2 安全保障・国防政策
インドは、国家安全保障政策として、国益を守るための軍事力および最小限の核抑止力の保持、テロおよび低強度紛争から通常戦争および核戦争までの多様な脅威への対処、テロや大量破壊兵器などの新たな脅威に対処するための国際協力の強化などをあげている
2。
実際に、インドは、PKOなど世界平和を支援するための活動に積極的に参加している。なお、PKOについては、10(同22)年5月現在、9の活動に約9,000名を派遣しており
3、08(同20)10月からは、ソマリア沖に艦艇を派遣し、海賊に対する警戒活動を行っている
4。
核政策については、最低限の信頼性ある核抑止力と核の先制不使用政策を維持し、98(同10)年の核実験の直後に表明した核実験モラトリアム(一時休止)についても継続するとしている。また、03(同15)年1月に公表された核戦略において、核兵器、ミサイル関連部品、技術輸出管理の継続と兵器用核分裂性物質生産禁止条約の協議への参加や核兵器のない世界を目指すコミットメントの継続への言及がある一方で、生物・化学兵器による攻撃を受けた際には、核による報復の選択肢を保持する旨定められた。
インド軍は、陸上戦力として13個軍団約110万人、海上戦力として2個艦隊約150隻約35万トン、航空戦力として19個戦闘航空団などを含む作戦機約670機を有している。
インドは、装備の約7割を占める旧ソ連・ロシア製兵器の老朽化が進む中、海外からの装備調達や共同開発を推進している。インドは、現在、空母1隻を保有しているが、新たに国産空母1隻の建造を進めるとともに、ロシアから、空母1隻を改修後に導入することとしている。09(同21)年7月には、インド初の国産原子力潜水艦が進水した。さらに、10(同22)年中に、ロシアからアクラ級原子力潜水艦1隻がインドに貸与されると伝えられている。ほかにも、MiG-21戦闘機の退役にともない、多目的戦闘機の調達を企図しており、07(同19)年2月、アントニー印国防相は、多目的戦闘機126機を入札方式で調達する考えを表明している
5。
インドは、近年、核弾頭を搭載可能とされる弾道ミサイルの戦力化も進めている。インドは、03(同15)年9月、中距離弾道ミサイル「アグニ2」
6を陸軍に実戦配備することを公表した。10(同22)年2月には、中距離弾道ミサイル「アグニ3」の4回目の発射試験に成功しており、長距離弾道ミサイル「アグニ5」の開発に着手していると伝えられている
7。
インドは、自国への脅威に対する防衛的対抗手段として弾道ミサイル防衛の実用化に励んでおり、06(同18)年11月および07(同19)年12月に引き続き、09(同21)年3月にも、弾道ミサイル迎撃実験を行い、成功したと発表した
8。また、米国との間で、弾道ミサイル防衛に関する協議を開始している
9。
(図表I-2-6-1 参照)
2)09(平成21)年8月に公表された「国防年次報告」は、近隣諸国との関係において、インドは、安全保障上の脅威は国境の制約を受けないとの認識の下、テロリズムの脅威、武器、麻薬及び核技術の拡散は、絶え間ない注意を必要とする危険性をもたらしていると指摘している。
3)インドによるPKOへの人員派遣数は、01(平成13)年以降、世界第3位または4位を維持している。
4)08(平成20)年10月、インド政府は、洋上哨戒のため、アデン湾への海軍艦艇派遣を承認、同年11月には、インド海軍のフリゲート艦が海賊に乗っ取られた漁船を撃沈している。
5)アントニー国防相は、多目的戦闘機の調達について、共同開発などを通じた技術の導入を契約の条件にあげている。
6)インドは、09(平成21)年11月にも「アグニ2」の発射試験を実施したが、試験は失敗に終わったと報じられている。
7)07(平成19)年12月、インド国防省の国防研究開発機構(DRDO:Defense Research and Development Organization)ミサイル管理責任者のサラスワット氏は、「アグニ4」は未だ構想段階であり、データを公表できる段階にない」と発言していたが、10(同22)年2月、同氏は「アグニ5」が射程5,000km以上のICBMに分類され、試験発射を1年以内に実施する計画であると記者に述べている。
8)09(平成21)年3月、インドは、東部オリッサ州のベンガル湾沿岸で、迎撃ミサイルによる弾道ミサイル撃墜実験を行い、成功したと発表した。なお同種の実験は、06(同18)年および07(同19)年12月にも行われ、共に成功を収めたとしている。
9)08(平成20)年2月、インドを訪問したゲイツ米国防長官は、記者会見で、「我々はインドとのミサイル防衛の協議において、非常に初期の段階にある。そして、現時点で、我々はミサイル防衛の領域においてインドが必要とするものは何であるか、両者間のどのような協力がインドでその前進を推進する可能性があるかに関して共同の分析を行うことについて協議を開始しているところである」と発言している。