第II部 わが国の防衛政策の基本と防衛力整備 

資料7 「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」報告書(抄)

4類型に関する本懇談会の提言


1)公海における米艦防護については、厳しさを増す現代の安全保障環境の中で、我が国の国民の生命・財産を守るためには、日米同盟の効果的機能が一層重要であり、日米が共同で活動している際に米艦に危険が及んだ場合これを防護し得るようにすることは、同盟国相互の信頼関係の維持・強化のために不可欠である。個別的自衛権及び自己の防護や自衛隊法第95条に基づく武器等の防護により反射的効果として米艦の防護が可能であるというこれまでの憲法解釈及び現行法の規定では、自衛隊は極めて例外的な場合にしか米艦を防護できず、また、対艦ミサイル攻撃の現実にも対処することができない。よって、この場合には、集団的自衛権の行使を認める必要がある。このような集団的自衛権の行使は、我が国の安全保障と密接に関係する場合の限定的なものである。

2)米国に向うかもしれない弾道ミサイルの迎撃については、従来の自衛権概念や国内手続を前提としていては十分に実効的な対応ができない。ミサイル防衛システムは、従来以上に日米間の緊密な連携関係を前提として成り立っており、そこから我が国の防衛だけを切り取ることは、事実上不可能である。米国に向かう弾道ミサイルを我が国が撃ち落す能力を有するにもかかわらず撃ち落さないことは、我が国の安全保障の基盤たる日米同盟を根幹から揺るがすことになるので、絶対に避けなければならない。この問題は、個別的自衛権や警察権によって対応するという従来の考え方では解決し得ない。よって、この場合も集団的自衛権の行使によらざるを得ない。また、この場合の集団的自衛権の行使による弾道ミサイル防衛は、基本的に公海上又はそれより我が国に近い方で行われるので、積極的に外国の領域で武力を行使することとは自ずから異なる。

3)国際的な平和活動における武器使用について、国連PKO活動等のために派遣される自衛隊に認められているのは、自己の防護や武器等の防護のためのみとされる。従来の憲法解釈及び現行法の規定では、国連PKO活動等においても、自衛隊による武器使用は、相手方が国又は国に準ずる組織である場合には、憲法で禁止された武力の行使に当たるおそれがあるので、認められないとされてきたため、自衛隊は、同じ国連PKOに参加している他国の部隊や要員へのいわゆる駆け付け警護及び国連のPKO任務に対する妨害を排除するための武器使用を認める国際基準と異なる基準で参加している。こうした現状は、常識に反し、国際社会の非難の対象になり得る。国連PKO等の国際的な平和活動への参加は、憲法第9条で禁止されないと整理すべきであり、自己防護に加えて、同じ活動に参加している他国の部隊や要員への駆け付け警護及び任務遂行のための武器使用を認めることとすべきである。ただし、このことは、自衛隊の部隊が、戦闘行動を主たる任務としてこのような活動に参加することを意味するものではない。

4)同じPKO活動等に参加している他国の活動に対する後方支援について、従来、「他国の武力行使と一体化」する場合には、これも憲法第9条で禁止される武力の行使に当たるおそれがあるとされてきた。しかし、後方支援がいかなる場合に他国による武力行使と一体化するとみなすのか、「戦闘地域」「非戦闘地域」の区分は何か等、事態が刻々と変わる活動の現場において、「一体化」論はこれを適用することが極めて困難な概念である。集団安全保障への参加が憲法上禁じられていないとの立場をとればこの問題も根本的に解決するが、その段階に至る以前においても、補給、輸送、医療等の本来武力行使ではあり得ない後方支援と支援の対象となる他国の武力行使との関係については、憲法上の評価を問うこれまでの「一体化」論を止め、他国の活動を後方支援するか否か、どの程度するかという問題は、政策的妥当性の問題として、対象となる他国の活動が我が国の国民に受け容れられるものかどうか、メリット・デメリットを総合的に検討して政策決定するようにすべきである。

 

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