第II部 わが国の防衛政策の基本と動的防衛力
第1章 わが国の防衛の基本的考え方
第1節 わが国の安全保障を確保する方策

平和と安全は、国民が安心して生活し、国が発展と繁栄を続けていく上で不可欠である。また、一国の独立は、国が政治、経済、社会のあり方を自ら決定し、その文化、伝統や価値観を保つため、守らねばならないものである。平和、安全および独立は、願望するだけでは確保できない。ますます相互依存関係を深めている国際社会の現状を踏まえ、自らの防衛力とともに、外交努力、同盟国や国際社会との協力などの様々な施策を総合的に講じることで、初めて確保できるものである。
特に、資源や食糧の海外依存度が高く、自由貿易に発展と繁栄の基盤を置くわが国にとっては、国際社会の平和と協調の維持がきわめて重要である。このため、わが国は、日米同盟1をはじめとする二国間の協力関係を強化しつつ、アジア太平洋地域での地域的協力や国連への協力などを積極的に進め、紛争・対立の防止や解決、経済の発展、軍備管理・軍縮の促進、海洋の安全確保、相互理解と信頼関係の増進などを図っている。また、わが国は、国内においても、国民生活を安定させ、国を守るという国民の気概の充実を図り、侵略を招くような隙(すき)を生じさせないよう、経済や教育などの分野において様々な施策を講じ、安全保障基盤の確立を図っている。
一方、国際社会の現実を見れば、非軍事的手段による努力だけでは、必ずしも外部からの侵略を未然に防止できず、また万一侵略を受けた場合にこれを排除することもできない。防衛力は、侵略を排除する国家の意思と能力を表す安全保障の最終的担保であり、その機能はほかのいかなる手段によっても代替できない。このため、I部でも概観したような多様で複雑かつ重層的な安全保障課題や不安定要因に起因する様々な事態に的確に対応する防衛力は必要不可欠である。また、わが国を取り巻く安全保障環境を改善してわが国に対する脅威の発生を予防するという観点から、アジア太平洋地域における協力、国際社会の一員としての協力などの分野で防衛力が果たす役割の重要性は増している。以上のような要素を踏まえ、わが国は、適切な防衛力の整備を進めることとしている。こうした自らの適切な防衛力が、日米安全保障体制(日米安保体制)とあいまって、隙のない防衛態勢を構築することで、わが国の安全が確保されている。
わが国は、安全保障における防衛力の重要な役割を認識した上で、様々な分野における努力を尽くすことにより、わが国の安全を確保するとともに、アジア太平洋地域、ひいては世界の平和と安全を目指している。


1) 一般的には、日米安保体制を基盤として、日米両国がその基本的価値および利益をともにする国として、安全保障面をはじめ、政治および経済の各分野で緊密に協調・協力していくような関係を意味する。
 
前の項目に戻る     次の項目に進む