第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

6 地域の諸問題

 東南アジアでは、域内各国の協力関係が進展する一方で、依然として不安定要素も存在している。
 08(同20)年7月、プレアビヒア寺院周辺の国境未画定地域の扱いをめぐり、カンボジアとタイとの間で緊張が高まり、同年10月には対峙していた両国軍の間で銃撃戦が発生し、双方に死傷者が発生する事態に至った。その後は、両国の現地軍司令官が協議を行い、同寺院周辺で共同パトロールを行うことで合意し、事態の解決が試みられているが、これまで両国軍の間で散発的に銃撃戦が発生している。
 フィリピンでは、政府とイスラム系反政府勢力のモロ・イスラム解放戦線(MILF:Moro Islamic Liberation Front)が約40年にわたり武力衝突を繰り返してきたが、03(同15)年の停戦合意、04(同16)年からの国際監視団(IMT:International Monitoring Team)1の活動により、和平プロセスが進展した。しかし、08(同20)年8月以降、懸案であった土地問題解決をめぐり武力衝突が再び激化し、主要メンバーであるマレーシアがIMTから撤退したため、同年11月末にIMTは活動を中止した。その後、同年12月に、フィリピン政府とMILFは、IMTを再結成することで合意し、和平合意に向けた交渉が再開した。これを受け、10(同22)年2月にはわが国およびマレーシアがIMTに要員を再派遣し、IMTは正式にミンダナオ島での活動を再開した2。今後、ミンダナオ和平の最終合意が早期に達成することが望まれる3
 東ティモールでは、06(同18)年4月の治安悪化を受け、オーストラリア、ニュージーランド、ポルトガル、マレーシアの4か国が国際治安部隊(ISF:International Stabilisation Force)を現地に派遣し4、同年8月には、国連東ティモール統合ミッション(UNMIT:United Nations Integrated Mission in Timor-Leste)が設立された5
 08(同20)年2月、ラモス・ホルタ大統領およびグスマン首相に対する武装勢力による襲撃事件が発生したものの、その後、安定化に向けた政治的・経済的努力が続けられ、現在、治安情勢は安定している。しかし、国家誕生間もない東ティモールの平和と安定、発展を促進する観点から、同ミッションが重要であるとの認識の下、UNMITのマンデートは来年2月26日まで延長された。なお、東ティモールは12(同24)年までのASEAN加盟を目標としている。


 
1)IMTはマレーシアを団長に、ブルネイ、リビア、日本から構成されており、03(平成15)年7月のフィリピン政府とMILFの停戦合意に基づき、04(同16)年10月よりミンダナオにおいて停戦監視活動を行っていた。

 
2)再開したIMTの構成国は、マレーシア、日本、ブルネイ、リビアであり、NGOも参加している。

 
3)わが国は、09(平成21)年12月、日本、英国、トルコ、および4つのNGOから構成される国際コンタクト・グループ(ICG:International Contact Group)への参加を決定している。ICGは、ミンダナオ和平当事者への助言、和平交渉へのオブザーバー参加等を行っている。

 
4)現在は、オーストラリア(約400名)、ニュージーランド(約150名)の2か国で国際治安部隊を構成している。

 
5)UNMITは10(平成22)年2月の国連安保理決議第1912号により、11(同23)年2月26日までマンデートが延長されている。10(同22)年3月末現在、40か国から1,553名が派遣されている。


 

前の項目に戻る     次の項目に進む