第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

2 米国との関係

 米中間には、中国の人権問題や大量破壊兵器の拡散問題、台湾問題、貿易問題など、種々の懸案が存在している。他方で、中国側として、安定的な米中関係は経済建設を行っていく上で必須であり、今後もその存続を望んでいくものと考えられる。
 米国は、世界経済の回復、気候変動、大量破壊兵器の拡散問題などの国際的課題について、中国が国際社会と協力して責任ある主導的な役割を担うことを歓迎するとしている。また、中国の軍事力近代化を注視するとし、米中間に意見の一致しない問題があることを認め、人権問題などについて米国の立場を率直に主張する旨を明らかにする一方、米中間の意見の相違によって両国の利益に関わる課題についての協力が妨げられるべきではないともしている3
 これに対し、中国側は、胡錦濤国家主席が、21世紀における積極的、協力的かつ全面的な米中関係をともに構築する旨を表明しており、幅広い分野での実利的協力を通じて米中関係の安定的発展を重視する姿勢を示している。
 米中間では、軍事面での交流も進展し、各種の政策対話が行われてきたほか、米軍の演習へのオブザーバーの派遣、海軍艦艇の相互訪問の機会における共同訓練が行われ、08(同20)年4月には両国の国防当局間にホットラインが開設された。しかしながら、中国は、米中両軍間の関係を発展させることを望みつつも、両軍関係の健全な発展を実現するには、台湾への武器売却、米軍艦艇・航空機による中国の排他的経済水域における活動、両軍交流における法的障害、米側による対中戦略的信頼の欠如といった問題を解決する必要があるとも主張しており4、08(同20)年10月および10(同22)年1月に米国防省が台湾への武器売却を議会に通知した際には、米国との主要な軍事交流の中止を通告するなど、米中間の軍事交流には不安定な側面もみられる。これに対して、米国は、中国の軍事力の発展や意思決定過程の透明性の欠如などは中国の将来の行動と意図について疑問を抱かせるものであり、米中関係は、信頼を増進し、誤解を減らすプロセスによって下支えする必要があるとしており5、軍事交流においても、軍事交流がたびたび中断される状況を改善し、より安定的な意思疎通のチャンネルを維持できる関係の構築を目指すとみられる。


 
3)米国「国家安全保障戦略」(10(平成22)年5月)。

 
4)ゲイツ米国防長官との会談における徐才厚(じょ・さいこう)中央軍事委員会副主席の発言(09(平成21)年10月)。

 
5)米国「4年ごとの国防計画見直し」(QDR)(10(平成22)年2月)。


 

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