第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

2 軍事態勢

 核戦力を含む戦略攻撃兵器については、10(同22)年4月、オバマ米大統領とメドヴェージェフ露大統領は、第1次戦略兵器削減条約(STARTI:Strategic Arms Reduction Treaty I)に代わる新たな戦略兵器削減条約に署名した。同条約は、条約発効後7年までに双方とも配備戦略弾頭1を1,550発まで、配備運搬手段を700基・機まで削減することなどを内容としている。さらに10(同22)年5月には、米国は核不拡散と核軍縮のために核弾頭の保有数の透明性を高める必要があるとし、5,113発の核弾頭を保有していると公表した2
 08(同20)年9月および同年12月には、核兵器管理に関する特別委員会による報告書が公表された3。これに関連し、空軍は同年10月に発表した「空軍核任務の再生」に基づき、09(同21)年8月に核兵器対応の爆撃機とすべてのICBMを統括するグローバル打撃コマンドを新編するなどの措置をとった。
 陸上戦力は、陸軍約55万人、海兵隊約20万人を擁し、米国のほかドイツ、韓国、日本などに戦力を前方展開している。陸軍は、長期化する海外における事態対処作戦に対応するため、戦闘部隊と支援部隊を、旅団規模のモジュール化4された部隊に再編成しつつある。今回のQDRは、陸軍はあらゆる事態に対応する能力を保ちつつ、反乱鎮圧作戦、安定化作戦、対テロ戦に焦点をあてるとしている。海兵隊は、海外における事態対処作戦で大きな役割を果たしている特殊作戦部隊を強化しており、非正規型戦闘への対処能力の向上に努めている。
 海上戦力は、艦艇約1,010隻(うち潜水艦約70隻)約603万トンの勢力を擁し、大西洋に第2艦隊、地中海に第6艦隊、ペルシャ湾、紅海および北西インド洋に第5艦隊、東太平洋に第3艦隊、南米およびカリブ海に第4艦隊、西太平洋とインド洋に第7艦隊を展開している。今回のQDRは、海軍は前方展開による強力なプレゼンスと戦力投射能力を引き続き保つとしている。
 航空戦力は、空軍、海軍と海兵隊を合わせて作戦機約3,820機を擁し、空母艦載機を洋上に展開するほか5、ドイツ、英国、日本や韓国に戦術航空戦力の一部を前方展開している。今回のQDRは、第5世代戦闘機の増加によって空軍の生存能力がさらに向上するとしているほか、パートナー国の治安部隊への支援作戦を強化するとしている。
 遠隔地に部隊を展開する機動戦力についても、C-5輸送機の近代化推進などによって輸送能力の向上を図るとともに、各戦域における装備の事前集積に努めるとしている6
 ミサイル防衛(MD:Missile Defense)については、オバマ政権は09(同21)年9月、MDシステムの一部をチェコ及びポーランドに配備するというブッシュ政権による計画を見直し、11(同23)年頃から20(同32)年頃までに弾道ミサイル防衛(BMD:Ballistic Missile Defense)能力を段階的に向上させ、最終的にはICBMにも対応する包括的なMD体制を構築するという新たな計画を発表した7。オバマ政権は見直しの理由として、イランの短・中距離弾道ミサイルの脅威が予測よりも急速に進展している一方、ICBMの開発は予測よりも遅延していること、迎撃ミサイルやセンサーといったミサイル防衛に関する能力と技術が顕著に向上していることを挙げている8
 米国は10(同22)年2月に「弾道ミサイル防衛見直し」(BMDR:Ballistic Missile Defense Review)を公表し、米国本土に対するICBMの脅威を正確に予測することは困難であるが、北朝鮮とイランの動向に注目すべきであるとする一方、他の地域における米軍および同盟国を攻撃できる短・中距離弾道ミサイルの開発は進展しており、明白な脅威となっているとした。その上で、米国本土の防衛については地上配備型迎撃ミサイルにより北朝鮮やイランのICBMに対処するとしている。他の地域の防衛については、MDシステムへの投資を拡大しつつ、同盟国との協力と負担の適切な共有のもと、それぞれの地域に応じてBMD能力を段階的に向上させるアプローチ(PAA:Phased Adaptive Approach)をとっていくとしている。
 また、米軍は情報収集や通信の多くを宇宙システムに依存するようになっている。10(同22)年、米国は「国家宇宙政策」を公表し、宇宙空間の持続可能性、安定性、自由なアクセスおよび使用は、米国の国益にとって死活的なものであるとし、宇宙空間の安定性の向上などが米国の宇宙政策の目標であるとした。国家安全保障のための宇宙利用については、宇宙における状況認識能力を強化するとともに、米国や同盟国の宇宙システムへの攻撃の試みに対し抑止、防衛、打破する能力を強化していくなどとしている。
 さらに、サイバー空間での脅威の増大に対処するために、ゲイツ国防長官は09(同21)年6月にサイバーコマンドの創設を決定した。サイバーコマンドはサイバー空間における作戦を統括することとされており、10(同22)年5月に初期運用を開始しており、10月から本格運用を開始することとされている9


 
1)配備済みのICBMおよびSLBMに搭載した弾頭ならびに配備済みの重爆撃機に搭載した核弾頭。

 
2)09(平成21)年9月30日現在の数値であり、配備・非配備、戦略・非戦略のすべての核弾頭を含むとしている。また、米国は同時に、62(昭和37)年以降の毎年の核弾頭保有数と94(平成6)年以降の毎年の廃棄核弾頭数を公表した。

 
3)空軍の核管理に関係した2件の事故を契機に、08(平成20)年6月に核兵器管理諮問委員会が設置された。同委員会は、同年9月に空軍の核兵器管理に関する報告書を発表しており、また、同年12月には国防省全体(空軍を除く)の同種報告書を発表した。

 
4)陸軍の組織改革は、これまでのピラミッド型の編制(軍、軍団、師団および旅団)を、指揮・統制機能を有する司令部組織と自己完結的な実動部隊(旅団規模)に再編し、任務の目的・規模に応じ、それら司令部組織と実動部隊を組み合わせ、さまざまな事態に迅速かつ柔軟に対応できるようにすることを目的としている。

 
5)2011会計年度予算教書においては、次期爆撃機の研究と爆撃機の生産基盤の維持のための予算が計上されている。

 
6)2011会計年度予算教書において、C-17輸送機は、現在配備されている、あるいは生産中の223機で要求を満たすため、生産を終了することとされている。

 
7)今後、細部やタイミングが変更される可能性があるとしつつ、11(平成23)年までにスタンダード・ミサイルSM-3ブロックIA、15(同27)年までにSM-3ブロックIB、18(同30)年までにSM-3ブロックIIA、20(同32)年までにSM-3ブロックIIBを配備することにより、BMD能力を4段階で向上させる計画である。

 
8)ゲイツ国防長官とカートライト統合参謀本部副議長によるブリーフィング(09(平成21)年9月17日)。

 
9)サイバー関連部隊として、これまで艦隊サイバーコマンド、第24空軍、海兵隊サイバー空間コマンドが新編されているほか、陸軍サイバーコマンドが10(平成22)年10月までに新編される。


 

前の項目に戻る     次の項目に進む