチ政府機関や在ジブチ米軍などと定期的に情報交換を行うなど、連携を保持するとともに、ボランティア活動などを通じてジブチ国民との交流を深めている。

ジブチ干ばつにともない、日本船主協会から提供された支援物 資をDouda小学校(ジブチ)の子供たちへ手渡しする派遣海賊対処 行動航空隊司令(左)
ジブチ干ばつにともない、日本船主協会から提供された支援物資をDouda小学校(ジブチ)の子供たちへ手渡しする派遣海賊対処行動航空隊司令(左)
ジブチ自衛隊活動拠点を視察する渡辺防衛副大臣(中央)
ジブチ自衛隊活動拠点を視察する渡辺防衛副大臣(中央)

1)海賊対処法に定める海賊行為とは、船舶(軍艦及び各国政府が所有し又は運航する船舶を除く。)に乗り組み又は乗船した者が、私的目的で、公海(国連海洋法条約に規定する排他的経済水域を含む。)又は我が国の領海若しくは内水において行う<1>暴行若しくは脅迫を用い、又はその他の方法により人を抵抗不能の状態に陥れて、航行中の他の船舶を強取し、又はほしいままにその運航を支配する行為、<2>暴行若しくは脅迫を用い、又はその他の方法により人を抵抗不能の状態に陥れて、航行中の他の船舶内にある財物を強取し、又は財産上不法の利益を得、若しくは他人にこれを得させる行為、<3>第三者に対して財物の交付その他義務のない行為をすること又は権利を行わないことを要求するための人質にする目的で、航行中の他の船舶内にある者を略取する行為、<4>強取され若しくはほしいままにその運航が支配された航行中の他の船舶内にある者又は航行中の他の船舶内において略取された者を人質にして、第三者に対し、財物の交付その他義務のない行為をすること又は権利を行わないことを要求する行為、<5><1>〜<4>のいずれかに係る海賊行為をする目的で、航行中の他の船舶に侵入し、又はこれを損壊する行為、<6><1>〜<4>のいずれかに係る海賊行為をする目的で、船舶を航行させて、航行中の他の船舶に著しく接近し、若しくはつきまとい、又はその進行を妨げる行為、<7><1>〜<4>のいずれかに係る海賊行為をする目的で、凶器を準備して船舶を航行させる行為、のいずれかの行為をいう。
2)必要に応じて海賊の逮捕、取調べなどの司法警察活動を行う。
 
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