第III部 わが国の防衛のための諸施策 

資料44 イラク人道復興支援特措法に基づく対応措置に関する基本計画

平成15年12月9日 閣議決定
平成18年12月26日 一部改正

1 基本方針
 平成15年3月20日、米国を始めとする国々は、イラクが国際社会の平和と安全に与えている脅威を取り除くための最後の手段として、イラクに対する武力行使を開始した。その後、イラクにおける主要な戦闘は終結し、国際社会は、同国の復興支援のために、積極的に取り組んできている。
 イラクが、主権・領土の一体性を確保しつつ、平和な民主的国家として再建されることは、イラク国民や中東地域の平和と安定はもとより、石油資源の9割近くを中東地域に依存する我が国を含む国際社会の平和と安全の確保にとって極めて重要である。
 このため、我が国は、イラクがイラク人自身の手により一日も早く再建されるよう、国際連合安全保障理事会決議1483及び決議1511により表明された国際社会の意思を踏まえ、「イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法」(平成15年法律第137号。この基本計画において、「イラク人道復興支援特措法」という。)に基づき自衛隊の部隊をムサンナー県等に派遣し、自衛隊による人道復興支援活動と政府開発援助(ODA)による支援を「車の両輪」として、主体的かつ積極的に、できる限りの支援を行ってきた。また、決議1546に示されているとおり、イラクに完全な主権が回復され、イラクの本格的な復興に向けた新たな局面が開かれる中、このようなイラク人や国際社会の取組を支え、イラクの国家再建が着実に進展するよう、一層の支援を継続してきた。こうした国際的支援の下、新たなイラク憲法に基づき国民議会選挙が実施され、新政府が発足し、決議1546等に明示された政治プロセスは完了した。また、イラクの治安部隊が育成され多国籍軍からの治安権限移譲プロセスも進行するなど、民主的な政府の下でイラク人自身による自立的な復興に向けての本格的な第一歩が踏み出された。今後、我が国としては、これまでの復興支援の成果を着実に根根付かせるとともに、イラクとの幅広い長期的なパートナーシップの構築に向け取り組んでいくが、イラク政府の要請に基づき多国籍軍の権限を1年間延長する決議1723が採択されるなど、国連及び多国籍軍が依然イラクへの支援を継続していることも踏まえ、イラク人道復興支援特措法に基づき、引き続き人道復興支援活動を中心とした対応措置を実施することとする。
2 人道復興支援活動の実施に関する事項
(1)人道復興支援活動に関する基本的事項
 そもそも四半世紀にわたる圧政により疲弊し社会基盤整備が遅れているイラクにおいては、平成15年3月の武力行使を経て、政権が崩壊し、住民が困難な状況に置かれ、人道復興支援の必要性は、極めて大きなものとなった。特に、医療に関しては、資機材を含め病院の運営・維持管理等の面で不十分な状況となった。また、電力や水の供給に関しては、国全体としての供給網が十分に機能し得る状況になく、地域によっては大きな課題となっていた。
 したがって、このような分野を中心に、早急な支援が必要であり、さらには、こうした当面の課題の解決のための支援に加え、より本格的な社会基盤の整備につながる支援も必要と判断した。
 かかる状況を踏まえ、我が国は、イラク人道復興支援特措法に基づき陸上自衛隊の部隊をムサンナー県に派遣し、人道復興支援活動等に当たらせるとともに、航空自衛隊の部隊による人道復興関連物資等の輸送を実施してきた。同県においては、約2年半に及ぶ医療、給水、学校・道路等公共施設の改修など多岐にわたる陸上自衛隊の部隊の活動とODAにより、現地の生活基盤の整備、雇用の創出など目に見える成果が生まれたため、応急復旧的な支援措置が必要とされる段階は基本的に終了し、イラク人自身による自立的な復興の段階に移行したものと考えられる。このため、平成18年6月20日に陸上自衛隊の部隊によるイラク国内における対応措置の終結を決定し、同年7月25日に人道復興支援活動等を実施する部隊が、同年9月9日に対応措置の終結に係る附帯業務を実施する部隊が、それぞれ帰国を完了したところである。
 一方、航空自衛隊の部隊については、国連からの要請も踏まえ、以下のとおり、引き続き人道復興支援活動を実施する。
 なお、かかる活動を円滑に実施し、現地社会の人々の生活の安定と向上等に寄与するため、自衛隊の部隊等及びイラク復興支援職員は、相互に連携を密にするとともに関係在外公館とも密接に連携して、一致協力してイラクの復興支援に取り組むこととする。
(2)人道復興支援活動の種類及び内容
ア 自衛隊の部隊等による人道復興支援活動
 人道復興関連物資等の輸送(イラク人道復興支援特措法第3条第2項第5号に規定する活動)を実施する。なお、当該活動については、活動の性格、態様等も考慮した安全対策を講じた上で、慎重かつ柔軟に実施することとする。
イ イラク復興支援職員による人道復興支援活動
 イラク復興支援職員による人道復興支援活動の種類及び内容は、次のとおりとし、治安状況を十分に見極め、活動の性格、態様等も考慮した安全対策を講じ、活動を実施する職員の安全の確保を前提として、慎重かつ柔軟に実施することとする。
(ア)医療(イラク人道復興支援特措法第3条第2項第1号に規定する活動)
 イラク国内の医療環境を改善するため、イラク国内の主要な病院の機能を立て直すことを目指し、その運営・維持管理について、イラク人医師等に対して助言・指導等を行う。
(イ)利水条件の改善(イラク人道復興支援特措法第3条第2項第5号に規定する活動)
 給水状況、取水源等について調査の上、住民自ら維持できる浄水・給水設備の設置等の建設活動を実施する。
(3)人道復興支援活動を実施する区域の範囲及び当該区域の指定に関する事項
ア 自衛隊の部隊等による人道復興支援活動を実施する区域の範囲及び当該区域の指定に関する事項
(ア)自衛隊の部隊等による人道復興支援活動は、現に戦闘行為が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる地域において実施されるものである。また、当該活動の実施に当たっては、自衛隊の部隊等の安全が確保されなければならない。
 このため、防衛大臣は、自衛隊の部隊等が人道復興支援活動を実施する区域を(イ)に定める範囲内で指定するに当たっては、実施する活動の内容、安全確保面を含む諸外国及び関係機関の活動の全般的状況、現地の治安状況等を十分に考慮するものとする。その際、治安状況の厳しい地域における活動については、状況の推移を特に注意深く見極めた上で実施するものとする。
(イ)自衛隊の部隊等が人道復興支援活動を実施する区域の範囲は、クウェート国内の飛行場施設及びイラク国内の飛行場施設(バスラ飛行場、バグダッド飛行場、バラド飛行場、モースル飛行場、アリ(タリル)飛行場、エルビル飛行場等)に、我が国の領域からこれらに至る地域に所在する経由地、人員の乗降地、物品の積卸し・調達地、部隊の活動に係る慣熟訓練のための地域、装備品の修理地及びこれらの場所又は地域の間の移動に際して通過する地域を加えたものとする。
 なお、これに加え、派遣される自衛隊の部隊等の隊員のうち当該部隊の業務に附帯する業務として部隊の活動の安全かつ適切な実施に必要な情報の収集と連絡調整を行う者は、バグダッドの多国籍軍の司令部施設並びにイラクと国境を接する国及びペルシャ湾の沿岸国並びにこれらの場所又は地域相互間及びこれらの場所又は地域と前段に規定する飛行場施設との間で行われる移動と連絡に際して通過する場所又は地域において、当該業務を実施することができることとする。
イ イラク復興支援職員による人道復興支援活動を実施する区域の範囲及び当該区域の指定に関する事項
(ア)イラク復興支援職員による人道復興支援活動は、現に戦闘行為が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる地域において実施されるものである。また、当該活動の実施に当たっては、イラク復興支援職員の安全が確保されなければならない。
 このため、内閣総理大臣は、イラク復興支援職員が人道復興支援活動を実施する区域を(イ)に掲げる範囲内で指定するに当たっては、実施する活動の内容、安全確保面を含む諸外国及び関係機関の活動の全般的状況、現地の治安状況等を十分に考慮するものとする。その際、治安状況の厳しい地域における活動については、状況の推移を特に注意深く見極めた上で実施するものとする。
(イ)イラク復興支援職員が人道復興支援活動を実施する区域の範囲は、次に掲げる場所又は地域に、我が国の領域からこれらに至る地域に所在する経由地及びこれらの場所又は地域の間の移動に際して通過する地域を加えたものとする。
(a)医療
 イラク国内における病院・医療施設
(b)利水条件の改善
 ムサンナー県を中心としたイラク南東部
(4)人道復興支援活動を外国の領域で実施する自衛隊の部隊等の規模及び構成並びに装備並びに派遣期間
ア 規模及び構成並びに装備
(2)アに掲げる人道復興関連物資等の輸送を行うための航空自衛隊の部隊は、輸送機その他の輸送に適した航空機8機以内とし、その人員は、これらの航空機の運航等に要する数の範囲内とする。
 また、この部隊は、部隊の規模に応じ安全確保に必要な数の拳銃、小銃及び機関拳銃及び活動の実施に必要なその他の装備を有するものとする。ただし、装備の交換を行う場合は、当該交換に必要な数を加えることができる。
イ 派遣期間
 平成15年12月15日から平成19年7月31日までの間とする。
 なお、この期間内においても、部隊の活動については、イラク新政府による有効な統治の確立に向けた政治状況の進展、現地の治安に係る状況、国連及び多国籍軍の活動状況及び構成の変化など諸事情を、政府としてよく見極めつつ、イラクの復興の進展状況等を勘案して、適切に対応する。
(5)国際連合等に譲渡するために関係行政機関がその事務又は事業の用に供し又は供していた物品以外の物品を調達するに際しての重要事項
 イラク復興支援職員が行う利水条件の改善に係る必要な浄水・給水設備については、政府がこれを調達することとする。
(6)その他人道復興支援活動の実施に関する重要事項
ア 人道復興支援活動を実施する区域の指定を含め、当該活動を的確に実施することができるよう、我が国は、国際連合、人道復興関係国際機関、イラクを含む関係国等と十分に協議し、密接に連絡をとるものとする。
イ イラク復興支援職員による(2)イに掲げる人道復興支援活動については、治安状況を十分に見極め、実施の態様、職員の宿泊場所、警備、携行する器材等も含め安全の確保に十分に配慮し、安全の確保を前提として、平成15年12月15日から平成19年7月31日までの間の必要な期間において、慎重かつ柔軟に実施することとする。
ウ 政府として、イラクの社会基盤の整備について、電力施設、セメント工場等の基幹産業施設及び生活関連施設に関し、安全の確保を前提として必要な調査を行い、その結果を踏まえて、イラク復興支援職員による当該施設の復旧・整備等を目指して努力することとする。
エ 自衛隊の部隊等による(2)アに掲げる人道復興支援活動の実施に当たっては、政府として、派遣期間を通じて、現地の治安に係る状況、多国籍軍の動向等を勘案しながら、安全の確保のため、必要に応じ適切な措置を講じることとする。
3 安全確保支援活動の実施に関する事項
(1)安全確保支援活動に関する基本的事項、同活動の種類及び内容、同活動を実施する区域の範囲及び当該区域の指定に関する事項並びに同活動を外国の領域で実施する自衛隊の部隊等の規模及び構成並びに装備並びに派遣期間
ア 我が国は、1に定める基本方針のとおり、人道復興支援活動を中心とした対応措置を実施することとするが、イラク国内における安全及び安定を回復するために国際連合加盟国が行う活動を支援するため、人道復興支援活動を行う2(4)アに掲げる自衛隊の部隊は、その活動に支障を及ぼさない範囲で、イラク人道復興支援特措法第3条第3項に規定する医療、輸送、保管、通信、建設、修理若しくは整備、補給又は消毒を行うことができる。
イ 安全確保支援活動を実施する区域の範囲は、2(4)アに掲げる自衛隊の部隊が人道復興支援活動を実施するものとして定めた2(3)アに掲げる区域の範囲とする。
 自衛隊の部隊による安全確保支援活動は、現に戦闘行為が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる地域において実施されるものである。また、当該活動の実施に当たっては、自衛隊の部隊の安全が確保されなければならない。
 このため、防衛大臣は、自衛隊の部隊が安全確保支援活動を実施する区域を上記の範囲内で指定するに当たっては、実施する活動の内容、安全確保面を含む諸外国及び関係機関の活動の全般的状況、現地の治安状況等を十分に考慮するものとする。その際、治安状況の厳しい地域における活動については、状況の推移を特に注意深く見極めた上で実施するものとする。
(2)その他安全確保支援活動の実施に関する重要事項
ア 安全確保支援活動を実施する区域の指定を含め、当該活動を的確に行うことができるよう、我が国は、国際連合、人道復興関係国際機関、イラクを含む関係国等と十分に協議し、密接に連絡をとるものとする。
イ 自衛隊の部隊等による(1)アに掲げる安全確保支援活動の実施に当たっては、政府として、派遣期間を通じて、現地の治安に係る状況、多国籍軍の動向等を勘案しながら、安全の確保のため、必要に応じ適切な措置を講じることとする。
4 対応措置の実施のための関係行政機関の連絡調整及び協力に関する事項
 イラク人道復興支援特措法に基づく対応措置を総合的かつ効果的に推進するとともに、同法に基づき派遣される自衛隊の部隊及びイラク復興支援職員の安全を図るため、下記の事項を含め、内閣官房を中心に、防衛省・自衛隊及び内閣府並びに外務省を始めとする関係行政機関の緊密な連絡調整を図り、必要な協力を行うものとする。
(1)派遣された自衛隊の部隊及びイラク復興支援職員並びに関係在外公館は、活動の実施と安全確保に必要な情報の交換を含め、連絡を密にするように努め、一致協力してイラクの復興支援に取り組むものとする。
(2)関係行政機関は、その所掌事務の遂行を通じて得られた、自衛隊の部隊又はイラク復興支援職員がイラク人道復興支援特措法に基づく活動を実施する区域の範囲及びその周辺における諸外国の活動の全般的状況、現地の治安状況等に関する情報その他の同法に基づく活動の実施と安全確保に必要な情報に関し、相互に緊密な連絡をとるものとする。
(3)関係行政機関の長は、内閣総理大臣又は防衛大臣から、イラク人道復興支援特措法に基づく活動の実施に必要な技術、能力等を有する職員の派遣、所管に属する物品の管理換えその他の協力の要請があったときは、その所掌事務に支障を生じない限度において協力を行うものとする。
(4)内閣総理大臣は、イラク復興支援職員の採用に当たり、関係行政機関若しくは地方公共団体又は民間の団体の協力を得て、広く人材の確保に努めるものとし、関係行政機関の長は、このために必要な協力を行うものとする。
(5)外務大臣の指定する在外公館長は、外務大臣の命を受け、イラク人道復興支援特措法に基づく活動の実施と安全確保のため必要な協力を行うものとする。

 

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