第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

3 フランス

 フランスは08(同20)年6月に発表した「国防白書」において、大規模テロやミサイルといった直接の脅威に加え、サイバー攻撃から環境危機に及ぶリスクをあげ、両者はグローバリゼーションにより相互に連結するようになり、国内外の安全の連続性が戦略的重要性を帯びるようになったとした。
 フランスと欧州の安定に影響を与える地域としては、大西洋からインド洋に至る地域、サハラ砂漠以南のアフリカ地域、欧州大陸では特にロシアとの関係構築およびバルカン地域の安定化、さらには重要性を増しつつあるアジアをあげている。国家安全保障戦略の五本柱として、不確実・不安定な現在においては情勢の的確な認識・予測を基礎に、予防、核抑止8、防護、海外介入をあげ、これらの機能を強化し、柔軟に組み合わせながら今後15年間の戦略環境の変化に対応していくとした。
 09(同21)年7月には「2009年−2014年軍事計画法」が議会承認された。同計画は「国防白書」で示された国防・国家安全保障戦略を踏まえた初の防衛力整備に関する中期計画として、国防・国家安全保障会議及び国家情報会議の創設、装備関係予算の増大、5万4,000人の人員削減などを内容としている。
 対外関係に関してはEUの安全保障面での強化と対北米関係の刷新をかかげ、軍事機構脱退以降の情勢変化、とりわけEUとNATOが補完関係にあることを踏まえ、09(同21)年4月、NATOの統合軍事機構へ復帰した9
 軍事力の整備については、人員の削減や基地の整理統合を進めつつ防護能力の強化などの運用所要に応えるとともに、情報機能の強化と将来に備えた装備の近代化を進めるとしている。


 
8)08(平成20)年3月の弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN:Ballistic Missile Submarine Nuclear-Powered)「ル・テリブル」の進水式で、サルコジ大統領は、核戦力について、核拡散などのリスクが存在する中で死活的利益を侵す国家からの攻撃に対してフランスを究極的に守るものであり、潜水艦発射型と航空機発射型の双方を維持することが不可欠であるとの見解を示した。同時に、航空機発射型核戦力の3分の1を削減することを決定したと発表し、これによりフランスの保有する核弾頭数は300以下となるとした。また、10(同22)年1月27日、新型SLBM(M-51)の潜水艦からの初めての飛翔試験に成功した。

 
9)09(平成21)年3月17日、フランス下院はNATO統合軍事機構への復帰を表明するという政府の外交政策を投票による採決で信任し、フランス政府は、同年4月のNATO首脳会議においてNATOの統合軍事機構に参加することを表明する一方で、サルコジ大統領は同年3月に行った演説の中で、独立した核抑止力を保持していくと表明した。


 

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