第III部 わが国の防衛に関する諸施策 

4 在日米軍の駐留に関する枠組
在日米軍の駐留は日米安保体制の中核的な要素であり、わが国とアジア太平洋地域に対し深く関与するという米国の意思表示でもある。在日米軍は、さまざまな形でわが国とアジア太平洋地域の平和と安定に大きく貢献しており、特に、その存在自体が目に見える形での抑止機能を果たしていると考えられる。わが国としては、在日米軍の駐留を円滑にするため、日米安保体制の信頼性の向上を図っている。

1 日米地位協定に基づくわが国の措置など
在日米軍施設・区域および在日米軍の地位にかかわることは日米地位協定1(地位協定)により規定されており、この中には、在日米軍の使用に供するための施設・区域(在日米軍施設・区域)の提供に関すること、在日米軍が必要とする労務の需要の充足に関することなどの定めがある。

(1)在日米軍施設・区域の提供
在日米軍施設・区域について、わが国は、地位協定の定めるところにより、日米合同委員会を通じた日米両国政府間の合意に従い提供している。
わが国は、在日米軍施設・区域の安定的な使用を確保するため、民有地や公有地については、所有者との合意のもと、賃貸借契約などを結んでいる。しかし、このような合意が得られない場合には、駐留軍用地特措法2に基づき、土地の所有者に対する損失の補償を行った上で、使用権原(けんげん)3を取得することとしている。

(2)米軍が必要とする労務の需要の充足
在日米軍は、同軍を維持するために労働力(労務)を必要としており、この労務に対する在日米軍の需要は、地位協定により、わが国の援助を得て充足されることになっている。
全国の在日米軍施設・区域においては、平成22年度末現在、約2万6千人の駐留軍等労働者(従業員)が、司令部の事務職、整備・補給施設の技術者、基地警備部隊および消防組織の要員、福利厚生施設の職員などとして勤務しており、在日米軍の円滑な運用に欠くことのできない存在として、その活動を支えている。
こうした従業員は、地位協定の規定を受けて、わが国が雇用している。防衛省は、その人事管理、給与支払、衛生管理、福利厚生などに関する業務を行うことにより、在日米軍の駐留を支援している。

2 在日米軍駐留経費
日米安保体制の円滑かつ効果的な運用を確保する上で、在日米軍駐留経費負担は重要な役割を果たしている。
1970年代半ばからのわが国における物価・賃金の高騰や国際経済情勢の変動などにより、在日米軍の駐留に関して米国が負担する経費は相当圧迫を受け、窮屈(きゅうくつ)なものとなった。かかる状況を勘案し、地位協定の枠内でできる限りの努力を行うとの観点から、昭和53年度に福利費(従業員の福利厚生などのための経費)などの労務費の負担を開始した。また、昭和54年度からは、急激な円高ドル安という事情などを踏まえ、提供施設整備費の負担を開始した。
さらに、日米両国を取り巻く経済情勢の変化により、労務費が急激に増加し、従業員の雇用の安定が損なわれ、ひいては在日米軍の活動にも影響が生じるおそれが生じた。このため、87(昭和62)年、日米両国政府は、地位協定の経費負担原則の特例的な暫定措置として、地位協定第24条についての特別な措置を定める協定(特別協定)4を締結した。これに基づき、わが国は調整手当(現地域手当)など8項目の労務費を負担するようになり、その後の特別協定により、平成3年度からは、基本給などの労務費と光熱水料等を、さらに平成8年度からは、それらに加え訓練移転費をわが国が負担するようになった。
なお、こうした在日米軍駐留経費負担については、わが国の厳しい財政事情にも十分配慮しつつ見直しを行ってきており、平成11年度予算(歳出ベース)をピークに減少に転じている。
08(平成20)年に発効した特別協定においては、労務費と訓練移転費は、前協定の枠組を維持する一方、光熱水料等は一定の削減を図るとともに、在日米軍駐留経費負担について米側が一層の節約努力を行うこととされた。また、本協定の締結に際し、両政府が、より効率的で効果的な在日米軍駐留経費負担とするために、包括的な見直しを行うことでも一致した。
10(同22)年に行った包括的な見直しにおいて日米両政府は、日本側負担の内容について次のような見直しを行った上で、在日米軍駐留経費負担全体の水準については、新たな特別協定の有効期間中(平成23年度〜平成27年度の5年間)、現在の水準(平成22年度予算額(1,881億円)が目安)を維持する5こととした。

ア 労務費
日本側が負担する上限労働者数については、新たな特別協定の期間中に23,055人から22,625人に段階的に削減する6

イ 光熱水料等
日本側が負担する光熱水料等については、249億円を各年度の負担の上限としつつ、新たに日米間の負担の割合を定め、かつ、新たな特別協定の期間中に、日本側の負担割合を現在の約76%から72%に段階的に削減する。

ウ 提供施設整備
提供施設整備費の水準については、新たな特別協定の有効期間において、現在の水準(平成22年度予算額(206億円)が目安)以上とする。上記労務費および光熱水料等の減額分が、現状の提供施設整備費への増額分として充当される。また、10(同22)年5月の「2+2」共同発表にある「緑の同盟」に関する日米間協力の一環として、よりエネルギー効率が高く環境に優しい設計を導入するなど、環境に配慮した施設の整備に努めるほか、提供施設整備の事案採択に際して安定性および透明性を確保するための措置をとる。

3 新たな特別協定
日米両政府は、08(同20)年に発効した特別協定が11(同23)年3月末に失効することから、上記包括的な見直しを踏まえて、新たな特別協定の案につき協議を行った結果、合意に達し、同年1月、新たな特別協定への署名を行い、国会の承認を経て、同年4月、新たな特別協定が発効した。
○協定のポイント
(1)対象期間:5年間。
(2)経費負担:日本側が労務費、光熱水料等及び訓練移転費の全部又は一部を負担。なお、訓練移転費につき、国内への移転に伴い追加的に必要となる経費に加え、グアム等米国の施政下の領域への訓練移転に係るものも負担対象に追加。
 ・運用方針(往復書簡)
   労務費:日本側が負担する上限労働者数を、協定の期間中に、現在の23,055人から22,625人に段階的に削減。
   光熱水料等:249億円を各年度の負担の上限としつつ、協定の期間中に、日本側の負担割合を現在の約76%から72%に段階的に削減。
(3)節約努力:これらの経費につき、米側による一層の節約努力を明記。
(図表III-2-1-7参照)
 
図表III-2-1-7 在日米軍駐留経費負担の概要

4 在日米軍関係経費
上記の在日米軍駐留負担経費に加え、沖縄県民の負担を軽減するためにSACO最終報告(3節1参照)の内容を実施するための経費、米軍再編事業のうち地元の負担軽減などに資する措置に係る経費などを含めた在日米軍関係経費については図表III-2-1-8のとおりである。
 
図表III-2-1-8 在日米軍関係経費(平成23年度予算)


 
1)正式名称: 日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定。

 
2)正式名称: 日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う土地等の使用等に関する特別措置法。

 
3)「権原」とは、ある行為を正当化する法律上の原因をいう。

 
4)正式名称:日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定第二十四条についての新たな特別の措置に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定。

 
5)人事院勧告に基づく賃金の変更は、労務費に適切に反映される。

 
6)「2+2」共同発表(11(平成23)年6月21日)「労務費を削減しつつも、駐留軍等労働者の安定的な雇用を維持するために引き続き最大限努力することで一致した。」


 

前の項目に戻る     次の項目に進む