第III部 わが国の防衛のための諸施策 

2 自衛隊の訓練


(1)各自衛隊の訓練
 各自衛隊の部隊などで行う訓練は、隊員それぞれの職務の練度向上を目的とした隊員個々の訓練と、部隊の組織的な行動を練成することを目的とした部隊の訓練とに大別される。
 隊員個々の訓練は、職種などの専門性や隊員の能力に応じて個別的、段階的に行われる。部隊の訓練は、小部隊から、大部隊へと訓練を積み重ねながら、部隊間での連携などの大規模な総合訓練も行っている。

参照> 資料69

 また、このようなわが国の防衛のための訓練に加え、近年の自衛隊の任務の多様化に対応した訓練の充実にも努めている。

参照> 資料70

(2)統合訓練
 わが国への武力攻撃などが発生した場合に、自衛隊が、その能力を最も効果的に発揮するためには、平素からの、陸上・海上・航空自衛隊の統合訓練が重要である。このため自衛隊は、従来から二以上の自衛隊が協同する統合訓練を行ってきたが、06(平成18)年3月の統合運用体制への移行にともない、統合訓練をさらに充実・強化している5

参照> 資料69

(3)教育訓練の制約と対応
 自衛隊の訓練は、可能な限り実戦に近い環境下で行うよう努めており、さまざまな施設・設備6を有しているが、制約も多い。
 特に、訓練を行う演習場や空域・海域、射場などが、必ずしも十分な広さとはいえないこと、地域的に偏っていること、使用できる時期に制限があることなどの制約7は、装備の近代化などにともない、ますます拡大する傾向にある。また、実戦的な訓練の一つとして実施する電子戦8環境下での訓練についても、電波干渉の防止の観点から制約がある。
 各自衛隊は、こうした制約に対応するため、限られた国内演習場などを最大限に活用しているほか、国内では得られない訓練環境を確保できる米国およびその周辺海域において、実射訓練や日米共同訓練を行うことなどを通じて、より実戦的な訓練を行うよう努めている。

参照> 資料71

(4)安全管理
 自衛隊の任務が、わが国の防衛であることなどから、訓練や行動に危険がともなうことは避けられない。しかし、国民の生命や財産に被害を与えたり、隊員の生命を失うことなどにつながる各種の事故は、絶対に避けなければならない。
 安全管理は、不断の見直し、改善が不可欠であり、防衛省・自衛隊が一丸となって取り組むべき重要な課題である。防衛省・自衛隊では、今後も、平素からの艦艇・航空機の運航や射撃訓練時などにおける安全確保に最大限留意するとともに、海難防止や救難のための装備、航空保安無線施設の整備なども進めていくこととしている。

(5)護衛艦「あたご」と漁船「清徳(せいとく)丸」との衝突事案について
 本年2月19日に発生した護衛艦「あたご」と漁船「清徳(せいとく)丸」との衝突事件は、護衛艦が一方の当事者となって、2名が乗船する漁船を転覆させたものである。国民の生命・財産を守るべき自衛隊がこのような事故を起こしてしまい、誠に遺憾であるとともに、極めて重大なことであると認識している。
 事故発生後、直ちに「海上自衛隊事故調査委員会」を設置し、事故原因などの調査を行っており、3月21日には、それまでの調査で明らかとなった内容について、捜査に支障のない範囲で公表し、「あたご」全体の対応について、
1) 衝突前の見張員の配置やCICの当直員の配置状況も含め、艦全体として周囲の状況などについて見張りが適切に行われなかった。
2) 「清徳丸」を右舷に見ていることからして、「清徳丸」が「あたご」の右側から近接した可能性が高く、そうであれば「あたご」に避航の義務があったが、「あたご」は適切な避航措置をとっていない。また、衝突直前に「あたご」がとった措置は、回避措置として十分なものではなかった可能性が高い。
と評価したところである9。引き続き、防衛省・自衛隊を挙げて、調査を行い、諸対策の具体化に努め、再発防止に取り組んでいく。
 航行の安全は、自衛隊の艦艇か一般の船舶かを問わず最も重要なものである。自衛隊の艦艇についても、一般の船舶と同様に、海上交通安全のための一般的なルールである海上衝突予防法や特定の海域に適用される海上交通安全法が適用され、これについて教育訓練を行ってきている。
 「あたご」の事故当時の状況や事故原因は、海上保安庁の捜査や海難審判、当省の艦船事故調査委員会による事故調査などにおいて究明されることとなるが、この事故を受けた緊急の対策として、
1) 事故当日に防衛大臣から艦艇を運用する部隊の長に対して海上交通の安全の確保に関する法令の遵守・徹底、安全航行に関する運航体制の再確認と隊員に対する教育などを通達(「艦艇の安全航行について」)した。
2) この大臣通達を受け、2月28日、29日、海上自衛隊において、実任務などの緊急時の部隊運用を除き、全ての訓練作業を取り止め、艦艇のみではなく航空機も含め、当直態勢の再点検や見張りの連携要領など運航態勢の安全点検などを内容とする「運航安全に関する総点検」を行った。
3) 本事故の直前まで自動操舵としていたことに関して、自動操舵に係る内規を定めて、いかなる場合に誰の判断で自動操舵にできるのかをできるだけ明確にすべく検討を指示するとともに、(25日から)自衛艦隊においては、こうした内規を定めるまでの間、運航に係る配員の制約がある多用途支援艦を除く各艦艇の通常航海時における自動操舵機能の使用を禁止した。
 また、その後も、
1) 自動操舵装置などの運用の適正化を図るため、海上自衛隊において、自動操舵装置などの統一的な運用基準を定めることとした。
2) ボイスレコーダーによる音声記録や、レーダーが探知した船舶の航跡記録は、今般のような事故において、事後の調査・分析などに有用であることから、これらの情報を常時記録しうるよう装備・機能の付加などについて検討を進め、音声およびレーダー航跡の自動記録機能などを整備することとした。
3) なだしお事案以後、航行安全に関する基礎的技能の向上などを図るため毎年実施されている集中基礎訓練
について、訓練内容を充実させることとした。
 事故発生後の防衛大臣への報告については、発生から1時間半余り後の午前5時40分、内閣総理大臣への報告については、発生から2時間近く後の午前6時頃に第一報が報告されており、報告に遅れがあったと言わざるを得ない。
 このように、事故の発生から内閣総理大臣、防衛大臣までの報告に時間を要したことは、危機管理上極めて問題である。
 こうしたことから、事件・事故の報告などにかかわる通達を即日改正し、重大な事件・事故については、各幕僚長などが直接大臣、副大臣などに対して1時間以内に通報を行うことを明記した。さらに、3月には、1)防衛大臣などへの速報体制、2)官邸への速報体制、3)地方自治体への速報体制をさらに改善するため、これまでの通達を抜本的に見直して緊急事態などの速報にかかわる新たな通達を発出し、1)速報の対象となる事態を自衛隊の事件・事故のみならず、緊急事態全般に拡大し、緊急事態を具体的に例示する、2)官邸への報告を必ず行うこととし、連絡先を具体化する、3)新たに関係地方自治体などに対する通報について記述する、などの改善を行った。


 
5)わが国への直接の脅威を防止・排除するための演習である自衛隊統合演習、日米共同統合演習、弾道ミサイル対処訓練などのほか、国際平和協力活動などを想定した国際平和協力演習、統合国際人道業務訓練などがある。

 
6)たとえば、陸上自衛隊では、連隊・師団レベルの指揮・幕僚活動を演練するための指揮所訓練センター、中隊レベルなどの訓練を行うための富士訓練センターや市街地訓練場などである。

 
7)たとえば、戦車、対戦車ヘリコプター、ミサイル、長射程の火砲、地対空誘導弾(改良ホークやペトリオット)、地対艦誘導弾、魚雷などの射撃・発射訓練については、国内の射場が限られていたり、射程が長く国内では射撃ができないものがある。また、広大な訓練場を要する大部隊の演習、比較的浅い海域で行う掃海訓練や潜水艦救難訓練、早朝や夜間の飛行訓練などにも、さまざまな制約がある。

 
8)敵の電磁波を探知し、これを逆用し、あるいは、その使用効果を低下させ、または無効にするとともに、味方の電磁波の利用を確保する活動のこと。

 
9)<http://www.mod.go.jp/j/news/atago/pdf/siryou_080321.pdf>参照


 

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